東京パラリンピックまで1年、「障害者をサポートしたい」その思い実践へ

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2020年8月25日に開幕する東京パラリンピックまで1年となりました。パラスポーツへの関心が高まるとともに、障害者との共生社会を実現しようという動きが活発になっています。日本財団パラリンピックサポートセンターは、一般向けにパラスポーツを通じて行う教育セミナー「あすチャレ!Academy」を実施しています。視覚障害者や車いすユーザーを見かけたら、どう接すればいいのか――。障害者をサポートしたいという気持ちを、無理なく実践に移すヒントを学べます。

パラリンピアンの講義に熱心に耳を傾ける参加者ら

8月上旬、パラリンピアンが日ごろの練習に使っているトレーニング施設「日本財団パラアリーナ」(東京都品川区)で、障害者講師によるダイバーシティセミナーが開かれました。この日の講師は、パラ・パワーリフティングの山本恵理選手。全日本選手権(2019年)女子55キロ級で優勝、ヌルスルタン世界選手権(カザフスタン)で12位に入るなど東京大会出場が期待される選手です。セミナーには、夏休みの小中学生、主婦、社会人ら約30人が参加しました。

カリキュラムは、パラリンピックの歴史や意義を紹介する「レクチャー」に加え、実際に参加者がやってみる「体験プログラム」の2本立てです。12年ロンドン大会や16年リオデジャネイロ大会で、様々な障害を抱えたパラリンピアンが躍動する映像が流されると、思わず涙ぐむ参加者もいました。

視覚障害者に声をかけるコツ

視覚障害者に道案内する際は、自分の腕に手を添えてもらいます

体験プログラムは、たとえば、道端で白いつえを持った人が困っているという想定で、実際に視覚障害者に声をかける練習をします。一般の人に「大丈夫ですか?」と声をかけるのとは違い、ちょっとしたコツが必要です。

〈1〉「こんにちは」と声をかけ、そっと肩に手を触れます。(声だけでは、視覚障害者が自分に話しかけられているかどうか分かりません)

〈2〉簡単に自己紹介をして、「お手伝いすることはありますか?」と尋ねます。(「大丈夫ですか」と聞かれると、つい「大丈夫です」と返答してしまうことがあります)

〈3〉道案内をする場合は、自分のひじを持ってもらいます。(視覚障害者は腕を引っ張られると恐怖心を感じることもあります)

〈4〉半歩から1歩前を歩くようにし、安全を確認します。

〈5〉「5メートル先に交差点があります」「人が多いのでゆっくり行きましょう」などと周辺の情報を伝えながら歩きます。

このほかにも、視覚障害者にイスを勧める手順、階段や段差がある場所で車いすを持ち上げる方法など、すぐに実践できるサポートの仕方を学びました。

4人で車いすを持ち上げる方法も学びます

最善策は障害者本人に聞いてみる

「気になっていたカフェやレストランにせっかく出かけていっても、段差があるためにあきらめてしまうことがあります。入れる店の選択肢が限られていて残念な気持ちになります」と山本選手。そんな車いす利用者を見かけたら、こう聞いてほしいと言います。

「何かお手伝いできることはありますか?」

こう声をかけてもらえれば、「もう1人呼んでください」とお願いできるそうです。「車いすを持ち上げたことがない人でも、無理なく持ち上げる方法を伝えることができます」と山本選手。「もしやり方が分からなかったとしても、サポートしたいと思う気持ちがあれば、とまどわずにやり方を障害者本人に聞いてみるのが最善の策です」と力を込めます。

セミナー終了後、参加者が書いた宣言。「困っている人がいたら声をかけたい」

講義の最後には、こんなクイズも出されました。

「あなたは、明日車いすの彼女もしくは彼氏と初デートに行きます。行き先はどこを選びますか? その理由もお答えください」

〈A〉水族館
〈B〉映画館
〈C〉パラスポーツ観戦

各テーブルの5~6人が議論を重ね、それぞれ答えを決めます。
「障害者用のスペースが用意されてそうだから映画館がいい」
「映画館なら、暗くなったらそっと手をつなげる」
「バリアフリーになっていそうだから水族館。車いすの目線でも一緒に楽しめそう」
「やっぱり初デートはドライブに連れていってあげたいなあ……」
参加者から相手の障害を気づかうさまざまな意見が出されました。

講義の後、パラアリーナの施設見学もしました。
ロッカールーム、シャワー室、トイレなど普段お目にかかることのない障害者用の設備を見ることができます。車いすでも利用しやすいように、ロッカー下のスペースが空いています。これだと、ドアの開閉時に腕を伸ばさなくてもすみます。左右の向きが異なるトイレも用意。障害の状態によって、使いやすい向きが選べる工夫です。山本選手は「ロッカーもトイレも障害者のための特注品ではなく、市販されているものです。大事なのは何を選ぶかということなのです」と話します。

セミナーに母親の江里子さん(47)と参加した中学1年の森川奈華さん(13)は、「障害があっても、みんなで力を合わせて同じゴールに向かう姿に心を打たれた。この講義を聴いて、着替えや外出など障害者の苦労を初めて知った。もし困っている障害者を見かけることがあったら、勇気を出して自分から声をかけられるようになりたい」と話していました。

パラアリーナのロッカールーム。車いすで使いやすいように、ロッカー下部にスペースがある

【あなたも学べます】

「あすチャレ!Academy」は、同セミナーの公式HPから申し込むことができます。企業、学校、団体への講師派遣も行っています。団体申し込みの場合、一般向けが30~70人までで1回9万円。学生向けは、45~70人までで1回9万円、または、30~44人の場合は1人2000円。全国各地へさまざまな障害のある講師が派遣されます。