僕はピアニストになるために24歳でニューヨークに渡り、それから21年間、多様性にあふれる街で暮らしています。最初に受けたカルチャーショックは、しょっちゅう褒めてくれること。僕が大したことなくても褒めてくれる文化があるんです。
当初、僕にはコンプレックスがありました。金髪の白人が多い中にいて、一人だけ黄色人種で髪の毛が黒かったからです。ある日の集まりで一人ポツンと立っていたとき、アメリカ人の女性が僕に向かって「You are beautiful(あなた、ビューティフルね)」と言ったんです。僕が早口で「No, no, no, no……」と返したら、「Gohei, YOU ARE beautiful」ともう一度、言われた。それでも否定していたら、彼女から言われたんです。「ゴヘイ、いいことを教えてあげる。人から褒められた時には『ありがとう』って言うのよ。そして、あなたが自分自身を美しいと認められた時に、自然に『ありがとう』が言えるようになるわ」。その時、アジア人だから駄目だと差別をしていたのは周りではなくて、他ならぬ自分だったって気づいたんです。
彼女は「自分を否定して引きこもっているから、態度に出てしまうの。堂々としていれば、違いがあったとしても、人はあなたを尊重するわ」とも言ってくれました。違っていても……違っているからこそ、美しい。それから僕は、勝手に自分を卑下することをやめました。すると本当に、それまでアジア人が受かったことのないオーディションで選ばれたり、いろいろな会合に呼ばれたりするようになったのです。
今では僕も、自然に「きれいですね」とか「そういうところがすごいですね」と口に出すようになりました。でも日本だと、昔の僕みたいに「いえいえ、いえいえ!」と激しく打ち消されたり、照れ隠しなんだろうけど「ねえ、何が欲しいの?」と返されたりすることが多いです。日本の男性はもっと女性の素晴らしさを褒めるべきだし、女性はもっと自信を持って、褒められ上手になってもらえたらいいですね。もし違うなと思っても、相手の言葉を全否定するのではなくて、「そんなことないですけど……でも、ありがとう」とつつましやかに感謝を表す余裕があれば、さらにグローバルな場でも尊重されるのではないかと思います。
もちろん、この「美しい」は外見のことだけを言っているのではありませんよ。日本の女性は、ホスピタリティーがすごいと思います。食事の席でさっとお水を注いでくれたり、お皿を渡してくれたりと、ささやかなことなんだけれど、きめが細かい。困っている人に自然に手を差し伸べられるんです。それは素晴らしく、「美しい」ことだと思います。
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