もし「死にたい」と言われたら……若者の力で自殺を防ぐ

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社会貢献に取り組み、同世代に夢と勇気を与えている若者に贈られる「第11回若者力大賞」(主催・日本ユースリーダー協会)で、NPO法人「Light Ring.(ライトリング)」代表理事の石井綾華さん(30)が「ユースリーダー賞」に選ばれました。若者の自殺防止活動に力を注ぐ石井さんに、受賞の喜びや活動への思いを聞きました。

若手ゲートキーパーの養成に取り組む

団体を立ち上げてから、10周年という節目での受賞となった石井さん。「ようやく私たちの活動が、社会に理解されたように思います。喜びよりもほっとした気持ちが大きい」と、率直な思いを口にしました。

ライトリングは、自殺を引き起こしやすい若者の「こころの病」を同世代の力で防ごうと、「ゲートキーパー」の育成に取り組んでいます。

ゲートキーパーは、英語で「門番」という意味。「命の門番」として、身近な人の自殺の兆しを早期に発見し、必要な場合は専門家につなげる役割が期待されている。資格は必要なく、ボランティアで活動できる。

国の調査によると、2019年の自殺者数(速報値)は、1978年の統計開始以来、初めて2万人を下回りました。その一方で、10歳代の自殺は増加傾向にあり、15~39歳の死因のトップは「自殺」となっていて、若者の自殺防止が課題です。

石井さんによると、若者には、悩みを抱えていても、周りに弱者のイメージを持たれることを恐れ、専門家に助けを求めないケースが多いそう。そういった人のSOSにいち早く気づけるのは、恋人や友人、家族など身近な人だとの考えから、石井さんは、全国の高校や大学で、悩みを抱える人から話を聞く方法や専門家へのつなげ方、自分自身の心をケアする方法などを教えています。

従来は、「自殺防止」や「心のケア」は、専門家による支援が一般的でした。そのため、無資格の若手ゲートキーパーを育てる石井さんらの活動に対して、効果を疑問視する声も少なからずあり、「私自身も『このあり方は正しいのか』と、何度も迷いながらここまで来ました」と明かします。

相談者の8割は「支え手」

精神保健福祉士の資格を持ち、悩みを抱えた人をサポートする側に立ちますが、自身も小学5年生で摂食障害になった過去があります。

ある日、テストで良い点数を取れずに落ち込んでいた時、クラスメートが読んでいたファッション誌を見て「やせたら褒められるかもと思いました」。拒食症になり、専門の病院に入院して治療を受けました。

当時、一番つらかったのは、誰にも悩みを話せないことだったといいます。「褒められたいと思って食べないのに、それを叱る両親は敵に近い存在でした。友達にも話せなかった。医師から『よく頑張ったね』と言われた時に初めて、自分を理解してもらったようで心が救われました」

その経験から、大学2年生で前身の団体を設立。カフェで相談室を始めました。ところが、訪れる人の8割は、悩める当事者ではなく、支える立場にいる若者だったのです。

「悩んでいる親を助けられない」「彼女をどう支えたらいいのか分からない」。そんな声を聞くうちに、当事者が専門家に助けを求める難しさや、支える人が孤立しやすい現状が見えてきました。身近な人の「支援力」を高めることで、当事者も支え手も救えると気づき、12年にゲートキーパーの養成を始めました。

「鏡の存在」になってほしい

もし、友達や恋人に「死にたい」と言われたら、どうしたらいいのでしょう。

「『死にたい』にも濃度があります。悩みに答える必要も、共感する必要もない。否定するのではなく、まずは、ただ『そうなんだね』と話を聞いてあげてほしい」と石井さん。「悩みを解決するのではなく、自分の気持ちを理解してほしいだけの人も多い。相手の話の語尾を繰り返すなど、『鏡の存在』になって話を聞いてあげるだけで、笑顔を取り戻すこともあります」と、アドバイスします。

17年には、国の自殺総合対策大綱に、「若者の自殺対策」の項目が新たに加わり、今年度は、新宿区と港区の委託事業に取り組むなど、石井さんらの活動に追い風が吹き始めています。

表彰式に出席した石井さん(右)

これまで育ててきたゲートキーパーは、1万3340人。都内で行われた若者力大賞の表彰式で、石井さんは力強く語りました。「私たちは、身近な人の力によって、若者の自殺を解決できると信じています。令和時代を担う若者を中心に、専門家も一体となって支えられる社会を目指していきます」

(取材/読売新聞メディア局 安藤光里)

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石井綾華(いしい・あやか)
NPO法人「Light Ring.」代表理事

1989年福島県生まれ。精神保健福祉士、厚生労働科学研究「革新的自殺研究推進プログラム」研究者、若者自殺対策全国民間ネットワーク発起人。2010年に前身の団体を設立し、12年に「Light Ring.」として法人化。10~20歳代を対象にしたゲートキーパーの養成を行っている。