読者の胸打つ“鈍器”…分厚くて高価な本がコロナ禍で人気のワケ

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SNS上で「もはや鈍器」と話題になるほど分厚い本が、ベストセラーになっています。ブロガーの「読書猿」さんが著した「独学大全―― 絶対に『学ぶこと』をあきらめたくない人のための55の技法」(ダイヤモンド社、定価:2800円=税別)。総ページ数788ページ、厚さ約5センチにも及ぶ同書は、昨年9月の発売からわずか4か月で14万部を突破しました。分厚くて重たく、持ち運びに不便で、価格も決して安いとは言えません。活字離れやデジタル化が進む時代に、こうした本がヒットしているのには、コロナ禍やSNSの隆盛といった社会的背景も関係しているようです。

「勉強法の百科事典」14万部のベストセラーに

「だんだん人気が広がっていくだろうと思ってはいましたが、実際には、発売当初から爆発的に売れて、品切れする書店が相次いだんです。『読書好きな人に読んでもらえる、じわじわ売れる本になったらいいな』と考えて作ったので、本当にびっくりしました」。同書の編集を担当したダイヤモンド社の田中怜子さんは、「独学大全」の予想を上回るヒットに、驚きの色を隠せません。

「正体不明、博覧強記の読書家」と称する読書猿さんが、古今東西の様々な書物から得た知識をもとに、学ぶための時間が足りない時や、やる気が起きない時、資料整理の仕方が分からない時などに役立つ計55の勉強法を紹介。巻末に「独学困りごと索引」が付いており、自分の悩みに合った勉強法をすぐ探し出せる「勉強法の百科事典」として発売早々、話題を呼びました。昨年10月度の京大生協の一般書・文芸書ランキングや、東大生協の「経済・経営・ビジネス」部門のベストセラーランキングでは、それぞれ第1位を獲得しました。

(左から)「独学大全」「哲学と宗教全史」「世界標準の経営理論」

ヒットの理由について、田中さんは「勉強法が書かれた本は、あふれるほど出版されていますが、そのほとんどは、勉強したことによって成功を収めた人が、自分自身の勉強法を紹介した本です。『独学大全』のように、「学ぶ」ということについて網羅的に解説した本は、実は今までありませんでした。『何か教養を身につけたいけれど、何をどう学んだらいいのか分からない』という人は多いですが、『独学大全』には、なぜ学ぶのか、何をどう学ぶか、自分自身でその答えを導き出すための方法が書かれています。今までそのような本はなかったことが、『独学大全』が多くの人に支持された理由ではないでしょうか」と分析します。

「独学大全」は、電子書籍リーダー「Kindle(キンドル)」でもよく売れているそうです。「紙の本と、キンドル版の両方を購入する人が続出していて、これは私の過去の出版経験からしても、非常に珍しいことです。キンドル版は、電車通勤などの時の通読用として、紙の本は、家で勉強する時の参照用として使われているようです。ネット上では、キンドル版に対し、紙の本は『鈍器版』と呼ばれています(笑)」(田中さん)

“鈍器本”のベストセラー続々

ダイヤモンド社が出版した鈍器本ではこのほかにも、2019年8月に発売した総ページ数468ページの「哲学と宗教全史」(出口治明著、定価:2400円=税別)がこれまでに10万部を突破。同年12月に発売した総ページ数832ページの「世界標準の経営理論」(入山章栄著、定価:2900円=同)が8万5000部を超えるベストセラーになっています。

「コロナ禍で、『こんなご時世だから、家でじっくり本を読みたい』という人が増えている証拠では」と指摘するのは、同社の飯島真梨さん。鈍器本の好調は、「SNSの時代」ならではの現象だとも見ています。「SNSなどでは、断片的に切り取られた情報や、真偽が不確かな情報があふれています。だからこそ、それとは反対に、各専門分野の第一人者が執筆した網羅性、信頼性の高い紙の本の需要が高まっているのではないでしょうか」(飯島さん)

出版業界には、本を鈍器にたとえることに違和感を抱く人もいますが、鈍器本とは、もちろん人を傷つけるものではなく、重厚な内容で読者の胸を打つ本と捉えた方がよさそうです。

分厚くて読みごたえ十分! 書店員のおすすめ本3冊

「おうち時間が増え、以前より教養を高めようという意識は高まっている印象を受けますし、実際、教養書が多く売れています」。そう話すのは、丸善丸の内本店(東京都千代田区)和書グループの村山美尾さん。同店では、1階エントランス付近などの目立つ場所に、「独学大全」をはじめ、厚みがあって読みごたえのありそうな本が平積みで並べられ、来店客の目を引いています。

村山さんに、働く女性におすすめの本をピックアップしてもらいました(価格はいずれも税込み)。

(左から)「1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書」「今、行きたい!世界の絶景大辞典1000」「自転しながら公転する」

〈1〉「1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書 」(424ページ、藤尾秀昭監修、致知出版社刊、2585円)

各業界の第一線で活躍されている著名人の言葉を集めた書籍です。ビジネス書と聞くと構えてしまいがちですが、1月1日から12月31日まで1日1ページ、おひとりの言葉で構成されているので、好きなページ、好きな日にちから読むことができます。1ページに内容が凝縮されており、熱い名言たちに勇気づけられる一冊です。

〈2〉「今、行きたい!世界の絶景大辞典1000」(512ページ、朝日新聞出版編著、2420円)

コロナ渦で海外旅行と縁遠くなった昨今、旅に行きたい気持ちが募るばかりです。冒頭ページの色鮮やかな世界の写真に圧倒されます。有名な観光地だけでなく、動物、民族、祭り、それに秘境と呼ばれる場所まで幅広く掲載されており、おうち時間に旅情をかき立てられること間違いなしです。

〈3〉「自転しながら公転する」(480ページ、山本文緒著、新潮社刊、1980円)

結婚、仕事、家族……様々な問題を抱えながら生きる主人公・都はどこにでもいる普通の女性。だからこそ、都と自分を重ね合わせて読んでしまうのです。迷走してこそ人生。迷って迷って、もがいてもがいて、その先に少しでも幸福があれば大丈夫。それで人はまた頑張れる。そんな優しいエールを感じる小説です。

(取材/読売新聞メディア局編集部 田中昌義)

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