日本人には違和感!? ドイツ人カップルの「甘いあだ名」とは

サンドラがみる女の生き方

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このところ、「みちょぱ」さんや「ゆきぽよ」さんなど、あだ名風の芸名を付けたタレントの活躍が目立っています。その一方で先日、「あだ名で呼び合うこと」を禁止する小学校が増えていることがSNSなどで話題になり、賛否両論が湧き起こりました。企業の現場でも、あだ名や「ちゃん」付けで呼ぶことを禁止し、「さん」付けで呼び合うルールを設けているところもあるようです。親しみを感じさせ、お互いの「心の距離」を縮められる一方で、問題視されることも多い「あだ名」。今回は、海外とも比較しながら、「あだ名事情」を考えてみたいと思います。

「さん付け」でセクハラ防止に

あだ名や「ちゃん」付けを職場で禁止するのには、「親しくなり過ぎて、仕事がなあなあになる」「職場に出入りするお客さんの目が気になる」など、様々な理由があるようです。そんな話を聞くと一瞬、「堅苦しいな」と思うものの、職場の皆が「さん付け」で呼び合うことのプラス面もあると考えます。それは、職場にセクハラが起きにくい雰囲気が作られるということです。

今は減ってきていますが、かつては、女性社員を「ちゃん」付けで呼んでいる会社は少なくありませんでした。そのような会社では、例えば「田中みかさん」は「田中さん」ではなく、「みかちゃん」と呼ばれていたわけです。逆に、その「みかちゃん」が、男性社員の「佐藤たかしさん」を「たかしちゃん」とか「たかし君」と呼んでいたのかというと、多くの場合、そうではありませんでした。つまり、主に女性が「親しげな呼び方」をされていたのです。

今の時代は、「男性が女性を『ちゃん』付けで呼ぶこと自体がセクハラ」だという意見もありますし、そのような呼び方が、さらなるセクハラを招きかねないと考える人も増えました。「あだ名」や「ちゃん」付けで呼ぶことを禁止することは一見、堅苦しく思えますが、セクハラ防止の観点からは大事だと言えるでしょう。

「あだ名で呼ばれる人」に囲まれて抱く疎外感

一方、学校などでは、「本人の意にそぐわないあだ名」で呼ばれ、これが問題化するケースが少なくないようです。「体の特徴」や「過去の失敗」などをからかうようなあだ名をつけられ、それがきっかけで深刻ないじめに発展することもあります。あだ名で呼ぶのを学校側が禁止するのは、そうした事態を重く受け止めた結果と言えます。いじめには至らなくても、意にそぐわないあだ名をつけられて、卒業までその名で呼ばれ、不愉快な思いをし続けたなんていう話は、枚挙に暇(いとま)がありません。

からかうようなあだ名がある一方で、名字を省略した呼び方や、「〇〇っち」のように親しみのこもったかわいらしいあだ名もあります。ファストフード店などで、4、5人の若い女の子が、あだ名で呼び合っているのを見たりすると、楽しそうでほほ笑ましく感じます。

ただ、学校では、一つの教室に4、5人の仲良しだけがいるのではなく、何十人もの同級生が教室にいるわけです。もしも、親しげにあだ名で呼ばれている子が多い中で、自分は「さん付け」で呼ばれていたら、きっと寂しく感じるでしょう。気にしなければいいのですが、特に転校生などにとっては、自分だけでなく、周りの子も全員「さん付け」で呼ばれていれば、それが安心感につながることもあるのではないでしょうか。

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あだ名には良い面もたくさんありますが、何十人もの生徒が一緒に過ごす教室でのあだ名の存在は、「既に皆と打ち解けてかわいがられている人」と「ちょっと距離を置かれている人」の差が露骨に出てしまう問題があるように思います。さらに、あだ名を付けた側に悪気はなく、「かわいがっている」つもりでも、あだ名を付けられた側は、不本意でつらい思いをしているかもしれないのです。

長い名前を省略してあだ名に

筆者の出身国のドイツにもあだ名はありますが、それは名前を省略したものであることが多いです。親しみを込めて……と言いたいところですが、実際は、ドイツの昔ながらの名前には長いものが多いので、短くしたほうが呼びやすいという事情があるのです。

例えば、女性の名前である「Steffanie(シュテファニー)」は「Steffi(シュテフィ)」となりますし、「Christina(クリスティーナ)」は「Tina(ティーナ)」になります。かくいう筆者も、元々のドイツ語の名前は「Alexandra(アレキサンドラ)」なのですが、長いので「Sandra(サンドラ)」にし、それをそのままペンネームとして使っています。

呼ばれたくない名前で呼ばれる悩み

ドイツに住んでいた子供の頃、同じミュンヘン市内で転校をしたことがあります。新しい学校でも「サンドラです」と自己紹介をし、そのまま周りから「サンドラ」と呼ばれていました。ところが、成績表をもらったある日のこと。隣に座っていた子から、「ちょっと見せて~」と言われ、当時、気が弱かった筆者は、成績表を見せてしまいました。成績表の一番上にはフルネームが書かれています。筆者の日本名「里美(Satomi)」も記載されていました。それを目ざとく見つけたその子に、「日本語の名前のSatomiの方があなたに合っている! これからはSatomiと呼ぶね!」と強引に押し切られてしまい、しばらく皆から、自分が意図しない日本名で呼ばれるという苦い経験をしたのです。

もちろん、日本名が嫌いだったわけではありません。でも、「せっかく慣れ親しんでいるドイツ語の名前があるのに、どうして自分から言っていない名前で呼ぼうとするの?」と、子供ながらに真剣に悩んだものです。

大人になって日本に住み、日本の会社に就職した時に、似たようなことが起きました。会社には日本の戸籍通りの「渡部里美」で通い、もちろん、社員名簿にもそう記載されていました。当然、会社では「渡部さん」と呼ばれていたのですが、誰かが「外国の名前も教えて!」と言い、うっかり「サンドラ」を教えてしまったところ、それから「サンドラ」と呼ばれるようになってしまいました。その時は、「仕事なのだから、普通に『名字+さん付け』の『渡部さん』でよかったのにな……」なんて思ってしまいました。

自分としては、ドイツではドイツ名を使い、日本では日本名を使いたかったのに、自分の意図しない、違う名前で呼ばれてしまったわけです。あだ名の問題とは少し違いますが、「呼んでほしい名前で呼んでもらえない」という不本意は、ちょっぴり理解できるのです。

恋人を「ネズミちゃん」と呼ぶドイツ人

日本では、カップルがお互いを独自のあだ名で呼び合うことがありますが、ドイツの場合は、人前でもそのラブラブぶりが伝わってくる「甘いあだ名」で呼び合うカップルが多いです。

小動物に例えたあだ名が多いのがドイツの特徴です。愛する女性のことを「ウサギちゃん(Hasi)」と呼ぶ人もいれば、「スズメちゃん(Spatzi)」、「ネズミちゃん(Mausi)」と呼ぶ人も。ネズミちゃんは、日本人の感覚だと違和感ありますよね……よく分かります。でも、これがドイツ人の感覚だと「かわいい」のです。

そのほかにも、「宝物ちゃん(Schatzi)」や「宝物のネズミちゃん(Schatzimausi)」など、いろいろバリエーションがあります。そんなふうに呼び合うカップルは決まってラブラブで、お互いがあだ名で呼び合っている場面に出くわすと、筆者は日本生活が長いせいか、赤面してしまいます。

気恥ずかしく、あだ名で呼ぶのが苦手

筆者は以前、サンドラの「ドラ」を取って「ドラさん」と呼ばれた時、思わず笑ってしまいました。でも、ドラえもんみたいで、なんだかうれしかったです。ただ自分自身が人をあだ名で呼ぶことは苦手だったりします。長年親しくしている友達をあだ名で呼びたくても、なんだか気恥ずかしくて、口からスムーズにあだ名が出てこないのです。そんなわけで、付き合いの長い友達でも、呼び方が「さん付け」のままだったりします。筆者のような性格の人間にとっては、もしかしたら「あだ名禁止」の方が楽なのかもしれません。もっとも、禁止しようという人は、筆者の周りには誰もいませんけど……。

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サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住22年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。ホームページ「ハーフを考えよう!」
著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「満員電車は観光地!?」(流水りんことの共著 / KKベストセラーズ)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)。