もう「禁断」ではない! タイBLが日本女性の心をつかんだワケ

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制作会社「GMMTV」のインスタグラムより

日本で今、タイのBL(ボーイズラブ)ドラマが静かなブームを呼んでいます。男性同士の恋愛を描いたドラマは、日本でも「おっさんずラブ」シリーズ(18~19年、テレビ朝日系)や「きのう何食べた?」(19年、テレビ東京系)など話題作が誕生していますが、なぜ、「タイのドラマ」なのでしょうか。タイBLの魅力や人気のワケを取材しました。

ツイッターで世界トレンド1位の「2gether」とは?

サークルの女性を口説こうと、楽しそうに話をしている主人公の青年タイン。
するとその時、

「お前は俺のものだ、絶対に誰も口説いたりするな」と、

隣で話を聞いていた青年サラワットが突然、嫉妬心から強引にタインの唇を奪う――

「GMMTV」のインスタグラムより

こんな一幕で世の女性たちの心をわしづかみにしたのが、タイのBLドラマ「2gether The Series(以下2gether)」です。今年2月、タイでテレビ放送がスタート。YouTubeでも英語や日本語などの字幕付きの映像が公開されて(現在は非公開)、ツイッターで世界トレンド1位を獲得するほどの大ヒットとなり、世界中に「タイBL」旋風を巻き起こしました。

都内の会社員リノさん(27歳、仮名)も、ファンの一人。これまでBLドラマを目にしたことはありませんでしたが、「タイプの違うイケメンぞろいで、もう『かっこいい』に尽きる! 話のテンポも良く、2人の笑顔や甘える様子にキュンキュンしっぱなしです」と、作品の魅力を語ります。


物語は、タインがゲイの同級生の求愛から逃れるため、学内一のイケメン・サラワットに偽彼氏役を依頼するところから始まります。

女の子が好きで無邪気なタインと、クールなサラワット。対照的な2人が、けんかをしながらも距離を縮めていく姿に、「コロナ禍でも、2人の姿を見ては『幸せだなあ、頑張ろう』と元気をもらった」と、リノさん。「最近は、他の作品も見始めちゃって。沼(※ハマるとなかなか抜け出せない趣味の世界を指す)にどっぷりつかっていますね」と苦笑いします。

韓国ドラマに並ぶジャンルに

「2gether」によって認知度が高まったタイBLですが、16年頃から、じわじわと日本で広がりを見せていました。

一口に「BLドラマ」といっても、ストーリーはさまざま。「SOTUS The Series」(16年)は、上級生が下級生を教育する大学の制度を背景に、先輩と新入生が恋の攻防戦を繰り広げる物語です。放送が終了した後も絶大な人気を誇り、名作といわれています。

「GMMTV」のYouTube公式チャンネルより

「Dark Blue Kiss」(19年)は、ゲイであることを親にカミングアウトした男性と、カミングアウトできない男性の立場の違いが、描かれています。「Until We Meet Again」(同)は、前世で結ばれなかった男性カップルが、生まれ変わって再会する切ないラブストーリーです。

「2gether」は、コンテンツセブン(本社・東京)が日本配給権を取得。今夏に公開予定といいます。同社の担当者は、「韓国ドラマや中国ドラマと同じように、タイBLが、日本で根強い人気を誇るコンテンツになってほしいと期待しています。日本での展開に力を入れていきたい」と意気込みます。

韓国のアイドル文化譲り? ファン獲得の巧みな手法

「タイ」、しかも「BLドラマ」。人気を得るにはハードルが高いジャンルに思えますが、なぜここまで注目されているのでしょうか。

BLドラマに詳しいジェンダー研究者の堀あきこさんに、ファン獲得のからくりを聞きました。

堀さんによると、タイのBLドラマは、YouTubeの公式チャンネルなどの無料ツールで配信されるケースが少なくありません。誰もが第1話から気軽に楽しめるのが魅力です。YouTubeのほかにも、ドラマの制作会社や出演者の公式SNSには、劇中のカップルがオフショットでもカップルのように振る舞っている様子などの動画や写真が次々とアップされていきます。

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Reflection.

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タインを演じる俳優のインスタグラムより

情報を出し惜しみせず、写真撮影にも気軽に応じるなど、ファンを大切にしているといいます。さらに、こうしてファンになった人たちの熱量は大きな力になります。ファンクラブを設立する人や、SNSで動画や画像を拡散する人によって、“布教活動”が行われ、それを目にした人が、「かっこいい俳優がいる! 無料なら見てみようかな……」と作品を視聴。

その結果、新たなファンが生まれ、さらに情報は拡散されていきます。スマホを使うたびに新しい情報がアップされているほど、その供給量は豊富です。

「気軽に見られるため、間口は広いですが、作品の魅力だけでなく情報も多いので、ハマると深い。メディアの特徴を生かした巧みな手法は、韓国のアイドル文化の影響でしょう」。

また、主人公カップル以外の恋愛模様も描かれ、友人らの役に、BLドラマに出演歴のある俳優が起用されることも多いそう。お気に入りの俳優ができると、他の出演作を見始めてしまい、その間にもSNSがどんどん更新される……と、沼から抜け出せない状況になってしまうのだといいます。

作品に込められた「同性愛が特殊なことではない」というメッセージ

今、タイBLは、リノさんのように腐女子でなかった人にも親しまれつつあるようです。

「日本では、男性同士の恋愛を描く海外映画に“禁断”というキャッチコピーがつけられるなど、同性愛を『普通ではないもの』と見る目が、いまだにあります」と堀さんは指摘。「タイBLドラマでも、社会に同性愛差別があることは描かれますが、多くの作品に『同性愛が特殊なことではない』というメッセージが込められています。ゲイ男性のファンも多く、作品を楽しむ人が増えているのは、これも理由の一つでしょう」と続けます。

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morning☀️

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サラワット役の俳優のインスタグラムより。フォロワー数は、なんと440万人超

「2gether」でも、男友達が当然のようにタインとサラワットの背中を押し、最初は理解に苦しんでいた兄弟も2人を見守る姿勢に変わる様子が、コメディーの要素も交えて丁寧に描かれています。

「2gether」をはじめ、「My Engineer」「Tharn Type」などの人気作も、続編制作が次々と決まっています。今後もタイBLから目が離せません。

(取材/読売新聞メディア局 安藤光里)

堀あきこ(ほり・あきこ)
視覚文化研究者

日本マンガ学会理事。関西大学などで、非常勤講師を務める。専門は社会学、ジェンダー、セクシュアリティー。著作「欲望のコード―マンガにみるセクシュアリティの男女差」(臨川書店)ほか。7月20日に「BLの教科書」(共編著、有斐閣)が発売予定。