手作り肉じゃがにがっかり、彼が期待したのは「彼女っぽいご飯」

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恋人に初めて手料理を振る舞うとき、あなたなら、どんな献立にしますか。苦手な食材は入っていないか、味を気に入ってもらえるか、栄養のバランスは……などなど、悩みどころはたくさんありますね。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、初めての手料理で肉じゃがを作ったら、彼氏から「もう少し“彼女っぽいご飯”を作ってほしかった」と言われたという投稿がありました。家庭料理を巡るカップルの攻防について、食文化研究家の畑中三応子さんに聞きました。

カワイイ見た目や飾りつけをしたほうがいい?

投稿したトピ主の「手料理ちゃん」は20代後半の女性。付き合っている男性から「得意料理作って」とリクエストされたので、初めて手料理を振る舞いました。どんな料理にしようか、あれこれ迷ったものの、「最初だけ張り切っても長続きしないよな……」と考え、ふだん通りに、ご飯、肉じゃが、おひたしや和え物などの小鉢、みそ汁を並べたところ、彼氏から「もう少し“彼女っぽいご飯”作ってほしかった」と言われてしまったそうです。

その言葉に「作ってから文句言うなよ」と反発を感じる部分もありましたが、「まあ、メニューが地味だったかなあ」とトピ主さん。そこで、発言小町に「みなさん、初めての手料理は何を作りましたか。いつもより頑張って、カワイイ見た目にしたり、凝った飾りつけをしましたか。次回ご飯を振る舞う時の参考にしたいので、教えてください」と問いかけました。

このトピに150件を超える反響がありました。「作ってもらっておいて、そんな言い草はない」「そういう人は結婚しても自分が気に入らないと文句言いそう」と、彼氏の態度に対する疑問や批判の声が目立ちますが、手料理をめぐる体験も多数寄せられました。

なんだ彼女っぽい料理って…?

「(私が)一番最初に作ったのは、ミートソーススパゲティーとロメインレタスのサラダです。ミートソースって、すごい簡単。作りすぎて余っても、ラザニアにしたりいろいろ便利なのに、手間かけたと勘違いさせやすいのですよ。案の定、彼氏(夫)は『お店みたいだー』って喜んでました。ロメインレタスもちぎっただけなのに、謎のおしゃれ感出ますからね」と「ねこ」さんは強調します。

写真はイメージです

「なんだ、彼女っぽい料理って…」のタイトルで書いた「vivi」さんは結婚17年目。当時付き合っていた彼氏(現在の夫)にグラタンを手作りしたところ、その感想は「こんなまずいグラタン初めて食べた」だったそう。完全な失敗作で「(我が家では)今でも語り草となっている“伝説のグラタン”です。私に比べたら、トピ主さん、肉じゃがと何品も手作りするなんてすばらしい」と励まします。料理の失敗がカップルの思い出になることもあるようです。

「あんまりうまくできなかったカモー」

「彼女っぽいご飯」については、いろいろな意見が寄せられました。

「彼氏さんは、オカンの味や日常のおかずより、何となくキラキラしたご飯が食べたかったんでしょうね。またはボリュームがつん飯的なもの」と分析するのは、「くまきち」さん。「オムライスにケチャップでハートとか? そういうの期待してたのかしら」と書いたのは、「まる」さん。

「なお」さんからは、「男どもの妄想は果てないんですよ。かわいいエプロンして、むしろモタモタと料理本なんか見ながら、『もう少しだから待っててねー』なんてあたふたやってるのが良い。『あんまりうまくできなかったカモー』なんて恥じらいながら差し出すカタカナ料理を『そんなことないよ、うまいよ』って言いながら食べる。そういうのが彼女っぽいご飯なんだって」という書き込みがありました。

「ミミック」さんは、女子校に通う娘は家庭科の調理実習でカツ丼や酢豚などを作ったと聞くのに、息子の通う男子校では、「カスタードパイ」や「パスタジェノベーゼ」など乙女なメニューを作ることが多かったと振り返ります。不思議に思って先生に聞いてみると、「生徒たちの人気が高いので」という意外な答え。「男って頭がメルヘンなんだなあと思った」と体験談を寄せました。

彼女に作ってほしい料理1位は?

小学館の恋愛サイト「MENJOY」が、20~40代の未婚男性280人を対象に行ったアンケートによると、「彼女に作ってほしい手料理」はカレーが21.1%でトップ。次いで、ハンバーグ(13.9%)、オムライス(11.1%)が続き、肉じゃが(10.7%)は4位でした。その一方、「作ってほしくない手料理」の質問には、茶碗蒸し(12.5%)、サラダ(12.1%)、煮魚(8.6%)がトップ3を占め、肉じゃが(7.9%)は4位。肉じゃがは、「作ってほしい料理」と「作ってほしくない料理」の両方にランクインされるという結果でした。

「彼女っぽいご飯」とリクエストされた場合、さて、どんなふうに考えたらいいのでしょうか。食文化研究家の畑中三応子さんに聞きました。

畑中さんは家庭料理の歴史をひも解き、1960年代ごろから市販のカレールウやシチューの素などのインスタント食品の登場で、家庭料理の献立のバリエーションが一気に広がったと説明します。

芋の煮っころがし、ゴボウのきんぴら、肉豆腐などの献立は、平成生まれ世代には「もはや、おふくろの味ではなく、おばあちゃんの味」。居酒屋メニューやコンビニで買うお総菜と考えている若者もいるようです。家庭では、回鍋肉や麻婆豆腐などの中華料理も手軽に食べることができるようになりました。

だから、「恋人に初めて作ってもらう手料理となれば、それはイベントですから、インスタ映えするようなキラキラしたメニューを求めるのは無理もないことでしょう」と畑中さん。「彼女お手製のハンバーグ」を写真付きでSNSに投稿して楽しむなど、「いいね」を増やす目的で「手料理にキラキラ感を演出してほしい」という期待もあるのだろうと分析します。

好みや体調に合わせたアレンジを

では、カップルや夫婦の食卓について、献立はどう考えたらいいのでしょうか。

畑中さんは「作ってもらった料理に文句を言うのはいただけません。でも、どんな料理が好きなのか、味付けや盛りつけはどうしたらうれしいのか、夫婦やカップルにとって食生活のすりあわせをすることは大切です」とアドバイスします。

「多かれ少なかれ、味覚の違いは必ず生じる問題です。それぞれの食の好みについて意見を交わし、早いうちから食生活のみぞを埋める作業をすることは、長くいい関係を築くコツです。食材、味付け、栄養バランス、アレルギーなどを考慮しアレンジできるのも家庭料理のメリット。食べる人の好き嫌い、体調や気分を把握することも大事なレシピ」と強調します。

「ネコ」さんからはこんな書き込みも。このトピを読んでから、ハートと星の型抜きを購入し、シチューのニンジンをくり抜いて夫に出してみたそうです。すると、「主人55歳は大喜びして『新婚みたいだな~』と照れながら、シチューの中を一生懸命“ハート探し”をしてましたよ」。ほんのちょっとのことでも、ワクワクする演出になるようですね。心温まるエピソードです。

なにはともあれ、「今度ボクが彼氏っぽいご飯を作るよ。何がいい?」と聞いてくれるパートナーシップのほうが令和っぽい気がします。(メディア局編集部 鈴木幸大)

【紹介したトピ】
彼女っぽいご飯作って

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畑中三応子
畑中 三応子(はたなか・みおこ)
編集者、食文化研究家

1958年生まれ。専門書から初心者向けのレシピブックまで幅広く料理本を手がけ、流行食についても研究、執筆。第3回「食生活ジャーナリスト大賞」のジャーナリズム部門大賞を受賞。著書に「カリスマフード: 肉・乳・米と日本人」(春秋社)「ファッションフード、あります。」 (ちくま文庫)「〈メイド・イン・ジャパン〉の食文化史」(春秋社)など。