長い育休は「ずるい」のか、モヤモヤしてしまう理由

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働きながら子育てをする人を支援する育児休業制度。社会に制度が定着してきたことで、最近は長期にわたって休業するケースも出てきました。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、二度の出産と夫の海外赴任という事情から、休業を計7年余り取得したいという女性から投稿が寄せられています。一方で、長期の育児休業は、職場では歓迎されにくく、本人のキャリア形成にとってもマイナスの面があるという指摘があります。休業が職場に受け入れられ、休業明けにスムーズな復帰を果たすためには、どんなことを心がけたら良いのでしょうか。

8年間で、働くのはたった半年

「私、ずるくないですよね」のタイトルで投稿してきたのは、大手金融機関で正社員として働くトピ主「うさぴょん」さん。第1子を出産後、2年間の育児休業中に第2子を妊娠しました。いったん職場復帰して半年間ほど働き、再び育休に入りました。来春に職場復帰の予定でしたが、夫の海外赴任が決まったため、社内の休職制度を利用し、「3年後くらいに職場に復帰したい」と考えています。

同期入社のワーキングマザーにその話をしたところ、「8年間で半年しか働かないってこと? (夫の)海外赴任についていかずに復帰して働くっていう選択肢はないの? 育休だけ取ってきちんと復帰しないのは、これから出産しようとする後輩たちに迷惑をかけると思うよ」と言われたそうです。

トピ主さんが「何も悪いことはしていないと思うけど?」と言い返したところ、同期女性から「悪くないけど、ずるいよね~」と指摘されました。心がモヤモヤしたトピ主さんは、「私はずるいんでしょうか? 同期がねたんでいるだけでしょうか?」と発言小町で問いかけました。

制度を使うことに人目を気にする?

「ずるいか、ずるくないか」という刺激的な論点をトピ主さんが示したこともあって、この投稿には、280通を超える反響(レス)がありました。

トピ主さんの休職について、「ずるくない」と指摘する意見は多数ありました。そのほとんどが、会社が用意した制度を使うことに人目を気にする必要はないという意見です。「傍観者」さんは「正社員で2人の子どもを育てて、夫の赴任にも帯同することを『ずるい』と言われる世の中だと、少子化は止まらない……」と書き込みました。「だから、みんな大手企業を目指すんですよね。私はいいと思います。その制度があることで、企業の価値が上がり、入社のための競争率が上がり、より優秀な社員が集まるんですから」(「オートマティック」さん)と、積極的に評価する人もいます。

周りの犠牲は考えないの? きっと辞めるよ

一方で、「(育児休業や休職は)確かに権利だから文句は言えないけれど、(トピ主さんには)復職したいという熱意が見えないし、権利をカサにきて自分のことしか考えてない人という印象です」(「りょん」さん)、「あなたのために周りで犠牲になっている人がいることに思いをはせてみたことはありますか? 8年でたった半年働いて評価を受けたとしても、あなたがいない間ずっと働いてきた人に対しての思いが軽すぎる」(「cobalt」さん)、「トピ主さんのような社員ばかりだったら、どんな大企業であれ会社は成り立ちません。これじゃあ女性は雇いづらいねとなってしまうのが現実では」(「まゆか」さん)などと、辛口の意見も目立ちます。

「制度と感情は別物」と書いてきたのは、「クリームパン」さん。同僚にトピ主さんと同じように長期にわたって育休を取った女性がいました。「あの人は育休を全部使って辞めるよね」と社内でうわさをしていたら、その同僚は育休をすべて取り終わった後、 “家庭の都合”で本当に退職してしまったそうです。「復帰したところで、彼女が産休に入る前とシステムが大幅に変わっているので、浦島太郎状態だろうし、新人並みの仕事しか出来なかったと思いますけど」と、「クリームパン」さんは振り返ります。

周囲の反感を買う理由

育休制度の定着とともに、トピ主さんのように複数回、長期にわたって休業を取得する人が出てきた現実をどう考えればいいのでしょうか。「働く女子のキャリア格差」(ちくま新書)の著者で、株式会社ワークシフト研究所(本社・東京)所長の国保祥子さんに聞きました。

「この方の場合、ルール違反をしているわけではないのですが、会社(組織)目線が欠如している上に、自分のキャリアに対する主体性も感じられません。このまま長く休んで復帰しても組織への貢献度が高い人材にはならなさそうですね」と国保さんは話します。

まず育児休業制度について、取得する人と周囲とに認識のズレがあることを指摘します。「長期にわたって育児休業を取る場合、取得する側はどうしても“休む”ことに力点を置きがちですが、職場の側からすれば、その人が育休後に復帰したとき、どんな仕事を任せられるのか、活躍の環境をどう整えるかが問題です。この制度は“育児をするための制度”ではなく、“働き続けるための制度”ですので、職場復帰後の働き方を見据えて育休の過ごし方を考えたり、復帰後の体制を家族や上司と話し合ったりという過ごし方をすると、制度の目的に合致するのではないでしょうか」

育休は長いほど「仕事意識の欠如」と見なされる

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国保さんによると、カナダで行われた研究では、育児休業が長いことで、上司や同僚からは「仕事に対する意識が低い人材」だと見なされる傾向があるという結果が出ています。ただし、育休中に業務に関する勉強をしたなどの情報があると、この印象が覆されることも分かっています。

国保さんは「実際に意識が高いか低いかには関係なく、“長い育休は意識の低さの表れ”だと捉えられる傾向があるということです。意識が低く見える人がチームにいるというのは誰にとっても不安なものです。こうした周囲の視線について理解すれば、上司や同僚に安心してもらう、信頼してもらえるような言動が重要だと分かります。そもそも業務から一定期間離れれば、性別や年齢を問わず、誰でも“勘が鈍る”ということは起きます。それをどうカバーするかという視点がある人とない人では、周りの評価は全く違うでしょう。この方の場合も、権利があるから休むという自分の目線だけでなく、復帰後に職場にどう貢献するか、そのために育休期間をどう過ごすかという組織目線が少しでもあれば、同僚も気持ちよく送り出したのではないかと思います。復帰に向けて、休み中もスキルアップの方法をイメージしたり、職場とのコミュニケーションを活発にしたりと、できることを工夫しましょう」と強調します。

リモート定着で、休み方も変わる?

新型コロナウイルス対策の一環で、リモートワークが推奨されるようになりました。幼い子供を育てている家庭では、育児休業のような「完全な休み」を選ぶのか、どの程度の仕事だったら働き続けられるのか、そして企業側は、その働きをどう評価するのか。従来よりも、社員個人への評価の仕方が多様化してくると国保さんは考えます。

「柔軟な働き方が広がれば、意欲や能力の高い人にとっては、追い風です。ただし、これはキャリア形成が会社主導ではなく、個人主導になるということでもあります。これを機会と捉えて、自分のキャリアを主体的に考えたり、必要な勉強をしたり、周囲とどのような関係性を築くべきかを考えたりという働き方の変革をしてほしいですね」と話します。

職場で必要とされる人材であり続けるのは、そうたやすいことではないはず。幼い子供を持つ女性たちが、意欲を高め、能力を磨き、進化し続けられる働き方ができたら、本人にとっても職場にとっても大きなメリットがあるに違いありません。

(読売新聞メディア局編集部 永原香代子)

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▽私、ずるくないですよね?

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