「夫さん」「旦那さん」…配偶者をどう呼ぶか問題とは?

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配偶者男性、なんと呼ぶ? 大手小町 読売新聞
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「主人」減り「夫」増加 背景に女性の社会進出

主人、亭主、旦那――。配偶者である男性の呼び方はいろいろあるが、若い世代を中心に「夫」と呼ぶ人が増えているという。女性の社会進出や、共働き世帯の増加が影響しているようだ。なんと呼ぶのが適当なのか? 最近の動きを探ってみた。

「夫さんが家に帰ってきたら、今日は私を思い出したか聞いています」。声優で元AKB48メンバーの佐藤亜美菜さん(30)の明るい声が流れてきた。佐藤さんはインターネットラジオの番組で、2年前に結婚した男性を「夫さん」と呼んでいる。この呼び方は、数年前に話題となったテレビドラマで使われたこともあり、徐々に広がっているようだ。

保育事業を手がける認定NPO法人「フローレンス」(東京)は4年くらい前から、職員の間で「主人」を「夫」や「パートナー」に言い換えている。人事担当者は「パートナーは事実婚やLGBT(性的少数者)の職員も使いやすいようだ」と話す。こうした取り組みをすることで、多様な人材を確保することにもつながるという。

かつての女性誌には「ご主人」の見出しが。最近の女性誌(右上)は「夫」と表記している(石崎さん提供)大手小町 読売新聞
かつての女性誌には「ご主人」の見出しが。最近の女性誌(右上)は「夫」と表記している(石崎さん提供)

女性向けファッション誌にも変化が見られる。ジェンダーと女性誌について研究する跡見学園女子大准教授の石崎裕子さんによると、かつて「ご主人の休日カジュアル」などと女性読者の配偶者をご主人と表記していたファッション誌が、「夫とのランチ」などと記載するようになった。こうした変化は数年前から顕著になったという。

石崎さんは「30代の読者層を中心に主人と呼ぶ人が年々減り、夫の方がなじむようになったと編集側が考えているのだろう。雑誌の作り手の意識にも変化があるのではないか」と分析する。

文化庁が1999年、全国の既婚女性約900人に行った調査で、配偶者を主人と呼んでいたのは75%。一方、調査会社「インテージリサーチ」が2017年に既婚女性約3300人を対象にした調査では、主人と呼ぶ人は23%だった。調査母数などが異なるため単純な比較はできないが、主従関係を示す意味もある言葉に違和感を覚える人が増えたとみられる。

そもそも夫や主人といった呼称は、いつから一般的になったのだろうか。

日本語ジェンダー学会理事で北九州市立大名誉教授の水本光美さんによると、「おっと」という呼び方が定着したのは室町時代とみられ、「夫」や「良人」という字があてられてきた。夫を指す言葉として主人が辞書に載るようになったのは大正時代で、昭和前期までは夫の方が一般的だったという。

主人という言葉が主流になったのは戦後になってから。水本さんは「高度経済成長期は専業主婦がいる家庭が普通で、妻が夫を主人と呼ぶ感覚が浸透していったのではないか」と考えている。

総務省の統計によると、共働き世帯数が、専業主婦のいる世帯数を初めて上回ったのは1992年。その後しばらくは両世帯の割合が拮抗きっこうしてきたが、2000年以降は専業主婦世帯の減少傾向が進み、差が開き始めた。18年には初めて、専業主婦世帯が共働き世帯の半分以下となった。

生活史研究家の阿古真理さんは、男性の賃金が必ずしも年功序列では上がらなくなる一方、女性の有職率が増えたと指摘。「男性はかつてのように一家の大黒柱となり得るだけの給与をもらえなくなり、女性に『自分も家計の担い手』という意識が芽生えた。主人という言葉は時代にそぐわなくなったのだろう」と話す。

男女平等の議論が近年活発化していることから、阿古さんは「奥さん」など妻を指す呼称の変化も顕著になるのではないかと推測している。「奥さんは主人ほどの議論になっていないように感じる。今後どう変化するのか注目していきたい」

おすすめは「お連れ合い様」

会話の途中で、相手の配偶者をなんと呼べばいいのか迷うこともあるだろう。相手の妻や夫の適切な呼び方について、言葉の専門家に聞いた。

三省堂国語辞典編集委員の飯間浩明さんは「『ご主人様』『奥様』という言い方に違和感を持つ人と話す時のために、いくつか別の呼び方を用意しておくとよいでしょう」と、アドバイスする。オススメは「お連れ合い様」。敬称なので丁寧な言い方が必要な場面でも使え、自分の配偶者を「連れ合い」と呼ぶこともできる。古くからある言葉で、江戸初期には使われていたという。「字面を見ると使いにくそうと思うかもしれないが、耳で聞くと意外としっくりきますよ」。接客業の人は「お連れ様」「お連れの方」と言えば、まず問題ないそうだ。

文章で相手の夫を示すのであれば「ご夫君」もいい。「話し言葉だと聞き取りづらいのでメールや手紙などで使うといいでしょう」。一方、相手の妻を「細君」とするのは避けよう。細君は、「愚妻」のように自分の妻をへりくだって言ったり、同輩以下の妻を指したりする意味なので、気を付けたい。

飯間さんによると、主人は「そこの家のあるじ」という意味だという。「言葉はコミュニケーションの道具で、相手がどう思うかという思いやりが大切です。相手も自分も特に気にならないのなら、『ご主人』でも構わないのでは」

そのうえで迷った場合は、「『ご家族』などあえて余白を持つ言葉を使えば、角が立たないでしょう」と助言する。

日本語ジェンダー学会理事の水本光美さんは「夫さん」「妻さん」を推奨する。「誰を指しているのか誤解を生じさせない。簡易で中立的な呼び方です」

水本さんは、「看護婦」が「看護師」へ、「スチュワーデス」が「客室乗務員」へ変化したように、言葉は時代とともに変化していくのが自然だと説明する。「配偶者の呼び方も、時代に応じて少しずつ変わるでしょう」

相手の配偶者を呼ぶときの言葉

お連れ合い様」 男女ともに使える。敬称なので目上の人でもOK。接客する場合は「お連れ様」とも。

ご夫君」 書き言葉にオススメ。「細君」は目上の人には適していない。

パートナーの方」 事実婚や同性カップルにも使用可能。

ご家族」 ご主人などの呼び方に違和感があるのか、配偶者がいるのかが不明な場合でも使える。

夫さん」「妻さん」 「お連れ合い様」よりもカジュアルなイメージ。誰を指しているのかが明確。

(飯間さん、水本さんへの取材をもとに作成)

勇気出し「夫さん」

◎取材を終えて 女性と話すとき、相手が自分の配偶者を「主人」と言えば「ご主人」、「旦那」と言えば「旦那さん」と呼んでいる。では「夫」と言ったときは、なんと呼べばよいのだろう――。小さなことではあるが、長年の悩みだ。これからは勇気を出して「夫さん」と呼んでみようかと思っている。

言葉は社会のあり方と密接に関わっている。新聞記者の一人として、変化に敏感でありたい。

(読売新聞生活部 野口季瑛)