「鬼滅の刃」と「愛の不時着」がコロナ禍に大ブームとなった理由

スパイス小町

写真はイメージです

2020年の大ヒット作といえば、公開された映画が国内の興行収入ランキングで、「千と千尋の神隠し」(01年公開)を抜いて、歴代1位となったアニメ「鬼滅の刃」。そして、何次目かの韓流ブームを巻き起こした韓流ドラマ「愛の不時着」です。両者は「良質なコンテンツの宝庫であった日本アニメと韓流ドラマが、Netflixなどの新しい視聴方法とコロナ禍の視聴習慣の変化によって発見された」という共通点があります。なぜ、コロナ禍に「鬼滅の刃」と「愛の不時着」が幅広い世代に求められたのでしょうか。

家族の絆を強めた「鬼滅の刃」

「鬼滅の刃」は、10月に映画が公開される前から、SNSに「家族で鬼滅にハマっている」という友人や知人の投稿が目立つようになりました。私は配信ドラマやアニメをかなりマニアックに見ているオタクなので、このときにはテレビアニメを見ていました。SNSを投稿した人たちに声をかけて検証してみると、普段アニメを見ることがないお母さん、お父さんを巻き込んだ「ファミリー鬼滅」ブームが起こっていました。

「子供がはまって、妻がはまって、自分もはまった」
「家族みんなで話すことができる共通のコンテンツ」
「(コミックス)23巻を回し読みしてコスパも良い」
「家族の絆、がんばることを子供と話すことができる」

写真はイメージです

外出自粛や在宅勤務などで、お母さん、お父さんの家にいる時間が長くなりました。とはいえ、昔のように、家族全員がお茶の間に集まり、決まった時間にお目当てのテレビ番組を見るという習慣はありません。それぞれが、個別にゲームやスマートフォンに没頭しています。

ところが、コロナ禍の家族に「Netflixで鬼滅を見る」という新しいファミリーイベントが生まれました。アニメは子供の付き合い程度と考えていた親たちも、進化する日本アニメの実力に驚かされたことでしょう。「鬼滅の刃」にすっかりはまってしまいました。アニメは、大人をも魅了する日本のソフトパワーの一つなのです。

そして、この驚きや感動を伝えたいと思っても、職場では会合はおろか雑談すらしづらい状況です。その一方で、距離を気にせずに話したり、食事を共にしたりできる家族はかけがえのない存在です。一斉休校や外出自粛が続き、共に過ごす時間が長くなった家族に、コミュニケーションに必要な共通の話題となったのが「鬼滅の刃」です。家族の絆を強くするコンテンツとして歓迎されました。

「鬼滅の刃」は「鬼の血で鬼になる」という意味では、ここ数年、ドラマや映画でブームが続いている「ゾンビもの」の範疇に入るでしょう。アメリカの人気ドラマ「ウォーキング・デッド」、韓国の映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」やドラマ「キングダム」など、噛まれると伝染していくゾンビは「流行病」と表現されています。「来るべき感染症時代への恐怖の予見」でもあると思われます。「未知の感染症と戦う家族、仲間の物語」として、「鬼滅の刃」も多くの人の心に届いたのだと思います。

韓ドラ沼に不時着していく友人たち

一方の「愛の不時着」。韓流ブームを再び牽引した作品です。今まで韓国ドラマを見たことのなかった人たちにも、韓流の魅力を気づかせるきっかけになりました。緊急事態宣言が出るや、「韓ドラのラブコメとか、絶対見ないだろうな」という友人たちが、次々と「愛の不時着」沼にドボンドボンと不時着していくのを目の当たりにしました。

Netflixの「ベスト10」には3月から12月まで、ずーっとランキング入りしています。これは、この沼から抜け出せずに何度も繰り返し見ている人もいれば、新たに視聴する人も増え続けているということなのでしょう。

若者に人気の男性タレントが「愛の不時着見ました」と持ち上げれば、女子高生も興味を持たずにはいられません。元々、韓流ドラマの熱烈な支持層は高齢女性に多いとされていましたが、「愛の不時着」は幅広い世代にファンを広げました。

写真はイメージです

その理由の一つは、普段忙しいワーキングマザーやキャリアウーマンが、新型コロナの影響で自宅にこもり、視聴機会が増えたためと考えられます。2020年の米アカデミー賞で外国語映画として初めて作品賞を獲得した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」に象徴されるように、韓ドラを見ていなかった女性たちも進化した韓流コンテンツのクオリティーの高さに驚かされます。

思い返せば、過去にはヨン様ブーム、チャン・グンソクブームなどもありましたが、韓国ドラマ「美男ですね」(09年)の頃は、日本のトレンディドラマとそれほど遜色がなかった気がします。ところが、「愛の不時着」を見ると、「ラブコメディー」や「ラブロマンス」が「社会課題」とともに描かれ、無理なくエンタメとして成立しています。ストーリーに厚みがあり、アップデートされた「理想の男性像」は女性の心をつかみます。

「愛の不時着」のストーリーは、典型的な「ロミオとジュリエット」ですが、南の令嬢と北の将校という韓国ならではの設定で展開されます。ヒョンビン演じる北の将校は、ヒロイン(韓ドラにありがちな財閥令嬢だが、家族に反発する自立した女性経営者)を徹底的に「ケアする」男性です。料理を作り、コーヒーを入れ、密輸入のアロマキャンドルも手に入れてくれます。働く女性が求める要素を全て兼ね備えているヒーローなのです。

家族の絆が強い韓国で、ヒロインは家族に無視されたトラウマを抱えています。ヒョンビンは、そのヒロインに、部下とともに家族的なつながりを与えてくれ、時にはお母さんのように優しく、またある時は強く頼りがいのあるヒーローでもあります。ここには「家族以外の人との絆をいかに作るのか?」という韓国の新しい世代の課題が描かれています。

ラブストーリーと社会課題が両立するドラマ

韓流ドラマの最近の傾向として、恋愛ストーリーに「社会課題」という深いテーマが無理なく盛り込まれています。「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」というドラマは、セクハラを巡って「女性 VS 男性」の社内抗争が勃発します。恋愛の行方より、セクハラ抗争が気になって一気に見てしまいました。

私は、新・韓流四天王と称されるイケメン俳優「イ・ジョンソク」にはまっていたことがあります。彼が出演する「ピノキオ」「君の声が聞こえる」といったドラマを追いかけていると、「真のジャーナリズムとは」「法の正義と心とは」などと深く考えさせられるのです。

こうした韓流ドラマにはまるのは、イケメンを愛でるのみならず、「夫婦の家事分担のあり方」「男女のセクハラ意識」「職場のハラスメント」「非正規雇用や失業」などの描かれる社会課題が、現代の日本でも共有できる身近な課題であるためでしょう。

写真はイメージです

新型コロナの影響で、女子会や合コンなどの開催がためらわれる状況であっても、同じドラマを見た感想を共有したり、社会課題を軽快に語り合ったりする欲求はなくなることはありません。他人との距離を意識するようになったからこそ、共感や意気投合はこの上ない喜びなのです。

家族や仲間との絆を再認識するツールとして、「鬼滅の刃」と「愛の不時着」は話題の中心となりました。ブームが熱を帯びるほど、乗り遅れまいと慌てて追いかける人もいれば、トレンドや教養の一つとしてたしなむという人もいます。そこには、新型コロナの感染拡大の危機を、ともに生きる仲間意識やつながりを保ちたいという「時代の気分」にぴたりとはまったわけです。

年末年始の過ごし方について、政府は「ステイホーム」を呼びかけています。話題に乗り遅れてしまったという人は、この年末年始に挽回する手もありますし、すでに見た人は見返してみると新たな発見をすることもあります。そして、同じアニメやドラマの話題で盛り上がれる家族や仲間の存在は、尊いものだと改めて気づくのではないでしょうか。

あわせて読みたい

白河桃子
白河 桃子(しらかわ・とうこ)
昭和女子大学客員教授、東京大学大学院情報学環客員研究員

内閣官房「働き方改革実現会議」民間議員、内閣府男女局「男女共同参画会議専門調査会」専門委員、経済産業省 「新たなコンビニのあり方検討会」委員などを務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事、リーマンブラザーズなどでの勤務を経てジャーナリストに。働き方改革、ダイバーシティ、女性活躍、ジェンダー、ワークライフ・バランス、自律的キャリア形成などをテーマとする。著書に『ハラスメントの境界線 セクハラ・パワハラに戸惑う男たち』(中公新書ラクレ)などがある。講演、テレビ出演など多数。