アイドルを見た妻が「キャー!」…なぜ叫ぶのか、夫の疑問を調査

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ライブ会場などで、好きなアイドルや芸能人が登場するだけで女性たちが「キャー!」と叫ぶ姿をよく見かけます。興奮を伝える、あの黄色い叫び声は、女性特有のものなんでしょうか。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」にも、アイドル好きの妻を持つ夫から「なぜ女性は『キャー』と言うのか」という疑問の声が寄せられました。声やのどの仕組みに詳しい耳鼻咽喉科医に聞いてみました。

あの叫びは、一体なんなのか

「驚いたら口が開くんで『わぁ~!!』なら分かるんですが、あの叫びは一体なんなんでしょうか」と投稿したのは、トピ主「少年は夢の中」さん。アイドル好きの妻は、テレビにアイドルが登場するだけで、「キャー!」と叫び、目を輝かせるそうです。

学生時代を思い出すと、バスケット部のイケメンが廊下を通りすぎただけで、女子たちが「キャー」と叫んでいたそう。「私は言われませんでした。目の前で『あなたはかっこよくないですよ』と言われたみたいで、すごく嫌な気分でした」と振り返ります。

トピ主さんは、そのような叫び声を上げたことがなく、周りの男性からも聞いたことがありません。だから、「誰から教わるものなのか。誰のまねをしているのか。それを言ってなんの得があるのか。分かる人がいれば教えてください」と問いかけました。

赤ちゃんと同じ周波数

確かに、黄色い叫び声といえば「キャー!」のイメージがあります。なぜ発してしまうのでしょうか。その謎を解き明かすべく、「東京ボイスクリニック」(東京・港区)院長で、耳鼻咽喉科医の楠山敏行さんに話を聞きました。

「『キャー!』は、言葉にならない興奮や大きな感情が生まれた時に自然と出てくる悲鳴のようなものと考えられています。その周波数については、面白い実験結果があるんですよ」と楠山さん。

楠山さんによると、人間が音として聞こえる帯域は、20ヘルツから2万ヘルツ。一般的に、男性は100ヘルツ、女性は200ヘルツ、赤ちゃんだと500ヘルツほどと言われていますが、「キャー!」の周波数は、およそ2000~4000ヘルツ。多くの人が、最も反応しやすい周波数で、赤ちゃんが泣き叫ぶときの声や、電子レンジなど家電製品のアラーム音も、同じ周波数になっています。

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というのも、この周波数は、私たちの脳に影響を与えることができるためです。日常会話などで、私たちは、耳から入った音の振動が、聴神経を通じて脳の聴覚中枢にたどりつくことで、言葉の意味を理解しています。ところが、2000~4000ヘルツの音は、感情をつかさどる脳の部位「扁桃体へんとうたい」にも直接届きます。甲高い悲鳴を聞いたとき、言葉の意味を理解する前に、恐怖や危機などを感じるのも、このメカニズムのおかげだそうです。

「楽曲の途中で、悲鳴と同じ周波数を挟んで流したところ、多くの人が不快感を示したという実験もありました。キャー!という声が、周囲の人に届きやすいことだけは確かです」と楠山さんは話します。

発音する時の口の形にもポイントが

「キャー!」の口の形にもポイントがあります。「キャ」の母音は、「あ」。「あいうえお」の中でも、最も口が大きく開くため、大きな声を遠くにとばすことができます。子音は、瞬間的に強い声を出せる「破裂音」。特に、「キャ」は口を開けるだけで発音できるため、「イヤー!」など、最初に口を横に広げてから縦に開く動きと比べ、言いやすいのだそうです。

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「チャ」や「シャ」という言葉は、「キャ」と同じ周波数帯に入ります。しかし、その中でも「キャ」が、最も遠くまで声が届きやすい発音なのだといいます。

遺伝子レベルのコミュニケーション

「キャー!」が、遠くの人に伝わりやすい発音であることは分かりました。では、なぜ女性が「キャー!」と言ってしまうのでしょうか。

楠山さんは、「私たちの祖先ホモ・サピエンスは、長い間、狩りや採集の暮らしで、男女で役割を分担することが多かったことも影響していると専門家の間では考えられています」と言います。

狩りは男性、家で子供を守るのは女性。外敵が家を襲った時、女性は悲鳴をあげて、狩りに出かけた男性に助けを求めることが多かったのではないかと推測しています。「声は、遺伝子レベルで伝わる原始的なコミュニケーション。個人差はありますが、相手に気づいてほしいというとき、思わず叫んでしまうのかもしれませんね」。

トピ主さんは、小学生の自分の娘たちがまだ「キャー!」と言わないことにほっとしているそう。好きなアイドルに夢中になるあまり、出てしまう「キャー!」の声。その謎に迫ると、いろいろなことがわかって、面白いですね。

(読売新聞メディア局 森野光里)

【紹介したトピ】

女性の「キャー!!」について

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楠山敏行(くすやま・としゆき)
耳鼻咽喉科医

東京ボイスクリニック院長。医学博士。慶應義塾大学医学部卒。聖母病院耳鼻咽喉科医長、国際医療福祉大学東京ボイスセンター副所長などを経て、2010年1月に、声とのどの疾患を専門とした「東京ボイスクリニック」を開業。