タサン志麻が伝えたい フランス家庭料理が作る幸せな食卓

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(写真はすべて「伝説の家政婦 志麻さんがうちに来た!」より)

仕事から帰るとあわただしく食事を作り、子供たちに食べさせながら自分も料理をかき込む――。そんな忙しいワーキングマザーを手助けするレシピ本「伝説の家政婦 志麻さんがうちに来た!」(世界文化社)では、61品ものフランス家庭料理が紹介されています。著者のタサン志麻さんは、フランスの三つ星レストランで修業し、日本の老舗フレンチで経験を積んだ後、家政婦に転身。依頼された家庭にある食材で作る料理が評判を呼んで、「予約の取れない伝説の家政婦」として注目され、現在はテレビや雑誌など多方面で活躍しています。そんな志麻さんに、フランス家庭料理の魅力について聞きました。

材料はシンプル、手順も簡単なフランス家庭料理

――「鶏むね肉のきのこクリームソース」「ゆで豚のソテー」など、どれも手順が簡単で、特別な調味料が要らないものばかりですね。

家政婦は、いろんな家庭に行って、そこにあるもので作らないといけないのですが、用意されている調味料や食材は家庭によってバラバラ。でも、フランス家庭料理の基本の調味料や食材は、塩、コショウ、トマト、バターと、どこの家庭にもあるから作りやすいし、味もぶれにくいんです。

――フランス料理と聞くと、材料を買い込んで気合を入れて作る特別な料理、という印象でした。

最初に材料を切って焼き付けたりした後は、煮込むだけ、下ごしらえをしてオーブンに入れるだけ、という作り方がほとんどです。ずっと台所に立っている必要がありません。その間にもう一品作ったり、洗濯物を畳んだりできるので、忙しいワーママにおすすめです。出来上がった料理は、調理に使用した鍋やフライパンのまま食卓に並べれば、盛り付けの手間も減り、自分で取り分けるので子供も料理に興味を持つし、洗い物も少なくてすみます。

――毎日、栄養バランスのとれた料理を用意しようと、献立に頭を悩ませている母親がたくさんいます。

フランスでは、何を作るかよりも、みんなで食事を楽しむことが重要視されています。フランスで修業中、一般家庭に招かれたり、ホームステイをしたりしました。夕食には、とりあえず買ってきたハムや湯がいたポテトを並べて、ワインを飲み、おしゃべりを楽しみながらメイン料理の出来上がりを待つスタイル。食事にかける時間がとても長く、ゆっくり家族の時間を楽しんでいて、すてきな文化だと思いました。

野菜嫌いが少ないフランス人

――レシピには、赤ちゃんの離乳食や野菜嫌いの子供も食べてくれるレシピも紹介されていますね。

じっくり煮込む料理が多いので、野菜は軟らかく、臭みもとれるので、子供も食べやすいんです。砂糖は使わず、甘さを出したい時は玉ねぎをじっくりいためて甘みを引き出します。そのせいか、フランスには野菜嫌いの人が少ない気がします。日本だと、栄養バランスの取れた献立が重視されますが、フランスのお母さんは栄養に対しておおらか。1日単位、1週間単位で栄養が取れればいいと考えているので、「なんとか野菜を食べさせなきゃ」となる人はあまりいません。また、最後に塩コショウで味を調えるので、味付け前に取り分けておけば離乳食に使えるのも、うれしいポイントです。

「帰ったらパパっと作りたい」「子供に野菜を食べさせたい」というリクエストに応えた10品

フランス料理の勉強に打ち込んだ日々

――志麻さんがフランス料理に魅せられたきっかけは?

高校卒業後に調理師の専門学校に通い、そこでフランス料理の基本を学びました。それまでフランス料理なんて食べたことがなかったのですが、何を食べてもおいしくて感動しましたね。卒業後に渡仏し、1年間、現地の三つ星レストランなどで修業をしました。

日本に戻ってからは、老舗フレンチレストランでキャリアを積む日々でした。朝から晩まで毎日19時間くらい働いて、休みは週1日だけ。休日はほかのお店に食べに行き、空いた時間にフランス映画、フランス美術、フランス文学に触れていました。とにかくフランス料理のことが知りたくて、すべてのお金と時間を費やしていました。ところが、勉強すればするほど、「自分が本当にやりたいことなのか?」とモヤモヤすることが増えたんです。30代になると、「いつ独立するの?」と周囲から期待されるけれど、お店を持ちたいとは思えない。そんな時、心に浮かんだのは、フランス映画に出てきた家庭での食事シーンでした。

自分のやりたいことがレストランにはなかった

――日本でフランス料理というと、ナイフとフォークをうまく操り、ナプキンを膝に広げ、かしこまって食べる印象です。

どこか近寄りがたい印象がありますよね。山口県に住む両親がお店に食べに来てくれたことがありましたが、緊張していました。お店によっては、お子様お断りの所もあります。

「フランス料理はもっと気軽に大勢の人に楽しんでもらうもの。自分のやりたいことはレストランにはない」と、お店を辞める決意をしました。その後、フランス人の男性と知り合い、結婚。何か仕事を探そうとした時に、フランス人家庭のベビーシッターをやれば、フランス家庭料理を作ることができるんじゃないかと、家政婦のマッチングサービスに登録しました。

家政婦になったと人に言えない時期も

――レストランの厨房での仕事から、一般家庭で家政婦の仕事というのは抵抗がありませんでしたか?

最初は料理だけでなく、掃除もしていました。これまでずっとフランス料理にかけてきたので、家政婦をやっていることを人に言えない時期もありました。でも、自分が作った料理で忙しいお母さんが笑顔になり、家族との食事の時間を楽しんでいる姿を見た時、レストランをやめて、この仕事に就いて良かったと、心から思えたんです。すごくうれしかった。

やがて、料理だけでお客さんがつくようになりました。レストランで働いていた時は忙しくて、家庭を持つというイメージができませんでしたが、子供も2人授かりました。

フランス人の夫は、育児・家事が女性のやるものとは思っていないみたいで、キッチンにも立ってくれます。周囲からは「すごいね」と言われますが、「当たり前だよ」と返しています。

簡単な調理で会話を楽しむ

――志麻さんが考えるフランス家庭料理の魅力とはなんでしょうか。

調理が簡単なので、会話を楽しめ、家族の食事の時間を大切にできるところだと思います。家政婦の仕事を通して、一汁三菜、バランスの取れた献立作りに悩んでいるワーママにたくさん出会いました。食事で栄養を取ることも大切かもしれませんが、楽しくおしゃべりをしながら食べることで精神的に満たされます。簡単に作れておいしく食べられるものがあるということを知ってもらい、ゆっくり食事を楽しんでもらえたらうれしいです。

2人目の子供の産休中に新型コロナウイルスの感染拡大などがあり、現在はレシピ作りやメディアの仕事が中心になっています。でも、本職は家政婦。早く戻りたいと思っています。

(取材/読売新聞メディア局山口千尋)

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タサン志麻(たさん・しま)
料理家・家政婦

  1979年山口県生まれ。大阪あべの・辻調理師専門学校、同グループ・フランス校を卒業。ミシュランの三つ星レストランでの研修を修了して帰国後、老舗フレンチレストランなどに15年勤務。2015年にフリーランスの家政婦として独立。料理が評判を呼び「予約がとれない伝説の家政婦」として注目され、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で取り上げられる。現在は家政婦の仕事に加えて、料理イベント・セミナーの講師や、食品メーカーのレシピ開発など多方面で活動している。著書に『予約がとれない伝説の家政婦が教える魔法の作りおき』(主婦と生活社)、『志麻さんの何度でも食べたい極上レシピ』(マガジンハウス)等、出版多数。