美白クリーム販売中止にみる「白い肌」より大切なこと

サンドラがみる女の生き方

写真はすべてイメージです

アメリカの医薬品大手「ジョンソン・エンド・ジョンソン」(J&J)が先日、アジアや中東で販売されている肌を白くするためのクリームについて、販売を中止すると発表しました。同社はこれに先駆けて、多様な肌の色に合わせた「バンドエイド」の新商品の販売を発表しています。どちらも、「Black Lives Matter (BLM、黒人の命は大切だ)」をスローガンに、世界各地で黒人差別に対する抗議活動が行われているのを受けたもので、日本でも話題になっています。

色白もてはやす日本人が問われる「現代の美意識」

販売中止のニュースを受けて、日本のSNSでは「いくらBLM運動があるからといって、美白化粧品を販売中止にするのは違うのではないか」という意見が多く見られました。ただ、世界では今や、「美容」も「社会運動」と切り離せないものになっており、互いに無関係だとはいえません。

日本人の場合、「白人のような肌になりたい」という理由で美白を追求しているかというと、そうではありません。平安時代から日本にはおしろいがありますし、「色の白いは七難隠す」という言い回しもあります。つまり、欧米の文化が入ってくる前から、日本人は「肌の白さ」を「美」とつなげてとらえる傾向があったのです。

そうは言っても筆者は、今回のJ&Jの判断は時代の流れに沿ったものだと考えています。ネットを見ていると、美白製品の販売中止について「納得がいかない」という声がある一方で、「日本でも、色々な肌の人が暮らすようになっているので、化粧品メーカーは肌色のファンデーションの幅を広げて、濃い色のバリエーションを増やしてもいいのでは」といった意見もあります。

今は、美容にも「多様性」を求める声が聞かれるようになっています。これまでは、肌の白さが「美」と関連して語られていたことで、多くの人が無意識のうちに「白い肌は良いものだ」という感覚を持っていたのも事実だと思うのです。

昨年には、テニスの大坂なおみ選手をアニメキャラクターとして起用した広告動画で、キャラクターの肌を本人よりも明るくしてしまい、これに対して「ホワイトウォッシュ(非白人を白人のように描くこと)に該当する」という非難の声が上がったこともありました。

筆者は、紫外線から肌を守るために日焼け止めを使うことには賛成ですが、「美白」を追求する化粧水やクリームなどのスキンケア商品はあまり好きではありません。

「形から入る」ことも大事

J&Jの美白商品の販売中止については、様々な声がありますが、肌の美しさの多様性を追求するために、今回のように販売中止という「形」から入るのもアリだと思います。

「こういう商品はもう販売しません」という企業の表明から、多様性を重視する姿勢が確かに伝わってきます。そして、こういったスタンスの企業が増えれば、単純に「肌が白い方が美しい」という見方をする人も、長い目で見れば減っていくのではないでしょうか。

言葉に関しても、「形から入る」ことは悪くないと思います。言葉のパワーは強いので、「肌が白いこと」を「良いこと」だと印象づける言い回しや宣伝文句が多い一方で、「肌が黒いこと」についてポジティブな言及が少ない今の状態では、やはり前者を目指してしまう人が多くなると思うのです。

日本にも多様な肌の色の人がいるので、今後は、「美白」という言葉を見直してみてはどうでしょうか。

日焼けした肌が好まれるドイツ

筆者の母国ドイツでは、6月中旬に海外旅行が解禁されました。ただ、しばらくはEU圏内(一部の地域を除く)の旅行に限られており、コロナ以前のように、地球の反対側に旅行することはできません。

さっそく、スペインのマヨルカ島などにドイツ人観光客が殺到していますが、そもそもドイツ人がなぜ南の島が好きなのかというと、ドイツは日照時間が短いため、「少しでも太陽を求めたい」と考える人が多いからです。そして「こんがりと日焼けした肌」は「頻繁に南の島に行ける人」としてドイツでは一種のステータスとなっています。そういった背景もあり、ドイツを含むヨーロッパのデパートでは、美白をうたう化粧品を見かけることはありません。


 
ところが、ヨーロッパでも、黒人がよく買い物に訪れるAfrо Shоpには、食べ物やヘアケア商品の他に「ブリーチング商品」と呼ばれる美白化粧品が売られています。ブリーチング商品は一部の黒人の間ではやっており、なぜかというと、ビヨンセやリアーナ、ハル・ベリーを見ても分かるように、欧米の芸能界では「明るめの肌をした黒人」が美しいともてはやされてきたからです。だから、一般の黒人の間にも「少しでも明るい肌が美しい」という考えがあり、そういったことがブリーチング商品の人気につながっています。ただ、これらの商品には、肌の極度の乾燥や、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギーなどを引き起こす恐れがあるとして医学界が警鐘を鳴らしており、販売規制が以前より厳しくなっています。

ファンデーションやパウダーについて、アメリカやヨーロッパでは黒人の肌の色に合うものも売られていますが、残念ながら日本での認知度はまだ低く、東京でファッションショーに出演したある黒人のモデルは「メイクさんが、黒人の肌の色のファンデーションやパウダーを用意していなかった」と嘆いていました。

「美のプロ」が多くいる場でさえ、自分の肌の色に合う化粧品が用意されていなかったり、消費者の絶対数が少ないとはいえ、自分の肌に合う商品が店頭に並んでいなかったりというのは、当人にすれば寂しいものです。

そういった面も踏まえると、今回のJ&Jの判断は世界的な潮流に沿ったものだと言えるでしょう。美白を追求するよりも、「どこの国にも色んな肌の人がいる」という考えを前提に、多様な化粧品を展開していくことのほうが、時代に合っているのではないでしょうか。

【あわせて読みたい】
サンドラがみる女の生き方
欧米人がマスク嫌いだったのはなぜ? 日本との「美意識」の違い
「子供の混浴」は何歳までオッケー? 海外では
外国人女性が前髪を作らない理由

サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住22年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。ホームページ「ハーフを考えよう!」
著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「満員電車は観光地!?」(流水りんことの共著 / KKベストセラーズ)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)。