「ジェンダー」(社会的・文化的性差)という言葉が初めて公式に使われ、女性への暴力や貧困などがテーマとなった1995年の第4回世界女性会議(北京会議)から25年。この間、日本でも女性活躍推進などが進んだ一方、配偶者や恋人からの暴力(DV)など深刻な課題も残る。3月8日の「国際女性デー」にあわせ、女性のあり方を改めて考える。
DV被害者、メイクで前向きに
「すてき、似合ってますよ」
東京都新宿区で21日、DV(配偶者や恋人からの暴力)被害の経験がある女性ら7人が、メイクレッスンを受けた。夫からの暴力を苦に昨年、家を出たという40代の女性は「メイクをすると楽しい。他の人が美しく変身していくのもすてきで、明るい気持ちになれた」と笑った。
暴力で傷ついた人たちに、メイクを通じて笑顔を取り戻してほしいと、同区が企画した。講師を務めた一般社団法人「たんとすまいる」代表理事の宗像美由さんは「暴力にさらされて自信を失い、孤立する人は多い。でも、自分の手で自分を前向きに変えられることを実感できれば、自信につながる」と話す。
DVは、殴る蹴るなど「身体的暴行」だけでなく、暴言や長期間の無視、行動の監視といった「心理的攻撃」、生活費を渡さないなどの「経済的圧迫」、「性的強要」が含まれる。いずれも女性の人権を脅かす重大な課題だ。
しかし、日本では長く「夫婦間のもめごと」とみなされ、社会問題化しなかった。
「暴力許さない」
いち早くDVの実態に目を向けたのは、お茶の水女子大名誉教授、戒能民江さんらのグループだ。1992年にアンケート用紙を配布した女性4675人のうち、613人が何らかの暴力を受けたと回答した。「木刀で殴られて頭に10センチの傷を負った」など、自由記述欄は悲惨な体験談で埋め尽くされた。
戒能さんらは調査結果を小冊子にし、95年に北京で開かれた第4回世界女性会議(北京会議)のNGO分科会で配布し、日本の現状を報告した。「立場の弱い女性に向けられる、あらゆる暴力を許さないという女性たちの怒りとパワーがみなぎっていた。会場内外で暴力反対を訴えるデモが行われていた」と振り返る。
会議最終日に採択された「北京行動綱領」には、暴力をはじめ、世界の女性が直面する12の重要課題が盛り込まれ、各国がとるべき策が明記された。これを受け日本では、2000年にストーカー行為規制法、01年にDV防止法ができた。相談体制が整備され、被害者の保護や自立支援が行われるようになった。
相談件数最多
しかし、DVに悩む人は減らない。内閣府によると、全国の「配偶者暴力相談支援センター」が18年度に受けた相談件数は11万4481件で過去最多。DVという言葉が一般化し、顕在化しやすくなった面もあるが、施策の不十分さを指摘する声も多い。
「相談員の質向上が必要」と話すのは、「原宿カウンセリングセンター」所長で公認心理師の信田さよ子さん。熱心な相談員もいるが、「待遇面から専門家が育ちにくく、多くの機関でマニュアル的な対応、支援になっている」。
また、欧米諸国に比べ遅れているのが、加害者の更生教育への対応だ。「被害者支援とともに、加害者への働きかけが不可欠」と強調する。
信田さんは04年、精神科医らと研究会を発足。05年から加害者向けの教育プログラムを提供し、これまでに約170人が受講した。最近は、暴力に苦しむ妻から「受講しないなら離婚」などと言われて参加する男性が多い。「妻を失いたくない、妻への暴力の影響が子どもに出ては困る、と男性たちも真剣です」
公的な加害者向けプログラムはほとんどなく、民間が受け皿を担うが、手法などはまちまちだ。「DVは複雑化している。根絶には、公的支援の充実が欠かせない」と信田さんは語る。