カレーに大根を入れる嫁…おいしいのに姑がおかしいと笑う理由

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日本人の国民食とも言われるカレー。家庭で作るときにはそれぞれこだわりがあるようで、何をスタンダードと考えるか迷うケースもあります。読売新聞の掲示板「発言小町」には、カレーに大根を入れたら義母に「おかしい」と言われたという内容の投稿に多くの反響が寄せられています。生活史研究家の阿古真理さんに聞いてみました。

投稿したのは、結婚1年目のトピ主「スー」さん。ある日、オンラインで夫と義母と3人で話していたときのこと。夫が、「(うちの)カレーはおいしくて、大根が入っているんだ」と言うと、義母に「なにそれ。大根っておかしい……。ふつうカレーには入れないわよ」と笑われてしまったそうです。

トピ主さんはカレーを作るのが好きで、普段から市販のルーで作ったり、キーマカレーを作ったり、いろいろな種類を作ります。夏の終わりに作る大根入りのカレーは、母や祖母から受け継いだ「定番の味」。「この季節は胃腸の調子が乱れやすいので、大根を入れると聞きました。夏野菜と豚肉でおいしくできたし、夫も喜んでくれたのに、やっぱり変なのかな大根……。大根入りのカレーって、みなさん作られたことありますか?」と発言小町で聞きました。

写真はイメージです

このトピに250件を超えるレスが寄せられました。

いわゆる料理オンチ?

トピ主の義母と同じ感覚を持っている人からは「さすがに大根はちょっと……」「水っぽくなりそう」「私は遠慮したい」という書き込みがありました。

「見たことも食べたこともないです」のタイトルでレスを書き込んだ「トロ」さんは、「カレーに大根……。なぜ入れようと思った???」と違和感を隠せません。「料理の得意な人の作るものなら美味しいかもしれないけれど、料理の腕前を知らなければ、『あ、いわゆる料理オンチ?』とか思ってしまうぐらい驚きます」とビックリした様子です。

一方で、「入れたことはないけれど、おいしそう」「今度やってみます」など興味を示す書き込みも。実際に入れてみたという人からは、その食感や味のとりこになったという体験談も多数寄せられています。

トロンとしておいしい

「ふろふき大根を別に作ってからカレーに入れると、めちゃくちゃおいしいので、我が家では大根さえあればカレーには大根です」(「だいこん」さん)。「以前は肉、タマネギ、ニンジン、じゃがいものオーソドックスなカレーしか作りませんでした。ある時ふと思い、じゃがいもの代わりに大根を入れてみたら、トロンとしていておいしいことに気付きました」(「オーロラ」さん)。

「匿名」さんからは、テレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で登場した「大根と牛肉のカレー」を作ってみたところ、「おいしかったですよ」という報告がありました。「子供の希望で、週1回はカレー。一般的な、ジャガイモ、ニンジン、タマネギにお肉では飽きてしまうので、いろいろ工夫しています。ヨーグルトが多めのチキントマトカレーが夏場のお気に入りです。まあ、お年寄りはお口も保守的な方が多いから気にしないでください」と言います。

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給食や専門店のメニューなどでは広がりつつあるようです。

「子どもたちの中学校で大根カレーでます。おいしいそうです」(「たろすけ」さん)。「ある有名インドカレーのお店、具材に大根入っています。初めて食べた時は大根!?って思いましたがおいしいです」(「mayu」さん)。

都内にあるカレー専門店で、大根の入ったカレーを初めて食べたという「黒い肉カレー」さんは、「一口食べて感動しました。大根がカレーに合うなんて、本当に驚きました。目からウロコ」と絶賛。そして、トピ主に「ご主人のお母さまにも味わってほしい」と勧めます。

カレーでさりげなく自己表現

生活史研究家の阿古真理さんは、「専門店では、南インドカレーやスパイスカレーなど次々と本格的なカレーが人気になり、最近では、ネパール料理のダルバートが注目を集めています。カレーは多くの日本人が好きで、家庭でもそれぞれのやり方で親しむことのできる国民食だから、これだけ議論が盛り上がるのかもしれません」と話します。

阿古さんによると、家庭では、具材に何を入れるかというだけでなく、どこのメーカーのルーを選ぶか、スパイスに何を加えるか、隠し味にチョコレートやみそを足す……といった具合に、「わが家の味」「私流のアレンジ」といったさりげない自己表現や創意工夫の欲求を満たしてくれます。「ある日突然、『夫がどこからか骨を取り寄せて、フォンドボーから作り始めた』なんて話を聞くのもカレーならでは。好奇心を刺激される要素があるのだと思います」と指摘します。

カレーは「心のふるさと」

みそ汁も塩分の濃さ、具材、だしの種類などを議論することが多いですが、カレーには正解を求めるというより、「こんなのもアリ」「意外と合う」と自由に工夫できる雰囲気があります。家庭によって、味付け、食材、調理方法が異なってもよいし、さまざまなアレンジが可能です。そんな懐の深さが、カレーの魅力になっていると阿古さんは分析します。

阿古さんは、「家庭で台所を預かる人は、料理で自分らしさを表現したいと思うし、心のふるさとになる味を家族に覚えてもらいたいと思うものです。トピ主さんのお姑さんの場合、自分の息子が大根の入った嫁カレーを称賛したことに、驚きとともに一抹の寂しさを抱いたかもしれませんね」と話します。

「息子さんのほうだって、長年慣れ親しんだ“母カレー”の味を忘れたわけではないでしょう。今度は機会を見つけて、お姑さん側から、ぜひ、息子夫婦に母カレーを振る舞ってあげたらどうでしょうか」と阿古さんは提案します。

(読売新聞メディア局編集部 鈴木幸大)

【紹介したトピ】
義母にカレーの具材を笑われてしまいました

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阿古真里
阿古 真理(あこ・まり)
作家・生活史研究家

兵庫県出身、神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。主な著書に『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『昭和の洋食 平成のカフェ飯: 家庭料理の80年』(ちくま文庫)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか パンと日本人の150年』(NHK出版新書)、『小林カツ代と栗原はるみ―料理研究家とその時代―』(新潮社)など。