スポーツ義足体験で「心の壁」とは何かを知る

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東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年を迎えました。大会の「ゴールドパートナー」を務める住宅設備大手「LIXIL(リクシル)」は、障害を持つ人への理解を深めてもらおうと、全国各地の小学校でスポーツ義足体験授業を行っています。17年に始めて以来、訪問先は200校を超えました。どんな授業なのか、取材しました。

思わぬ問いかけにタジタジになる子どもたち

「ユニバーサル・ラン」と銘打ったこの授業は、スポーツ義足をつけた選手が講師を務め、義足の体験と座学が実施されます。19年12月中旬には、220校目となる千葉県浦安市立見明川小学校の子どもたちが授業を受けました。

日常用の義足を見せる山下選手

この日の講師は、法政大4年の山下千絵選手(22)です。山下選手は小学生の頃、交通事故に遭い、左足の膝から下を切断。スポーツ義足をつけ、陸上短距離でパラリンピック出場を目指しています。

まずは、実物を見せながら日常用とスポーツ用の義足の違いを説明した山下選手。おもむろに、左膝と義足を覆っていたサポーターを脱ぎ、「触ってみる?」と子どもたちに膝先を向けました。

子どもたちの表情は硬くなり、誰も手を伸ばしません。笑顔でうながされ、ようやく何人かが膝に触れました。子どもたちが「スライムみたいにやわらかい!」「痛くないの?」と口にすると、ほかの子も山下選手を囲みます。さらに、膝先を動かしてみせると驚きの声が。いつの間にか子どもたちの緊張がほぐれ、山下選手との距離がぐっと縮まったようです。

実際に、スポーツ義足をつけた山下選手が全力疾走してみせる場面では、「すげー!」という声とともに拍手が湧きました。

歩くのもやっと…スポーツ義足を体験

いよいよ、子供たちがスポーツ義足の体験に挑戦します。

「空き缶をつぶすように踏みしめる」「太ももをしっかり上げる」。歩く時の二つのポイントを教わった子どもたち。ゆっくりと歩く練習を始めましたが、バランスをとるのが難しく、なかなか前に進めないようです。尻もちをつく子や、山下選手に支えられてやっと歩けた子もいました。

ダッシュや片足跳びにもチャレンジ。「違和感ある」「怖い……」「ウォォ、走れた!」などと、あちこちから歓声や悲鳴が聞こえます。体験した女児(11)は「義足はちょっと重たかった。思ったよりビヨンビヨンと跳びはねたのでびっくりしました」と生き生きとした表情で話していました。

山下選手がショートパンツをはかない理由

義足にまつわる知識を学ぶ座学では、事故に遭った時の記憶などを赤裸々に語る山下選手に、質問が相次ぎました。

「ショートパンツは、はきますか」という問いかけには、「ためらいなくはけるけど、義足をむき出しにすると周りのみんなが気を遣ってくれます。それは嫌だから、あえて見せないように、あまりはかないかな」と笑顔で答えました。

「スポーツ義足はずるいか?」というテーマで議論する一コマも。義足の選手の中には、高性能のスポーツ義足を装着したことで、健常者の選手を上回る驚異的な記録を出したケースもあるそうです。「初めてつけた時は立ち上がることもできなくて、慣れるまでに苦労しました。使いこなすにはたくさんの努力が必要だと分かったので、今はずるいと思いません」と山下選手は明かし、「『ずるい』も『ずるくない』もどちらも正解。みんながどうしてそう考えたかが大事です」と呼びかけました。

話を聞いた男児(10)は、「僕もずるいと思っていたけど、義足をつけたり千絵選手の話を聞いたりしたら、そうじゃないかもなあと意識が変わりました」と話してくれました。

本当の「心のユニバーサル」とは

「授業が進むと、必ず子どもたちの目が輝く瞬間があるんです。それは、義足の選手への心の壁が崩れた証拠。『よし、きた!』とガッツポーズしたくなっちゃいます」。そう話すのは、プロジェクトを担当しているLIXILオリンピック・パラリンピック戦略推進本部の水越雅美さんです。

水越雅美さん

今回の授業に限らず、選手と初めて対面した子どもの多くは、見てはいけないと思うのか、そっと目をそらし、遠慮気味に参加するそうです。ところが、心の壁が崩れた後は一気に積極的になり、質問が飛び交うといいます。

時には、「なんで足がないの?」といった大人が驚くような質問が飛び出すこともあります。でも、その素直な問いかけこそ、隔たりのない「心のユニバーサル」ではないかと水越さんは考えています。

「選手の中には、義足を指さした子どもより、『しっ、見ちゃダメ』という母親の言葉に傷ついた経験のある人もいます。そういった話や授業の様子を通して、子どもよりも大人に心の壁があるのではないかと気づかされました」と水越さん。

点字ブロックに興味を持つようになったり、ケガした人に手を差し伸べるようになったり。学校側から授業を受けた子どもの変化を聞くたびに、水越さんの心は躍ります。「体験して初めて気が付くこともあります。誰かを思いやる気持ちが、周りの誰かに広がっていくことで社会は変わっていくのではないでしょうか」

(取材/読売新聞メディア局 安藤光里)

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