世界の非常識!? 日本は未導入「選択的夫婦別姓制度」を考える

サンドラがみる女の生き方

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日本において、制度の導入を求める声が根強くあるのに、なかなか実現しないのが、「選択的夫婦別姓」です。与党・自民党は昨年末、政府の第5次男女共同参画基本計画案を了承しましたが、原案にあった夫婦別姓を指す「夫婦別氏」の文言が削除され、表現も「国民各層の意見や国会における議論の動向を注視しながら、更なる検討を進める」と後退した形となりました。今回は、「夫婦の名字」について、海外の実情とも比べながら、じっくり考えてみたいと思います。

夫婦どちらの名字を選ぶか、自由なはずなのに…

日本の民法では、男女が結婚時に、戸籍上の名字を夫の名字にするか、妻の名字にするかを決めることが可能です。いってみれば、とても自由なわけです。

どちらの名字を選んでもいいのですから、「夫の名字を選ぶ夫婦」と「妻の名字を選ぶ夫婦」の割合は半々ぐらいなのかと思いきや……実際には、厚生労働省の統計などによると、夫の名字を選んだ女性が96%もいる一方で、妻の名字を選んだ男性はたったの4%しかいないのです。

日本では社会通念上、「妻が夫の名字を名乗るのは当たり前」だと考えられているようです。昔の「家制度」の名残なのか、社会では「妻が夫の姓を名乗るのは当然」とする感覚が根強いです。たとえ妻に「自分の名字へのこだわり」があったとしても、お互いの親戚や、職場、そして夫自身が「妻が夫の名字を名乗って当然」という考えである場合、それに刃向かうには、女性にかなりのバイタリティーが必要です。闘うのは何かと疲れるため、「夫の名字にせざるを得なかった」女性も少なくないでしょう。

そのため、結婚後に名字変更に伴う諸手続きを強いられているのは、主に女性という現状があります。

「女性は旧姓を通称に使えば」という意見

「選択的夫婦別姓」の制度導入に反対する人のなかには、「女性は結婚後も旧姓を通称として使えばいいではないか」という意見があります。ただ、「通称として旧姓を使うこと」について、実は法律に規定はありません。「通称としての旧姓」の扱いは、職場の判断に委ねられています。会社によっては「通称NG」の可能性もあるわけで、「旧姓は通称として必ず使えるものだ」とは言い切れません。

会社が旧姓の使用を認めている場合でも、不便な状況が避けられないことがあります。筆者の旧姓は「渡部」で、結婚後の名字は「大谷」ですが、ある仕事で、結婚後も「渡部」を通称として使っていました。ある時、急な出張が入りましたが、ホテルは「渡部」の名字で予約されていました筆者がホテルにチェックインする際、身分証明書の提示を求められたのですが、証明書には「大谷」と記載されているため、受付で事情を説明するのが大変でした。まあ、筆者の場合は、旧姓うんぬんのほかに、「外国人顔」であることがさらなる混乱を招いた面もあるようですが。

ただ、もしも結婚後に別姓が選択できれば、「身分証明書に記載されている名字」と「普段使っている名字」が一致するわけですから、このようなトラブルは減るのではないかと思います。

ホテルの受付でのエピソードは、「ハタから見ると小さいこと」なのかもしれません。でも、積み重なれば、当事者にとってはやはりストレスです。イメージとしては、「さあ、頑張ろう」と意気込んでいたら、至る所に石ころが置かれていて、その都度つまずいてしまう感じです。

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メルケル独首相が元夫の名字を使い続ける理由

いきなりの話ですが、ドイツのアンゲラ・メルケル首相の名字「メルケル」は元夫のものです。現在の夫ザウアー氏とは、今から23年前の1998年に結婚しましたが、ザウアー氏と再婚後もメルケル首相は、最初の結婚相手の名字のままなのです。

日本のような「家」の考え方がないドイツでは、「名字=家を背負う」という考え方はあまり一般的ではありません。そのため、利便性を考え、別れた相手の名字のままという人もいます。たとえば、研究者が論文などを発表した後は、名字を変更しないほうが、その後の仕事がスムーズにいきます。知名度が大事な政治家にとっても、それは同じです。

ただ、政治家などの「特別な人」でなくても、ドイツでは、ごく一般の人が前の夫や妻の名字を名乗っていることが珍しくありません。筆者の知人のドイツ人男性は、「ドイツにあまりないエキゾチックな名字がいい」という理由から、日本人の妻と離婚した後も日本語の名字のままです。

ドイツでは、夫婦が「同じ名字にする」と決める場合、「ドイツで頻繁に聞く名字」よりも「レアな名字」のほうが選ばれる傾向にあります。人違いを防ぐためなど理由は様々ですが、ひとつ言えるのは、「男性の名字を選ぶのが当たり前」という時代ではなくなってきているということです。

ドイツは1990年代に選択的夫婦別姓が可能に

ドイツでは長らく、妻が夫の名字にするか、または、例えば「マイヤー-シュワルブ(Mayer-Schwalb)」というふうに、妻が旧姓と夫の名字をハイフンでつないで「ダブルネーム(Doppelname)」にするのが一般的でした。1970年代に民法が改正され、「夫の名字にするか」「妻の名字にするか」の選択制が導入されたことで、夫婦が妻の名字を選択することが認められたものの、これは「夫婦の名字が話し合いで決まらない場合は、夫婦は夫の名字を名乗らなければいけない」という条件つきのものでした。ところが、これが「男女平等ではない」として、ドイツの連邦憲法裁判所は、90年代にこの条文を無効としたのです。性別を問わず、出生の時から使用していた名字が尊重されるべきだとし、93年からドイツでは「夫婦の姓を定めない場合は別姓になる」という形での選択的夫婦別姓となっています。

7パターンの「名字のバリエーション」があるドイツ

たとえば、ペーター・マイヤー(Peter Mayer)さん(夫)と、ユリア・シュワルブ(Julia Schwalb)さん(妻)が結婚した場合、ドイツでは以下の名字にすることが可能です。

〈1〉ペーター・マイヤー/ ユリア・マイヤー(夫婦が夫の名字にする)
〈2〉ペーター・シュワルブ/ ユリア・シュワルブ(夫婦が妻の名字にする)

この2つのパターンは日本と同じですが、以下の〈3〉からは違います。

〈3〉ペーター・マイヤー/ ユリア・シュワルブ(夫婦別姓)
〈4〉妻がダブルネームにして、名前がユリア・シュワルブ-マイヤーとなる。夫はペーター・マイヤーのまま。
〈5〉妻がダブルネームにして、名前がユリア・マイヤー-シュワルブとなる。夫はペーター・マイヤーのまま。
〈6〉夫がダブルネームにして、名前がペーター・マイヤー-シュワルブとなる。妻はユリア・シュワルブのまま。
〈7〉夫がダブルネームにして、名前がペーター・シュワルブ-マイヤーとなる。妻はユリア・シュワルブのまま。

ドイツでは、夫婦双方がダブルネームにすることは認められていません。婚姻前からダブルネームを持っている人の場合、そのネームを夫婦の名字にすることもできますが、「Bandwurm-Name(直訳すると『名字のサナダムシ』)」を防ぐために、「3つの名字をつなげるのは不可。つなげていいのは2つまで」と決まっています。

夫婦別姓で子供の名字はどうなる?

日本で選択的夫婦別姓に反対している人の中には、「子供の名字はどうなるのか」と言う人もいます。ドイツでは、夫婦別姓の場合、親は子供が生まれてから1か月以内に、「子供が両親のどちらの名字を名乗るのか」を決めなくてはなりません。きょうだいで別々の名字を名乗ることは認められていないため、最初に生まれた子供の名字と同じ名字を、妹や弟も名乗ることになります。そのため、「1番目の子供」が生まれる際に、どちらの名字にするかを両親がじっくり考える必要があります。

このように、90年代以降のドイツには、結婚後の名字について様々な選択肢があります。日本では、選択的夫婦別姓に反対する理由として、「家族の一体感が失われる」と言う人がいます。しかしドイツでは、夫婦が別姓にしているせいで家族の一体感が失われたという声は聞こえてきません。日本だと、夫婦は戸籍上、必ず同じ名字であるわけですが、仲の良い夫婦もいれば、そうでない夫婦もいます。親子の仲にも同じことが言えます。一概に「同じ名字だから家族に一体感ができる」とは言い切れないでしょう。

夫婦が同じ名字にすることを「一つの選択肢」とせず、強制しているのは、先進国で日本だけです。日本で選択的夫婦別姓の制度が導入されない背景には、今なお根強い「家制度」の考えが根底にあるなど「文化の違い」の要素もあるのだと思います。しかし、結婚後も仕事を続ける女性が増えた今、「結婚後も別姓」という「選択肢」はあっても良いのではないでしょうか

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サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住23年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。ホームページ「ハーフを考えよう!」
著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)、「なぜ外国人女性は前髪を作らないのか」(中央公論新社)。


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