生理は「個性」? 花王の商品キャンペーンは何が問題だったのか

サンドラがみる女の生き方

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先日、花王が打ったキャンペーン広告が話題になりました。同社の生理用品「ロリエ」の新プロジェクトの一環であったこの広告には、「生理を“個性”ととらえれば、私たちはもっと生きやすくなる」というメッセージが記されていました。この「生理を個性ととらえる」という考え方に世間では賛否両論が巻き起こりました。現在キャンペーンは終了していますが、今回は海外の事情とも比べながら、改めて生理の受け止め方を巡る問題について考えてみたいと思います。

生理は「キラキラ」してなくちゃいけない?

生理といっても、女性によって体調に差があり、「女性の生理はこう」と一概に言い切れないのは確かです。そういう意味で、花王の「生理は個性」は、あながち間違っていませんでした。ところが、ネット上には「大量に出血して体や精神に不調をきたすものを『個性』と呼ぶのはふさわしくない」「このキャッチフレーズを考えた人は、月経困難症で救急車で運ばれたり、腹痛や頭痛を抱えながら仕事を休めなかったりという経験をしたことがないのでは」「個性っていう言い方だと、個人の努力でどうにかなるって誤解する人が増える」といった意見が多く寄せられました。なぜ、こうした批判的な声が上がったのでしょうか。

確かに、生理の痛みがひどいのは、何かの病気のサインである可能性もあるため、「個性」と言ってしまっては、「個性なのだから、痛みも受け入れなければいけないのかな」と思ってしまいそうです。生理に個人差はあるとは言え、あまりに痛みがひどかったり、倦怠感が続いたりする場合は、病院で受診することを考えた方が良い気がします。

たとえば、筆者の母国ドイツでは、生理の周期が不安定だったり、痛みがあったりした場合、10代前半でも気軽に婦人科へ行き、医者に相談をした上で、ピルを処方してもらいます。こうすることで生理の苦しさが緩和されることも多いのです。医者に相談をしたことで、病気が発覚することもあります。ここはやはり、「個性だから受け入れよう」といったような「ふわふわしたアドバイス」だけではなく、「専門医に診てもらおう!」といった具体的なアドバイスも加えてほしいところでした

「ふわふわ」と書きましたが、筆者が気になったのは、全体的に広告が「キレイすぎること」でした。たとえば、商品パッケージについて、男性も買いやすいように、天然石をモチーフとしたパステルカラーにしてみたそうです。製品のウェブサイトには、生理の日数や生理中の状態などに関する八つの質問に答えると、「あなただけの生理のカタチ」をした「天然石のように美しいgem(宝石)」の画がサイト上に出現する仕掛けもありました。ただ、この「天然石」「gem」などには、生理を「スピリチュアルなもの」とイメージを結び付けているような感じにも受け取れたのです

でも、男性が買いやすいようにパッケージを「キレイ」にするよりも、全体的に「キラキラ感」を出すよりも、世の中に「生理の現実」を伝えることのほうが大事なのではないかと思いました。「苦しい生理」には具体的な解決策もあるのに、それを挙げないまま、「ふわふわした」メッセージに終始してしまったのは、もったいないなと思います。生理は個性なんだから、とらえ方次第なんだといった精神論よりも、もっと別の発想がほしかったです。

生理現象以上でも以下でもない ヨーロッパで「生理は普通のこと」

これに対して、ヨーロッパでの生理のとらえ方は、もっと現実的で「ドライ」です。

たとえば、イギリスの生理用品「Bodyform」のCMは、CMでよく見られる「ブルーの液体」をやめ、赤い血液がついたナプキンを映し出したことで話題になりました。映像には、シャワーを浴びる女性の太ももを血液がスーッと流れ落ちる場面も出てきます。

このCMは最後に、「 Periods are normal. Showing them should be too(生理は普通のことです。生理を見せることもまたそうであるべきです)」というメッセージで締めくくっています。「経血は現実のことであり、恥ずかしいことではない」という同社のスタンスには多くの共感の声が上がり、「#Bloodnormal(経血は普通のこと)」というハッシュタグのもと、ちょっとした運動も起こりました。

このCMに「キラキラ感」はまったくありません。あくまでも現実をストレートに伝えています。ヨーロッパの人の生理への考え方は近年、とてもドライなものになってきているので、時代に合ったものだと言えるでしょう。ヨーロッパの消費者は、生理用品に使い心地の良さは求めるものの、「ロマンチックでキラキラしたイメージ」を求める雰囲気はありません。イメージとしては、トイレットペーパーと同じような位置付けです。日本だと「生理と排せつは違う」との反論の声が上がりそうですが、女性の生理も、生理現象の一つであることは確かです。ヨーロッパでは、「女性の生理は生理現象であり、それ以上でもそれ以下でもない」というのが共通認識なのです。

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日本では以前、大手百貨店が生理中の女性従業員に生理バッジを付けるよう呼びかけ、大きな批判にさらされたこともありました。お店で生理用品を買う際にレジで「黒い袋」に包まれるなど、日本で生理は長らくタブー視されてきたことは確かで、「そういった風潮を変えたい」「生理についてオープンにできる社会にしたい」という気持ちは理解できますが、その試みが時に極端な方向に進みやすい傾向があるように感じます。

「生理は普通のこと」「生理現象以上でも以下でもない」。そんなメッセージを、奇をてらわず率直に発信する試みを期待したいです。21世紀になって、まだ20年。今世紀にはそんなCMが日本でも見られる日が来るのかもしれません。

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サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住22年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。ホームページ「ハーフを考えよう!」
著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「満員電車は観光地!?」(流水りんことの共著 / KKベストセラーズ)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)。