アイドルやアニメの沼にはまる「推し活」の熱量が高すぎるワケ

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好きなアイドルや俳優などに入れ込み、熱心に応援する「推し活」が若者を中心に広がりを見せています。彼らは、お気に入りの対象を「推し」と呼び、どっぷりとはまる様子を「沼」と表現します。「推し」の対象は、声優、YouTuber、インフルエンサー、アニメのキャラクター、化粧品などにも及んでいます。なぜ、「推し活」が盛んになっているのか。推し活の調査・分析を行っている「推し活アナリスト」こと電通ソリューション開発センターの猿渡輝也さん(26)に聞きました。

握手会へ行くために7キロ減量

11月4日午後、都内の専門学校に通う田辺美悠さん(20)は、JR新宿駅で推し活仲間を待っていました。「今日は『いい推しの日』なので、大好きなK-POPアイドルのBTSについて、みんなで映像を見ながら語り合う集まりがあるんです」と声を弾ませます。きっかけは、3年ほど前にテレビでBTSを偶然見たことでした。

「もともとマンガやアニメが好きだったんですが、BTSを最初に見たときは、アニメの美少年が現実に飛び出してきたのかと思うほどドキドキしました。それから、すっかり沼にはまってしまい、推しと同じ髪の色にしたり、身につけているアクセサリーを探したりしました。握手会があったときは7キロ減量し、初めてネイルサロンにも行きました」

読売新聞の掲示板サイト「発言小町」にも、「ファンクラブに入りたいという妻」と題する投稿がありました。投稿した「野球が好き父さん」は、専業主婦の妻と、4歳、1歳の子供の4人家族。妻が、すでに二つのグループのファンクラブに入っているのに加え、新たに別のグループのファンクラブに入りたがっています。トピ主さんが、コロナ禍で「ライブがいつ再開されるかも分からない」などと反対すると、妻は「最大のストレス発散、これがあるから色々がんばれるんだよ」と返すなど、聞く耳を持たない様子です。

写真はイメージです

SNSで“布教活動”56%

推し活について、ソフトウェア開発会社「ジャストシステム」が今年5月、15~49歳の男女を対象に行った調査によると、「推し活をしている」と答えたのは全体で20.7%にとどまったものの、10代では37.7%、20代で26.3%を占め、若者を中心に広がっている様子がうかがえます。

「推し活として、したことがあるもの」(複数回答)については、「商品・グッズの購入」が72.9%でトップ。次いで、「イベント・ライブへの参加」(62.5%)、「SNSでの情報発信や拡散」(56.1%)、「ファンクラブへの入会」(51.3%)などが続きました。

熱量があり、生活の中心となる

なぜ、ここ最近、推し活が盛り上がっているのでしょう。自身も学生時代に、AKB48や地下アイドル、インディーズバンドなどの推し活経験のある推し活アナリストの猿渡さんは、次のような背景を指摘します。

【1】握手会などのイベントやSNS、YouTubeなどで推しの対象と接点が増えた
【2】一人ひとりが生きる意味を考えなくてはいけない時代に、推し活に生きる意味を見出す人が増えている
【3】オタクやサブカルチャーが社会に受け入れられるようになった
【4】企業が自社の製品やサービスについてファンを作る動きが増えている

猿渡さんは、〈1〉同種の分野の中で一番好きな人(モノ)を応援する活動をしている〈2〉熱量があって、ときに生活の中心となる――この2点を満たせば、「推し活」と言えるとしています。例えば、「嵐のメンバー5人の中でマツジュン(松本潤)推し」、「『鬼滅の刃』の推しは、まじめでかっこいい炭治郎」「ラストアイドルではダンスが上手な阿部菜々実ちゃんが推し」というように言い表されます。

推しの対象は、アイドルや俳優にとどまらず、スポーツ選手、タレント、YouTuberなどに熱を入れる人も珍しくありません。そればかりか、猿渡さんは「『たけのこの里派』『チョコミン党』『リップ沼』などの言葉で表されるように、スナック菓子や化粧品など特定の商品を支持する推し活も見受けられるようになりました」と説明します。新型コロナの影響で、お気に入りの飲食店が閉店しないように応援する「推し店」という現象も出てきています。

コロナで気付いた「推しは尊い」

「今年になって何もやる気が起きなくなってしまった。過去のDVDを何度も見て、『推しは尊い』『推しは私の生活に必要な存在』と改めて気付きました」と言うのは、都内の飲食店に勤める女性(38)。「新型コロナウイルスの影響で、推しの男性俳優が出演する舞台が中止になったため、心にぽっかりと穴が空いた状態。仕事にも身が入りません」としょんぼりしています。

推しを「生きがい」「生活の糧」などと表現する人は少なくありません。「推し活」が熱を帯びていく理由について、猿渡さんは「推し活によって得られる『承認』がある」としています。承認について、次のような過程を説明します。

〈1〉駆け出しの地下アイドルグループやインディーズのアーティストのグループがテレビや雑誌で紹介される
〈2〉そのグループの中の推しが、ソロとして活動が増える
〈3〉推しがグループを卒業したり、新たなステップに上る

その将来性に早い段階で目をつけ、有名になっていく成長を応援し、ステップアップを後押しするというプロセスを通し、自らが世間から承認された気持ちになるのではないかと言います。

推し活アナリストの猿渡さん(東京・港区の電通本社で)

「推し活」はキラリと光る個性

この過程の中では、推しがアイドルであればCDやグッズを大量に購入したり、ライブや握手会へ頻繁に足を運んだり、SNSで広くPRする“布教活動”をしたりするなど、お金や時間、労力を費やします。

推しが注目を集める機会が増えれば、入れ込んできたファンにとっては生きがいや生活のモチベーションとなって、さらに推し活に力が入ります。推しが同じという人とは年齢や職業に関係なく意気投合でき、会社や学校以外で友人や理解者ができるメリットがあります。

「推し活」の絆で結ばれた仲間は、「推しの誕生日にはツイッターのトレンドに押し上げよう」「周年記念日にファンからのメッセージを新聞広告に出そう」「推しの映画を興行収入1位にしよう」といった目標が自然発生的に設けられ、推し活はより一層熱を帯びることになります。

猿渡さんは、「アイドルや俳優のファンになり、応援するという行為は以前からありました。しかし、現在はイベントやSNSなどを通じて、推しとなりうる対象と様々な方法で接点が持てるようになりました。そんな時代だからこそ、何か好きなものを見つけ、推し活をしていくことは日常を豊かにしてくれるはずです。そして、推し活はキラリと光るパーソナリティーの一つであり、その人を魅力的にする要素となるでしょう」と説明します。

(メディア局編集部 鈴木幸大)

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