「逃げ恥婚」にみる新しい夫婦の形に「父親産休」が必要なワケ

スパイス小町

父親産休と呼ばれる「出生時育児休業制度」

ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)で、みくりと平匡(ひらまさ)を演じた新垣結衣さんと星野源さん、ご結婚おめでとうございます。「逃げ恥婚」は、コロナ禍に久しぶりの明るいニュースとなりましたね。

まるで2人の結婚を予期していたかのように、今年1月のスペシャルドラマ「逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!」は、みくりと平匡の「妊娠」「結婚」「子育て」が描かれました。

コロナ禍の「家族としか一緒にいられない」ステイホーム時代は、「誰と一緒に生きていきたいか」をはっきりとさせ、結婚を加速させると思います。ネットメディア企業のリブセンスが行った調査でも、コロナ禍に「恋愛・結婚への意欲が高まった」と回答した人が7割以上になりました。

「逃げ恥カップル」を祝福するムードが高まったのは、ドラマで描かれた「新しい結婚の形」「これからの夫婦のスタイル」が多くの支持を集めたからでしょう。

「逃げ恥」は、「『好き』の搾取」という言葉で「主婦の無償労働」を可視化しました。みくりと平匡の2人は解決策として、「稼ぐことも、家事も、子育ても」2人で話し合いながら「共同経営者」としてやっていくという結婚の形を選択しました。

「男性育休」を当たり前のように取ろうとする平匡に、職場の上司が「男が育休なんて」と嫌な顔をするシーンもありました。「そもそも休めない職場なんておかしい」という問題提起もされました。日本の「男女役割分担のステレオタイプ」を一つずつひもとき、「おかしくないですか」と突っ込んでくれる痛快なドラマでした。

子供が生まれただけでは父親になれない

ところで、みなさんはこの「男性育休」が早ければ2022年春から義務化されるのを知っていますか? 関連法案が閣議決定されたばかりです。

ただ、義務化と言っても、男性社員が「育休を取得する義務」ではなく、企業が「男性社員に育休を取ってもらえるように説明する義務」なのです。

男性育休の取得率は、2019年度は7.48%にとどまり、取得期間も5日未満がほとんどと短いものです。これでは、「育児修業」にもなりません。

今回の法改正のポイントは、「男性育休」とはまたちょっと違う「出生時育児休業制度」の新設です。これは、女性の「産休」に対応する男性の休暇で、「子の出生後8週間以内に4 週間まで取得することができる(2回まで分割可能)」と取得時期が決まっています。

取得しやすいように、申請の期限は「休業開始予定日の2週間前まで(通常の育休は1か月前まで)」となっています。通常の育休と同様に、雇用保険からの給付金も支給されます。

この制度のモデルは、フランスの「父親と子供の受け入れのための休暇制度」(2週間)です。私がこの「父親産休」と呼ばれる休暇制度の存在を知ったとき、日本にも導入されないかと考え、政府の会議などでプレゼンテーションをしました。

フランス政府は「子供が生まれただけでは父親になれない」という問題意識から、「父親ブートキャンプ(新入隊員訓練)」のような休暇制度を育休とは別に作ったのです。フランスは北欧ほど男性の育児が盛んではなく、男性育休は普及していませんでした。

ところが、2002年に制度化された「父親産休」は、今では対象男性の7割以上が取得しています。企業は子供を持った男性が「父親産休」を申請したら、拒否することはできません。その後の調査で、「産休」を取った父親は保育園のお迎えなどの育児に積極的で、子供との関わりが増えているという効果も報告されています。

子育ては「長期間の事業」です。軌道に乗るまでの大事なスタートアップ期は、しっかりと夫婦2人で過ごしてほしい――。男性を2 週間で父親にする「父親産休」は、果たして日本でうまくいくのでしょうか? 

女性社員が1年間の育休を取ることは珍しくなくても、男性社員が妻の出産で2週間単位の産休を取るなんて想像できないという企業も多いと思います。

女性たちからも、夫に対して「どうせ役に立たないのだから、休まれると家事が増えるだけ。それより稼いでほしい」(「パパはゴロゴロ問題」と呼んでいます)、「2週間休むより、普段から早く帰ってきてほしい」などの声があります。

しかし、「女性だけが子育てをする」というこれまでの風土を変えるために、父親産休は効果的な制度だと思います。男性の育休につきものの「パパはゴロゴロ問題」を解決するために、“子育て事業”のスタートを「両親学級」などの教育とセットにした提案もされています。

すでに「男性社員1か月以上の育児休業」を実施している積水ハウス(大阪市)は、休業前に業務の引継ぎを徹底することで、効率化が進み、仕事の属人化が減る好影響も見られました。

男性社員が育休を取る場合、夫婦で子育てをどうやっていくかという計画書を作り、妻の同意とサインが必要となります。家庭と会社の両方で、男性を父親にするための段取りが確認される仕組みです。

「逃げ恥」のみくりと平匡のような共同経営型カップルが増え、「父親産休」が当たり前になれば、家庭と企業がチームとして育児と経済を回していくことができます。これなら、結婚数が伸びるきっかけになるかもしれません。

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白河桃子
白河 桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学大学院特任教授、昭和女子大学客員教授、ジャーナリスト

東京生まれ、慶応義塾大学卒。中央大学ビジネススクールでMBA取得。住友商事、リーマンブラザーズなどを経てジャーナリストに。内閣官房「働き方改革実現会議」民間議員、内閣府「男女共同参画会議専門調査会」専門委員などを務める。著書に「働かないおじさんが御社をダメにする」(PHP新書)「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」(共著、毎日新聞出版)など。講演、テレビ出演多数。