新型コロナに向き合う救急診療、苦悩する医師・看護師のホンネとは

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アルコール消毒剤を斜めがけにしている北野医師

新型コロナウイルスの感染が収束せず、医療機関で働く人たちは緊張を強いられる日々を送っています。私たちの命と健康を守る医療の最前線で働く女性たちに、コロナ対応の現状や、家庭と仕事を両立していく上での苦労、予防策などを聞きました。

北野夕佳さん(医師)
聖マリアンナ医科大学救急医学(救急総合診療)講師

苦悩

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院の救命救急センターで診療にあたっています。救急で運ばれてくる人すべて、付き添いのご家族も含めて、どなたが陽性でも不思議ではないという恐怖と隣り合わせです。新型コロナの重症患者の受け入れ病院ではありませんが、全例コロナの可能性を疑って、個人防護服を着用して問診、診察、検査を行います。

防護服を身に着けた状態で、クリアカーテンで密閉された空間での診察は、まるで水の中を歩いているような感覚です。本来であれば、複数の患者さんの処置を同時に行いますが、今はそうはできません。一人の患者を診始めたら、付きっきりになります。心不全で運ばれてきた人でも、コロナではないと確認できるまで「疑似症」として対応しなければなりません。「疑似症」用の病室はすぐにいっぱいになってしまい、救急の受け入れを断らざるを得ないケースも出てきています。とても心苦しいです。

加えて、6人部屋を4人に制限したり、個人防護服の置き場や配管の変更など、コロナ対応のために改築したりして、全体のベッド数が減ってしまいました。受け入れられる患者数は、以前の3分の1程度。ベッドコントロールに苦慮しています。

 消毒

4~5月に新型コロナの院内感染が発生したこともあり、手指消毒の徹底に努めています。首から消毒液をぶら下げて、診察、記録、消毒液をプッシュして手指を消毒、診察、記録、プッシュ――と、1人の診察で10回くらい、これを繰り返します。もちろん、途中で手洗いもします。これを一日中繰り返します。

手指衛生を院内で徹底させるため、研修用に動画を製作しました。職員は全員、この動画研修を受講しています。一般の方にも参考になるので、見てみてください。

家族

新型コロナは、いつ感染しても不思議ではありません。医者をしているせいで「死ぬかもしれない」なんて思ったことはありませんでしたが、死なないまでも重症化したら、「今のように暮らせなくなるかもしれないんだ」という思いが頭をよぎります。

19歳、17歳、10歳の娘と夫の5人暮らしです。私がうつしてはいけないし、子供からもらってもいけない。家庭内での感染防止に、生活習慣を変えた部分はあります。例えば、歯磨き。今までは全員の歯ブラシを同じ場所にまとめて置いておき、コップも共用していたのですが、1人分のコップと歯ブラシをセットにして、各自のものを別々に置くようにしました。

親の責任とは、親がいなくても子供が生きていけるように育てることです。そういう意味で、コロナによって娘たちは、それぞれにスキルアップしたと思います。小学4年生の娘も自分で宿題を済ませ、お皿を下げるなどの家事をする。それらは子供の仕事だと話しました。もっとも、今だからこうして話せますが、4月ごろはどうやって過ごしていたのか記憶にないくらい、しんどかったですね。我が家では高校生の娘が下の子の面倒をよく見てくれましたが、幼い子供のいる家庭は、さらに大変だったのではないかと思います。

救急外来診察室で、防護服を着た状態

予防

一般の方々に言いたいのは、不必要に新型コロナを広げないでほしいということ。どんな行為がハイリスクなのかはわかっているので、そういう行為は控えてほしい。もっとも、すべての活動を止めてしまえばいいとは思いません。

人によっては、怖いからといって誰とも遊ばせないという家庭の話も聞きます。でも、社会性を育むことや体力を付けることも子供の成長にとっては欠かせません。感染予防を徹底したうえで、近所の公園で遊ばせてもいいのではないでしょうか。お菓子は袋からみんなで取ったりせず、小分けされたものを買って食べる。食べる前には手洗いをし、おしゃべりするときはマスクをするなど、リスクを回避する工夫を教えましょう。

 備え

新型コロナによって、医師になるために学んだ教科書をすべて作り直さなければいけないような行動変容を求められました。この状況は、当分続くだろうと開き直っています。一般の方々には、コロナに限らず、急病になったときの備えをしてほしいですね。

救急搬送されたときに、もともとの病気や健康状態の情報を収集するのに、以前よりも時間がかかるようになりました。この情報がないと、私たちは的確な医療ができません。高度な画像検査よりも、これらの情報が非常に有用なのです。そのためにも、既往歴をまとめておいてください。また、お薬手帳を受診や搬送時には忘れずに。アレルギーもまとめて書いておきましょう。介護保険の状況も把握しておいてください。ご自分やご家族が、いつから、どんなふうに具合が悪くなったか、どこに受診したか、どう言われたかなどの情報をできるだけ把握してメモしておいてください。それが的確な、機を逃さない治療につながります。

救急医療がひっ迫しているのは事実です。本当に時間外の救急外来を受診する必要があるかを判断してください。症状が治まったとしても、翌日、通常の診療時間内にかかりつけの先生に相談してください。通常の診療時間内の方が、できる医療や検査が圧倒的に多いです。かかりつけ医のいない方は、この機会に持つようにしてください。

紺野千穂さん(看護師)
聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター副師長

負担

コロナの重症者に対応する三次救急医療機関の救急救命センターで、2交代の勤務をしています。2月のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」への対応などは、詳しい説明もないまま受け入れが始まり、「何が始まるんだ」という感じでした。何をどう守ればいいのか、守ってくれるのかもわからず、職場で動揺や不安が広がりました。

今でも、医療者が感染する怖さはありますが、100人いる看護師は、誰も感染していません。それを強みに感じています。個人防護具の着脱も素早くできるようになりましたし、動きやすくフィットさせて着ることもできるようになりました。ただ、感染者との接触を減らすため病棟に入れる人を制限し、介護助手もいなくなったので、看護師の業務がとても増えました。シーツの交換や掃除なども看護師が担っています。

制限

患者に近い仕事なので、新型コロナを持ち込まない、持ち出さない、広げない、という「3ない」が大切です。そのため、私生活にも制限が生じます。好きなところに行けず、会合にも参加できない。病院以外、どこにも行けない。ストレス解消ができないのです。3密を避けてと思っても、換気している場所と言われても、ちゃんと喚気されているかなんて、わかりません。結局、休日もただ家にいるだけです。

スポーツをしている中学3年の長男は、中学最後の試合があったのですが、見に行くことができませんでした。学校の保護者は、私が病院で働いていてコロナの感染者を診ているのを知っています。周囲の目も考えて、断念しました。とても残念でした。

仕事を続けるには、自分だけではなく、夫と子供にも健康管理が求められます。マスクの着用、3密の回避はもとより、家庭内でもいろいろ気をつけています。食事を作るときにはマスクをします。同じテーブルで、全員で食事をしないようにしています。それぞれが少し離れたところで食べたり、時間をずらしたり。食べながら「おいしいね」などと会話することができないけれど、それも仕方がないですね。

家庭内感染が多くなってきているので、慎重に行動したいですし、気が抜けてくるころだと思うので、一人一人が自分の行動を考えてほしいです。

看護

病棟の使い方が状況に応じてどんどん変わるので、そこへの対応がとても大変です。当初は新型コロナの感染者ばかりだったのが、受け入れが減って動線を変更しました。もはや、何が起きてもびっくりしないと思います。大変だった分、普段以上にチーム力が発揮できています。看護師としては、コロナだからどうこうということはなく、重症者がよくなるのが喜びです。これまでの救急では急性期しか診ませんでしたが、コロナの場合は急性期から治療、リハビリと、一人の患者さんを長期で診ます。

家族は患者と面会できないので、病院から電話で様子を伝えています。今は、フェイスタイムを使ったオンラインでの面会ができるようになり、家族の力ってすごいなと改めて思います。声を聞いただけで目をあけるなど、患者さんの反応が全く違うんです。

コロナの収束は、いつになるかわかりません。4、5月と異なり、今は重症者が少なく疑似症が多い。全てのケースに防護具の着用が必要で、ストレスが強くなっています。でも、一番つらいのは患者さんで、私自身はつらいとは思っていません。

閉鎖空間の中で働くのは、暑いとか動きづらいなどと普通の状況ではありませんが、クールスポットを作って看護師を涼ませたり、のどの渇きを潤す場所を用意したり、スタッフが安心して安全に働けるよう工夫しています。働く環境を整えて、スタッフの気持ちが安定していれば、力を発揮できます。「コロナだから、ここまでしかできなかった」ではなくて、心のこもった看護をしていきたいと思います。

(取材・文、読売新聞メディア局 小坂佳子)

※写真は本人提供

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