派遣切り、収入ゼロ…コロナ禍で働く女性に迫る危機とは 

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新型コロナウイルス感染防止のシートが設けられた東京都江戸川区の「ひとり親相談室すずらん」

新型コロナウイルスの感染拡大による景気の落ち込みが、女性の雇用に暗い影を落としている。増え続けていた女性就業者数は減少に転じた。立場の弱い非正規雇用者を中心に、貧困の危機に直面している。とりわけシングルマザーは深刻な打撃を受けているケースが多い。

休校で食費3倍、学費払えない、非正規・ひとり親深刻

「収入がなくなり、食費や光熱費などの負担が苦しい」。大阪府の女性(38)は5月、派遣先のイベント会社から契約を打ち切られた。高校2年の長男(17)は進学を希望しており、「どうやってお金を準備すればいいのか」と頭を抱える。

同府内の飲食店に勤務する女性(53)も、中学1年の長男(13)と小学3年の長女(8)の休校措置で、食費が一時3倍になった。一方で店は休業になり収入はゼロに。スーパーでの短期アルバイトに加え、やむなく長男の学資保険から借り入れた。

ひとり親を支援する一般社団法人「ひとり親支援協会」(大阪市)が運営する交流サークル「エスクル」には、新型コロナの感染が拡大した春以降、こうした訴えが相次ぐ。同会代表理事の今井智洋さんは「家事、子育て、仕事に忙しいシングルマザーには、どんな支援があるか情報が届きにくい状況」と話す。同会が5月にひとり親に行った調査では、回答者の67%が「収入が昨年より減ったか、減る見込み」と答えた。

東京都江戸川区の相談窓口「ひとり親相談室すずらん」にも、「解雇された」「自宅待機になり、収入がなくなった」などの相談が相次ぐ。中には「子どもに食べさせるものがない」「学費や家賃が払えない」と訴える人もいるという。

7月31日に発表された総務省の労働力調査(基本集計)によると、6月の非正規労働者数は前年同月比104万人減と、比較可能な2014年以降で最大の減少だった。このうち女性は6割を占める。男女年代別で一番減り幅が大きかったのは、35~44歳の女性で同25万人減。働きながら子育てに奮闘する世代を、コロナ禍が直撃した格好だ。

政府が進めてきた女性活躍政策を背景に、女性の就業者数は13年の2707万人から、19年には2992万人へと、300万人近く増加した。ただ、家庭と仕事との両立などのため非正規雇用を選ぶ女性は多く、就業女性の過半数を占める。

労働政策研究・研修機構の副主任研究員、高橋康二さんは、「2008年のリーマン・ショック時と比べ、コロナ禍は特に女性の非正規労働者に大きな打撃を与えている」と指摘する。訪日客の激減、外出自粛、営業自粛などの影響を大きく受けた飲食業や宿泊業、娯楽業などは、いずれも女性の働き手が多い。小中高校の一斉休校などで、子育てとの両立が難しくなったことも、仕事を失った要因になっているという。

仕事を続けられても、多くが時給制で働いているため、労働時間が減ることでの打撃は大きい。高橋さんは「シングルマザーにとって、コロナ禍は死活問題。経済全体が低い水準にある中、すぐには難しいが、非正規労働者の処遇改善が急がれる」と強調する。

日本女子大教授(労働経済学)の大沢真知子さんは「夫が正社員となり、妻はパートなどで家計補助的に働くという、高度成長期にできた暗黙の前提がいまだに根強い。しかし、今は年老いた親を支える独身者やシングルマザーなど、生計を担う非正規労働の女性も多い」と強調。「雇用形態や男女を問わず、多様な働き方や処遇を検討すべきだ」と訴える。

特別給付金や相談窓口で支援…政府・自治体

政府や地方自治体は、経済的に苦境に立たされているシングルマザーなどへの支援策を打ち出している。

「ひとり親世帯臨時特別給付金」は、6月分の児童扶養手当が支給されるひとり親や、新型コロナウイルス感染症の影響で収入が児童扶養手当受給者と同水準に下がった人などが対象。1世帯あたり5万円、さらに第2子以降1人につき3万円が給付される。一定の条件を満たせば5万円の追加給付もある。

「住居確保給付金」は、仕事を失ったり休業したりした人に、原則3か月間の家賃相当額(上限あり)を支給する。支給額は、世帯の人数や自治体によって異なる。

一定の要件に該当すれば、国民年金保険料の支払いが一時的に免除されたり、電気やガスなどの料金支払いが猶予されたりする。

自治体もひとり親支援に取り組んでいる。東京都江戸川区は、各種給付金を紹介したり、支援情報を提供したりするほか、9月19日から10月3日まで、看護や介護、保育の仕事内容や資格について解説するセミナーをオンラインで開催する。同区の担当者は「状況は今後も厳しいだろう。ひとり親に理解ある企業など、民間の支援もあると助かる状況だ」と話す。

(読売新聞生活部 及川昭夫、林理恵)

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