森氏の発言で浮き彫りになったジェンダーギャップ、解消へ道筋は

News&Column

ジェンダーギャップ

特別寄稿 昭和女子大特命教授・稲沢裕子

まもなく3月8日の国際女性デーがやってきます。1975年の国際婦人年に国連がこの日を国際女性デーと定めました。世界中が男女平等へ取り組む中、歩みの遅い日本は、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数でずるずると順位を下げ、今では過去最低の153か国中121位という後進国に甘んじています。

アンコンシャスバイアスと男性からの疑問の声

最近も「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」といった森喜朗氏(前東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長)の発言が日本の女性蔑視べっしの象徴として批判を受けました。いかなる差別にも反対し、男女平等を掲げるオリンピック憲章に反するとして、その後、発言は撤回されました。私は例に挙げられた日本ラグビー協会で、森氏の会長時代に女性初で唯一の理事を拝命しました。森氏自身に女性を差別するとか、蔑視する意識はおそらくなかったでしょう。しかし、意識しないままの偏見や思い込み、アンコンシャスバイアスが社会を変える大きな壁になっています。

ラグビーと縁のない私が理事になった背景には当時、スポーツ界のパワハラなどが問題となり、競技団体理事に女性が一人もいないことが問題視された事情がありました。”にわか”の立場からの質問や意見はそれ以前に比べて会議を長引かせたかもしれませんが、会議は本来、話し合うための場だと理解しています。

2019年、スポーツ庁のガバナンスコードを受けて、ラグビー協会の理事は女性5人に、外部有識者も増えました。会議の運営方法も見直して審議に時間をかけ、性別にかかわらず意見を交わしています。ラグビーは体格も強みも異なる選手が欠かせないスポーツです。日本代表は出身国が異なる選手たちが互いの文化を理解し合う努力をしたからこそ、ONE TEAMとしてさらに強くなりました。性に限らずダイバーシティの大切さはすでに世界の常識です。

森氏の当初の発言には、男性からも疑問の声があがりました。「女は」「男は」と性別でくくるのではなく、一人一人の違いを尊重し認め合う中から新しい価値を生み出していくことが大切なことを、森氏の発言は改めて気づかせてくれました。

豊岡市のチャレンジに注目

そんな中、男女の「ジェンダーギャップ解消」を掲げて取り組んでいる自治体があります。兵庫県豊岡市が、市民からパブリックコメントを集め、3月末までに「ジェンダーギャップ解消戦略」を策定。職場、学校、家庭、地域を巻き込んで、2021年度から具体的にジェンダーギャップの解消に真正面から挑むのです。戦略案は昨年1年かけて、まず高校生、20代のワークショップで「未来のシナリオ」を描き、さらに男女半々、年齢や職業も多彩な市民で構成した戦略会議で練りあげました。「(ジェンダーギャップ解消は)簡単にはいかない。機会あるごとに繰り返して、まずは市民に気づいてもらうことから始める」と中貝宗治市長は語っています。

豊岡市では、野生では絶滅したコウノトリを2005年、大空に帰しました。今では、自然環境で生息するコウノトリが220羽にまで増えました。市には大学がないため、10代で街を離れた若者が20代で戻ってきます。この「若者回復率」がコウノトリ放鳥に沸いた2005年から上向いたのですが、男女で大きな差があったのです。2015年の国勢調査結果を調べると、過去5年間で男性は34.7%から52.2%と順調に回復したのに、女性は33.4%から26.7%に減り、男性の半分しか戻っていませんでした。

なぜか――。男性が自分たちに有利な男性中心社会を作って、自分たちだけいい思いをしているから、女性は豊岡を捨てるのではないか。

豊岡市の男女の平均給与格差は大きい。18~30歳で女性の平均給与は男性の73.4%、51~60歳では男性の52.3%と、差が広がります。男性は81.5%が正規雇用なのに対し、女性は非正規雇用が過半数を占めます。女性が結婚や出産で退職し、その後、非正規で再就職するために、格差が生じるのです。市の職員構成は、40歳以上では女性は4人に1人しかいません。40代の男女職員を比べると男性は多様な職務を経験しているのに対し、女性は窓口と庶務業務しか担当していなかったのです。

決して特別な例とはいえませんが、市はこのまま女性が減り続けると暗い未来しか描けないと、地方創生の柱にジェンダーギャップ解消を据えたのです。

2019年1月、まず職場を切り口に「ワークイノベーション戦略」を策定し、市内の事業所に働きかけました。最終決定の直前、中貝市長が急きょ盛り込んだこと――。それは、「公正さ(フェアネス)と命への共感に欠ける社会」という言葉です。女性たちがどれだけ仕事への意欲を断念し、自らのキャリア形成を不本意ながらもあきらめてきたか。夫と同じように働きながら、家事・育児の大半を女性が担い、その結果、女性が不本意ながら補助的役割を負わざるを得なかったか。

誰かの靴をはいてみる

日英教育の違いが話題になつたブレイディみかこさんの著書「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」に「自分で誰かの靴をはいてみる」という英語の定型表現がでてきます。他人の立場になって、相手の立場を想像してみること。中貝市長はこれを引用して、「女性だって社会的な成功もしたいし、夢もある。当たり前のこと。なのに、女性にだけあきらめさせてしまったのは、フェア=公正さに欠けていた。女性たちへの扱いはアンフェアだった。そこに気づいて、ようやく女性たちの声がふに落ちた」と語っています。

この「ワークイノベーション戦略」に呼応して、木製ハンガー専業メーカー中田工芸の中田修平社長が第2子誕生で自ら1か月間の育児休業を取得しました。すると、男性社員も育休を取得し始めたのです。「準備すればできる。育休を取るための引き継ぎを通して業務の整理、見直しができる。予測不可能な育児をマネジメントした経験は、管理能力や先を読んで行動する力の向上へつながった」と中田社長は振り返ります。同社は市内初の「くるみんマーク」取得を目指して行動計画を作成、働き方を見直しています。

政府の第5次男女共同参画基本計画は、男性育休取得率を2019年度の7.48%から2030年30%を目標に掲げます。豊岡市はすでに男性職員の育休取得率は19年度54%、20年度は64%(2月22日時点)、22年度には100%を目指しています。

コウノトリの復活のように、「大きな物語を描いて、長い時間がかかることを覚悟したうえで着実に進めていく力」があれば実現できるのです。豊岡市の「ジェンダーギャップ解消戦略」は、2030年に「誰もが居心地がよく、自分らしく輝けるまち」を目指します。ジェンダーギャップ解消策のモデルを提示してくれると期待しています。

スポーツ界の男女平等を考える

昭和女子大では、スポーツ界のジェンダーギャップ解消を考えるため、国際女性デーに向けて「女性とスポーツ」シンポジウム(昭和女子大学主催、OTEKOMACHIほか後援)を3月6日(土)午後2~4時、オンラインで開催します。詳しくは、昭和女子大学ホームページで。

稲沢裕子さん
稲沢 裕子(いなざわ・ゆうこ)
昭和女子大学特命教授

読売新聞東京本社社会部、生活部、経済部記者を経て、「大手小町」編集長(2009~2012年)。2013年、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会初の女性理事に就任。2018年から現職。共著に「企業力を高める―女性の活躍推進と働き方改革」など。ヨミウリ・オンラインでコラム「稲沢裕子の読むラグビー&ときどき映画案内」(2018/10~2019/11)を担当。