フィギュアスケートの羽生結弦、カメラマンが見た素顔

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NHK杯エキシビションのフィナーレを終えて(若杉和希撮影)

フィギュアスケートの羽生結弦選手(ANA)のオンライン写真展や大判の写真集が話題になっています。いずれも、新聞社の報道カメラマンが収めた作品です。華麗なる氷上の決戦を見届けてきたカメラマンたちに、レンズ越しに見る羽生選手の魅力を聞きました。

「素」を感じさせる一枚を求めて

7月1日に始まった羽生選手のオンライン写真展「羽生結弦展2019-20」。2019年9月のオータムクラシックから20年2月の四大陸選手権まで5試合の写真約60枚を、読売新聞オンラインで無料公開します。これまでは百貨店などで開催してきましたが、新型コロナウイルスへの対応からオンラインでの公開になりました。

四大陸選手権SP(若杉和希撮影)

写真はすべて、読売新聞の若杉和希カメラマンが撮影したものです。羽生選手の魅力について、若杉さんはこう語ります。「羽生選手が出てくると、会場の空気が変わるんです。歓声も上がるし、撮る方も緊張感が高まる。演技に入ると、スピードが非常に速く、ジャンプも高い。ほかの選手はジャンプのための助走がありますが、羽生選手は演技の流れの中にジャンプがあって、助走を助走と感じさせません。指先の表現、顔の表情まで気を配っていて、アスリートであり、表現者なんです」。演技に引き込まれ、撮影を忘れて見入ってしまう瞬間もあるといいます。

オータムクラシックSP(若杉和希撮影)

若杉さんが昨シーズンで最も印象的だった試合は、グランプリファイナルだそうです。「レンズ越しでも感じるほどのものすごい熱量で、ゾクゾクしました。感動して、ファンになりました。“沼に落ちた”瞬間です」と振り返ります。

すっかり羽生選手に魅了されたという若杉さん。撮影時には、「彼の素が出た一枚を撮ること」を意識しているそうです。羽生選手のプロ意識は徹底していて、公式練習でも観客を楽しませようとするほどなので、リンクの上でなかなか素の表情は見せないのだそうです。「先輩やフリーランスのカメラマンに技術面では足りないかもしれませんが、自分がどう感じたのかも含めて、羽生選手を写真で表現できたら。そのために、演技だけでなく、彼の『素』を見逃さないようにしています」

そうした観点から、NHK杯のエキシビションの演技後に捉えた表情は、会心の一枚だと言います。「なんとなく安心したかのような表情をしています。ひとりの人としての彼を見たような気がしたんです」

羽生選手の魅力について語る若杉カメラマン

また、シーズンを通して見ることで、「細かい振りの違いなどが変わって面白い」と話します。「試合ごとに微妙にかわる雰囲気や表情の意味を考えながら撮影しています」。だからこそ、試合を見たら、そのとき感じたことを誰かと話したくなるといいます。若杉さんは、「ファンの方々にとって、『このときはこんな演技だったよね』『羽生選手はやっぱりすごいね』などと思い出を共有でき、その時々でジーンとした気持ちがよみがえる写真展になったらうれしいです」と話しています。

写真集の表紙に使用した四大陸選手権のフリー「SEIMEI」(若杉和希撮影)

写真展は8月2日まで。作品を収めた写真集「羽生結弦展2019-20」(A4判、60P、税込み1100円)は、ネットで販売しており、すでに1万部を売り上げました。ほかに写真展のオリジナルグッズも販売しており、売り上げの一部は新型コロナ関連の寄付にあてられます。

タオルやキーホルダーなど写真展のオリジナルグッズ

写真集、グッズの販売はこちらから。

選手の心境を想像する

写真集「羽生結弦 2019-2020」

一方、6月17日に発売された報知新聞の写真集「羽生結弦 2019-2020」(写真=矢口亨、文=高木恵、税込み2750円)は、初版2万部が発売前の予約で売り切れたほどの人気です。約30センチの正方形で、164ページ。昨シーズンの6試合、200点以上の写真が詰まっているという充実ぶりに、ファンも歓喜しています。

羽生選手がほかの選手より優れていると感じるのは何か――。報知新聞の矢口亨カメラマンは「音楽が聞こえてくる」ことだと言います。つまり、羽生選手の動きが音楽と一体化しているということ。「試合中、撮影に集中していても音楽が聞こえてくるのです。曲を覚えて音楽に合わせてシャッターを切れば、動きのタイミングにも合うのです」

昨年10月のスケートカナダで優勝し、表彰式でフリー曲「Origin」のバイオリンムーブを披露する羽生選手(矢口亨撮影)

ほかのスポーツの撮影と異なる、フィギュアスケートならではの苦労もあるようです。「例えば、野球であれば選手との関係も近く、プレーの疑問点などを聞くこともできるのですが、スケートは試合の回数が限られ、近づけないし会話もできません。どんな心境なのかは、想像するしかない。でも、彼の心境に共感できないと、動きを追うだけになってしまう。それではファンの心に訴える写真は撮れない」と、選手の内面に近づく難しさを語ります。

矢口さんも、撮影を通して羽生選手に魅せられています。「試合中だけでなく、試合前も練習中も真剣。そして言葉に説得力があって、優しい。そういうところに触れて、羽生選手のすごさがわかったし、尊敬する気持ちが強くなった。本当にすごいアスリートです」

2月の四大陸選手権のエキシビションでの演技(矢口亨撮影)

写真集の編集では、「1枚で見せるのではなく、何枚も見せることで羽生選手の全体を表現しよう」と考えたそうです。また、本の形を正方形にして、スペースの広い見開きのページで余白を有効に使ったレイアウトにしました。今回は競技写真を収録していますが、「次はアイスショーをどうやって作り上げていくのか、舞台裏から追いかけてみたい」と話します。

カメラマンをとりこにする羽生選手。アスリートであり、表現者である羽生選手の写真は、ファンならずとも楽しめるに違いありません。

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