バブルにキラキラCA…河合薫の「昭和おじさん社会」を生きる方法

News&Column

新型コロナウイルスの感染拡大が、健康、経済、働き方、余暇の過ごし方など、暮らしのあらゆるところに影響を及ぼし、社会の抱える問題が次々と浮き彫りになっています。このほど「コロナショックと昭和おじさん社会」(日経プレミアシリーズ)を刊行した健康社会学者の河合薫さん(54)に、コロナを巡って見え隠れする日本社会の課題について聞きました。

おかしいことを「おかしい」と言えない

――著書の中で社会の矛盾やひずみについて触れています。

非正規というだけで賃金が低いのはおかしいし、働いても働いても貧困から抜け出せないのはおかしい。ほかにもいろいろとおかしいことが起きていて、多くの人が「おかしい」と感じています。それなのに、おかしいことを「おかしい」と言えない社会になってしまった。見て見ないふりをしているのです。

安倍首相が2月下旬に一斉休校を要請したとき、急に学校が休みになっても、自宅に子どもの面倒をみる人がいると思っているのかと驚きました。共働き世帯が大勢を占めているわけだし、フリーランスの人たちには有給休暇なんてものもありません。昭和時代に大学を出て、一括採用で一流企業に入社し、家庭を持ち、専業主婦の妻がいて……、という発想のままなんです。平成の30年間を超えて、家族のかたちも働き方もライフスタイルも変わっているはずなのに、「昭和おじさん社会」が続いています。変化に適応できていないのです。

――なぜ、「昭和おじさん」たちは変化しないのでしょう?

一言で言えば、変わる必要がないのです。例えば、一般の人たちは、感染のリスクがあっても通勤電車に乗り、熱中症の危険があってもマスクをします。ところが、政策や経営を握る一部の昭和エリートたちは、満員電車に乗ることもなければ、3密状態の居酒屋に行くこともありません。常に安全地帯にいるんです。コロナ禍ではさまざまな変化が求められているのに、それに適応する必要のない人たちが、対策を進めているのでチグハグなことが起きているのです。

GoToキャンペーンの一方で、飲食店には営業時間の短縮要請、7割のテレワークを実施といったように、コロナを巡る対応が混乱を招くのは、現場の痛みを分かっていないからでしょう。だから、経営が危機的状況の飲食店、生活に困窮するシングルマザー、解雇を余儀なくされた非正規従業員など、社会的な弱者にばかりしわ寄せがいくんです。

――新型コロナを機に社会の問題が浮き彫りになりました。

格差の問題は今に始まったことではありません。十数年前には「勝ち組」「負け組」と線引きをする風潮がありました。負け組が「おかしい」と不満を口にすれば、「お前はがんばっていない」「私はうまくやっている」と自己責任を押しつけられていました。だから、「おかしい」と言うことがはばかられ、それが、思考停止の状態を招いてしまったのです。ところが、さすがにこのコロナ禍の支離滅裂な対策に、市民から不満が噴き出します。本当にこのままでいいのか考え、「おかしい」と声を上げ続けてほしいと思っています。

「ANAのスッチー」を振る舞うことが窮屈に

河合薫さん

――全日空のキャビンアテンダント(CA)、ニュースステーションのお天気キャスターなど、河合さんは「昭和おじさん社会」の真っただ中でキラキラと活躍してきました。

私が大学を卒業した当時はバブル絶頂期ですから、おしゃれなイメージのCAの仕事は海外で幼少期を過ごした自分にぴったりだと思っていました。しかし、現実は違いました。肉体労働だし、さまざまな制限もありました。だんだんと「ANAのスッチー」として振る舞うことが窮屈になってしまって。「自分の言葉で伝える仕事がしたい」なんて勘違いをして、お天気キャスターに転身したんです。

気象庁のOBばかりの職場では、元CAの若い女性というだけでちやほやされました。でも、それは3日もすればあきられます。私は空を飛んでいたのに、なぜ、どんなに地上で雨が降っていても、上空では晴れるのか、なんて疑問に思うこともありませんでした。気象の知識をいちから学ぶしかないと、小学生向けの天気図鑑で勉強しました。すると周りの人たちが面白がって、一つひとつ丁寧に教えてくれました。親切な手ほどきに応えるには、一生懸命勉強するしかないので、とことん天気にのめり込みました。

その後は、天気から離れ、東大の大学院に進みました。しかし、健康社会学者として講演会などに呼ばれても、「ずいぶん出世したね」とか、「なんだ、お天気お姉さんか」と見下されたような言い方もされることが度々ありました。それが悔しかったから、逆にがんばれたのかもしれません。

――「昭和おじさん社会」で、日々がんばっている女性たちにアドバイスをお願いします。

おじさんの壁は厚く、道のりは長いけれど、手を抜かず、精いっぱいやっていれば、ちゃんと見てくれている人はいます。思うようにいかなかったり、理不尽な思いをしたりすることで、弱音を吐いたり、泣いてしまったりすることもあるでしょう。困っているときに、きっと傘を差し伸べてくれる人がいます。そのときは、素直にその傘を借りてください。その代わり、苦しみを乗り越えたとき、いつか困っている人がいたら、今度は自分が傘を差し出せる立場になってほしいと思います。

(聞き手 メディア局編集部 鈴木幸大)

河合 薫(かわい・かおる)
健康社会学者・博士、気象予報士

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士として「ニュースステーション」(テレビ朝日系)などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究にかかわるとともに、講演や執筆活動を行っている。