「実家暮らし」親が望む国、厳しい視線が注がれる国

サンドラがみる女の生き方

写真はイメージ

まだまだ収束のめどがたっていないコロナ禍。冬の到来とともに感染者が増え、私たちの生活に様々な影響を及ぼしています。もちろん、これは日本に限った話ではありません。アメリカでは、「親と一緒に住む若者」の増加が話題になっています。コロナ禍によって経済的に困窮した若者たちが、日本でいう「実家」に戻り、親と暮らさざるを得ない状況になっているのです。

コロナ禍のアメリカ、親元に帰る若者急増

アメリカのあるシンクタンクの調査によると、今年7月の時点で、18歳から29歳の若者のうち約52%が親と同居しており、これは記録に残る限りでは過去最高の水準だそうです。大恐慌が終息した1940年(48%)よりも高い数字であることから、現在のコロナ禍の深刻さを反映していると言えるでしょう。

若者の中には、学生寮が閉鎖されてしまった人もいれば、一人暮らしをしていて失業してしまった人もいます。何らかの理由で親と一緒に住めない若者は、同じ境遇の人と家をシェアすることもあります。感染防止の観点から考えた場合、一人で住む方がいいはずなのですが、経済的にそうも言っていられないのでしょう。

そもそも、親と一緒に住む若者の増加が話題になっている背景には、欧米では「自立のためには親元を離れることが不可欠」という考えが一般的だったことが挙げられます。「一人暮らし」や「恋人との同居」「友達や知人と家をシェアして住むこと」が普通だと見なされていました。

成人後も親との同居が多い日本

一方、日本では、子供が成人した後も、実家に住み続けることは決して珍しくありません。特に女性の場合は、親が心配の余り、「特別な理由がないと実家を出ることは許さない」と宣言することもあります。その「特別な理由」とは、「結婚」であったり、「通学・通勤の時間を短縮するための一人暮らし」であったりします。ただ、後者に関しては、「女の子なんだから、実家から通える大学・会社にしなさい」と言って許さない保守的な親も一部にいます。

東京など大都市は家賃が高く、一人暮らしをするのが経済的に厳しいため、実家に住み続けているケースもあります。また、日本の親は、欧米よりも「子供が恋人と同居をすること」に反対する傾向があり、そういったことも実家暮らしが多い一因になっているようです。

親より恋人との同居のほうが社会的評価が高いドイツ

日本ではときに「親元を離れて暮らす」のに理由が求められるのに対し、筆者の出身国のドイツを含むヨーロッパ(イタリアなど南ヨーロッパの国を除く)はむしろ逆です。ヨーロッパの場合、成人しているのに親と一緒に住んでいると、様々な場面で「理由」について聞かれることも多いのです。

ドイツでは、「成人しても親元に住み続ける息子や娘」に厳しい視線が向けられがちです。ドイツ語には「Sie ist Tochter von Beruf.(彼女の職業は娘である)」という言葉がありますが、これは、成人しても自立せず、経済的にも精神的にも親に頼り続けていることを皮肉った言い回しです。もちろん息子に対しても同様の言い回しがあります。

日本では、「親と同居していても、精神的な自立は可能」といった意見も耳にしますが、ドイツではこの辺りはラディカルで、「親と一緒に住んでいては、精神的な自立や自由なライフスタイルは成り立たない」「金銭的にも自立しない」という見方が強いです。

ただし、ドイツでは「親元を離れる」といっても、必ずしも一人暮らしをするわけではなく、大学の同級生や友人・知人とシェアハウスに住む人もいますし、恋人と同居する人もいます。

友達や知人と家をシェアして住む人も(写真はイメージ)

面白いのは、ドイツを含むヨーロッパの多くの国々では、恋人と同居している人の方が親と同居している人よりも社会的な評価が高いことです。要は「親元を離れる」ことが重要視されているわけで、離れた後の暮らし方については、かなり自由なのがヨーロッパの特徴です。

「実家」という考え方がないドイツ

さらに面白いのは、ドイツには「実家」という考え方があまりないこと。インターネットの和独辞書に「実家」と入力すれば、「Elternhaus」と出てきます。しかし、ドイツでは、この「Elternhaus」という言葉はあまり使いません。

たとえば「実家に帰る」という感覚。日本の漫画やテレビドラマなどでは昔から、夫婦げんかの際に妻が「もう実家に帰らせていただきます!」と言うシーンがよく登場します。離婚した女性が子供を連れて「実家に帰る」こともありますし、日本では特に「女性」に関連したエピソードに「実家」という言葉が頻繁に登場する気がします。

ドイツでも、親と離れて住んでいる人が親のところに行くことはありますが、そういう場合は、「実家に行く」とは言わず、「親のところに行く」という言い方をします。なお、離婚後に女性が「子供を連れて実家に帰る」という感覚は、ヨーロッパでは一般的ではありません。

こういったことを踏まえると、「欧米人が実家に帰る」のは「かなりのこと」、つまり深刻な状況であることも多いのです。冒頭に書いた、アメリカの若者たちの現状がそれを物語っています。

どうする? コロナ禍の「年末の帰省」

さて、実家と聞けば、日本では今の時期、年末年始の「帰省」を思い浮かべる人が多いでしょう。例年であれば、お正月の何日かを実家や義実家で過ごす人が多かったはずです。

ただ、コロナ禍では、「年末年始は実家に帰るべきか、帰らざるべきか」と悩んでいる人が大勢います。親が高齢だったり、持病があったりする場合、感染防止の観点からは帰らないのが一番ですが、その一方で、親が寂しがっていることは過小評価できません。今回は帰らないとしても、安全に帰れる時期が果たしていつになるのか……。「会って感染させてしまい、後悔する」懸念と、「会わないまま、老親に何かあったら後悔する」懸念で、心が揺れている人も多いのではないでしょうか。

ヨーロッパでは、お正月ではなくクリスマスに家族や親戚が集まります。しかしドイツでは、今年のクリスマスに「家の中に集まること」について、厳しい規制が課されています。シュレースビヒ・ホルシュタイン州のように、「クリスマスには、2家族の10人まで集まっていい(ただし、14歳以下の子供は人数にカウントしない)」としている州もあれば、ベルリンのように、「クリスマスでも2家族の5人までしか集まってはいけない」としている都市もあります。

かくいう筆者も、コロナ禍の今はドイツに住んでいる親と会うことができません。今後の見通しさえ立たない状態です。どうなるか分からない不安を抱えながら、親と同居している人は日々、「親に感染させないように」と気を使い、親と離れて住む人は、帰省するにも「感染」の2文字が頭をよぎる大変な時代になってしまいました。2021年は、コロナ収束に向けて、目に見える進展がありますように……。そう願わずにはいられません。

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サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住22年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。ホームページ「ハーフを考えよう!」
著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「満員電車は観光地!?」(流水りんことの共著 / KKベストセラーズ)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)。