リーチ先生ゆかりのかわいいエッグベーカーが生まれた理由とは

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ふっくらした愛らしい形のエッグベーカー。じか火などで調理し、受け皿に載せてそのまま食卓に

コロナ禍の影響もあり、自宅での時間を大切にする人が目立つようになった。改めて見直されているのが、職人たちが作る日用品の魅力だ。ふだんの暮らしをゆたかにしてくれる日用品の「産地」を訪ねた。

トースターでとろり目玉焼き

フライパンとはひと味違った風味を楽しめるという。松江市の玉造温泉街の川沿いにこぢんまりとたたずむ「ほっこり食堂 つながる根」の看板料理の一つ、目玉焼きだ。「エッグベーカー」という地元産の陶器で作っている。

ふっくらとした愛らしい小さな土鍋のような器だ。温かみがある茶色で、手のひらに収まるくらいの大きさ。食堂の店主、平山春奈さん(37)は幼い頃からこの器で作る目玉焼きを食べて育ったという。

平山さんがエッグベーカーで作った目玉焼き(松江市で)

平山さんは、器に卵を割り入れてじっくりとトースターで焼く。じか火や電子レンジで加熱してもいい。受け皿に載せて、そのまま熱々の状態で食べられる手軽さも魅力だという。「フライパンで作る目玉焼きよりもふんわり仕上がります」

器に顔を近づけると、卵の甘い香りが漂う。真ん中にスプーンを入れると黄身がとろりと広がる。しょうゆを垂らして一口。優しい素朴な味に思わず笑みがこぼれた。

このエッグベーカーは、松江市内にある「湯町窯」が手がけている。1922年に開かれた布志名ふじな焼の流れをくむ窯元だ。大正時代末期、思想家の柳宗悦が提唱した日常生活の中で使われる工芸品に「美」を見いだす「民芸運動」に参加した陶芸家の河井寛次郎やバーナード・リーチらが訪れたことでも知られる。

湯町窯の福間さん(右)と長男で4代目の庸介さん

なかでも英国人のリーチは34年から7回も窯を訪れた。3代目の福間琇士しゅうじさん(79)は「なかなか器が売れなかった時に、リーチ先生から『耐火性のある地元の土を生かしたものを作ったほうがよい』と勧められて出来たのがこのエッグベーカー」と話す。化粧土で模様を施す英国伝統の陶器「スリップウェア」の技法で、器の内側に花柄を描いているのも特徴だ。

戦後間もなく、福間さんの父で2代目の貴士さんが本格的に販売を始めた。当初は卵が高級品だったため、なかなか売れなかったが、卵が食卓に浸透するにつれて人気となり、現在は湯町窯の代名詞となった。島根県内には他にもリーチから手ほどきを受けてエッグベーカーを作る窯があり、地元で愛されているという。

多彩なエッグベーカーレシピって

認知度の向上とともに使われ方も多彩に。購入者から「卵料理以外でも、蒸し物やいため煮など、ちょっとしたおかずの調理に便利」との声が届く。湯町窯でも、エビのアヒージョやマカロニグラタンなど、エッグベーカーで作るアイデアレシピを提案している。

現在は、4代目の庸介さん(47)と仕事をする福間さんは「作陶の仕方はリーチ先生に教わった当時と変わらないが、生活の変化とともに新しい使い方が生まれている」とほほえむ。暮らしに息づいた素朴な小さな器が、日々の食卓にゆたかな彩りを添えてくれる。

【メモ】 「湯町窯」のエッグベーカーは本体、蓋、受け皿がセットで、大が4290円、小が3960円。問い合わせは同窯(0852・62・0726)へ。エッグベーカーは、三重県伊賀市の伊賀焼の老舗「長谷園」でも製作している。白や黒、黄色、オレンジなどカラフルなのが特徴。大が3300円、小が2750円。問い合わせは同園(0120・529・500)へ。価格はいずれも税込み。

(読売新聞生活部 梶彩夏)

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