「美しさ」「平等」…メイクアップと仏教の世界から見えたこと

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メイクアップアーティストで僧侶の西村宏堂さん

世界を代表するミスコンテストの一つ「ミス・ユニバース」のバックステージで、各国の美女たちにメイクを施した日本人メイクアップアーティストがいます。西村宏堂さんはアメリカを中心にメイクアップの世界で活躍し、これまでに6回、ミス・ユニバース世界大会でメイクを担当しています。そしてもう一つの顔が、まったく異なる「浄土宗の僧侶」。LGBTQ(性的少数者)が抱える問題にも当事者として取り組んでいる西村さんに、多面的な活動をするようになった理由や、自分らしく輝いて生きるためのヒントを聞きました。

世界的なミスコンテストから学んだこと

――「ミス・ユニバース」の世界大会が昨年12月、アメリカ・アトランタで開催され、南アフリカ代表のゾジビニ・ツンジさんが優勝しましたね。

世界大会には毎回、各国・地域から約90人の女性が集まって、死にものぐるいで美しくなるよう準備してきて戦っています。私は今回、「大切なのは、美しく表現するための地道な探求と準備」だということを実感しました。中には「こうしたらもっときれいになるけど、時間がなくて」といった言い訳をする人もいますし、生まれつきの美貌びぼうに頼る人もいます。でもそういう人は、「自身の美しさを表す話し方や着こなしを追求し、コツコツと準備を積み重ねてきた人」には勝てない。それが印象に残りました。

アトランタでの世界大会中に南アフリカ代表 ゾジビニ・ツンジさんと

――優勝したツンジさんはどんな方ですか。

彼女のメイクも担当しましたが、彼女は人々が美しいと言いがちな「長身、明るい肌色、ブロンドヘア、長い髪、青い目、グラマーな体形」ではない。黒人で、短く刈り上げた髪形、スポーティーな体形です。

彼女のスピーチは本当に素晴らしかった。たとえば「貧困を無くそう」というスローガンだけではなく、自身が体験したこと……「学費が払えなくて大学を途中でやめたけれど、ミス南アフリカに優勝して仕事が増え、復学して卒業できた」とか「優勝した時に村長から繁栄の象徴であるウシを贈呈された」といったエピソードを交えて、表情豊かに話しました。そして優勝した際には、「私は、自分のような肌の色や髪形の女性は決して美しいとはみなされない世界で育ちました。でも、そんな時代は今日で終わります!」と力強く呼びかけました。自分にしか言えないことを発信することって、すごく大事だって勉強になりました。

私は22歳の時からミス・ユニバースやミスUSAの大会でメイクをしていますが、「どうしたらもっとこの人の魅力を引き出せるだろう」と常に考えています。「朱に交われば赤くなる」ではありませんが、私も彼女たちの頑張る気持ちや美意識を取り込んで、成長したいなと思っています。

自分らしさとコンプレックス

――どんな子供だったのですか。

幼稚園の文集に、先生からのコメントで「宏堂ちゃんはいつも、先生が髪形を変えると『まっすぐだったのに、パーマかけた?』と気づいてくれて、うれしかったです」と書かれていました。そういうところは今も変わっていないです(笑)。実家はお寺なのですが、そこでも風呂敷を頭にかぶって、オリジナルのミュージカルを作って遊んでいました。お人形やディズニープリンセス、美少女戦士セーラームーンが大好きな子だったんです。

頭に風呂敷をかぶっている西村さん 抱えているのはお気に入りのぬいぐるみ「ブブルちゃん」

でも高校くらいになると、男子と女子が完全に分かれて遊ぶようになります。男子はスポーツや女性アイドルの話で盛り上がっていましたが、私はなじめず、かといって女子のグループにも入れなくて、完全に孤立してしまいました。「西村ってオカマでしょ?」とうわさをする声も聞いてしまい、常に自分を押し殺して生きていました。そんな時、あるアメリカ映画で「さえない高校生が突然、ある国のプリンセスになるために成長していく」という話を見て感動し、「この国なら自分らしくいられるかも」と、ボストンの2年制大学に進学しました。

ところが、そこでも劣等感を持ってしまった。男子学生は見た目がヘラクレスのようにたくましいアメフト選手が多く、女子学生はティンカーベルのように美しいダンス専攻の学生が多くいました。彼らと自分を比べてしまい、自分の日本人らしい外見に劣等感を抱いてしまいました。うまく仲間に入れず、私が疎外感を覚えるのは日本人の見た目や価値観の違いのせいだと言い訳にしていたんです。

――そんな時、転機が訪れたのですね。

2007年に「ミス・ユニバース世界大会で日本人の森理世さんが優勝した」というニュースを見て、とても感動したんです! 森さんは日本人としての特長を生かしたメイクや表現で、世界一に輝いた。「日本人でも世界で美しさが認められ、人間性が認められるんだ。ならば私も、自分を美しいと思えるかも」と希望を感じました。

その後、ニューヨークの美術大学でファインアートを学びました。3年生の時に単位取得のためのインターンシップ制度があり、思い切って森理世さんを担当したニューヨーク在住のメイクアップアーティストに会いに行きました。その後、彼女のアシスタントを5年間やらせてもらい、4年目くらいからはトランスジェンダーの人向けに、ひげや骨格をカバーするメイクのセミナーも始めました。

もう一つの「僧侶」の道へ

――海外で華やかなメイクの仕事に携わる傍ら、どうして僧侶になろうと思ったのですか。

昔から周囲の人に「将来、家の寺を継ぐの?」と聞かれてきましたが、未来を決めつけられているようでイヤだったんです。それに、家族からは継ぐようにとは言われていませんでした。ところがニューヨークの美大に通っていた時、もの静かな韓国人の男子留学生が「兵役に行くから」と言って、帰国前にパフォーマンスアートをやったんです。軍服姿で大声を出し、訓練のように走って腕立て伏せをする……そこから彼の「兵役は嫌だし、不安で怖い」という心の叫びがひしひしと伝わってきて、とても胸が痛くなりました。その時に、「表現者が自分自身に立ち向かわない限り、他人に強烈な影響を与える作品は作れないのではないか。ならば、私が自分自身のルーツであるお坊さんの修行に立ち向かったら、どんな気持ちになるんだろう」と考えたのです。

でも、修行は本当に大変でした! 毎日、正座しっぱなしで、携帯電話も持てないし、お菓子もない。正座の足を少し崩しただけで「お前は自分の親が死んだときに、足を崩してお経を唱えるのか!」と叱られます。「やる気がないなら下山しろ!」としょっちゅう言われ、実際に体調を崩して下山した子もいました。

修行中の西村さん(左から3人目)

道場では、みんなと同じタイミング、同じ角度で礼をするとか、手の高さや声のトーンを合わせるとか、時間に遅れないとか、物をガチャンと置かないとか、本当に細かいことを毎日、言われました。でも最後には、みんなの動きがスッとそろってきて、それがとても感動的でした。修行を通じて、協調性や周りを見る力、助け合う大事さなどを学べましたね。

――ただ、別の「葛藤」もあったと聞きました。

浄土宗には、男性と女性でやり方が違う作法がいくつかあります。たとえば、朱肉を指につけて判を押す「血判」は、男性は左手で、女性は右手で行います。また、象の形をした香炉の煙をまたいで身を清める「触香そっこう」では、男性は左足で、女性は右足でまたぎます。でも私は、体は男性だけれど心はそうでなかったので、どちらの作法をしたらいいのか悩みました。さらにメイクの仕事をし、ハイヒールを履いたりキラキラした服でおしゃれをしたりすることもある。そんな自分がお坊さんになることで、僧侶全体や浄土宗のイメージが悪くなってしまうのであれば、私は僧侶になるべきではないと悩んだのです。

思い詰めた私は、ある先生に少しぼかして「周りにトランスジェンダーの人がいるのですが、作法について、どのようにアドバイスすればいいですか」と質問しました。すると先生は、より位の高い先生に私の質問を伝えてくださいました。その先生は「浄土宗の一番大事な教えは、(浄土宗の開祖の)法然上人が『皆、平等に救われる』と言われたことです。作法は後からできたものなので、左右どちらでも好きな方でやってください」とおっしゃったんです。ファッションについても、「法然上人の教えが伝えやすくなるのであれば、キラキラしたものを身に着けても問題ないと思います。今のお坊さんはワイシャツを着たり時計をつけたりしていますから、何が違いましょうか」と言ってくださった。その時に「自分らしいままで僧侶をやってもいいんだ」と自信が持てました。

二つの西村さんの姿を表すアートビジュアル

その後、「メイクアップアーティストで、僧侶で、LGBTQの当事者」として活動を続け、海外メディアにも取り上げられました。ある方からは「私の宗教では『LGBTQは罪だ』とされています。でも、あなたのように僧侶で自分のセクシュアリティーについて正直に話して活躍する人がいて大変感銘を受け、両親にカミングアウトすることができました」というメッセージをいただきました。私が着飾り、メイクすることも、人々に関心を持ってもらう入り口になる。それをきっかけに、世界の人々に仏教の「皆が平等である」という教えを伝えていくことが私の役割なのだと、確信を持てるようになりました。

誰もが美しく平等でいられる世界に

――これからしたいことはありますか。

昨年は、有名なミスコンテスト5大会のすべてで黒人女性が優勝しました。様々なところで平等が認識され、互いを尊重する考え方が広がり始めています。まだまだLGBTQの仲間や多様な美しさがあるということに対する認識が追いついていないと感じられる場面も多々あります。私は、誰もが美しく平等でいられる世界に変わっていくよう貢献したい。お坊さんだから質素じゃないといけないとか、LGBTQだからこうなんじゃないかという思い込みに対して、「そうじゃない人もここにいますよ」と表現したいです。

撮影・田中昌義

――大手小町の読者にメッセージをお願いします。

多くの人がご自身で旅をしたり、映画を見たり、話を聞いたりして、いろいろな人の多様なストーリーを知っていくことで世界が広がり、「〇〇が当たり前」という考え方がなくなれば、巡り巡って自分が生きやすくなることにつながるのではないかと思います。ぜひ、ご自身のありのままの美しさを信じてくださいね。

(取材・文/メディア局編集部 李 英宜)

西村 宏堂(にしむら・こうどう)
メイクアップアーティスト・浄土宗僧侶

1989年、東京都出身。ニューヨークのParsons School of Design卒業後、メイクアップアーティストのアシスタントを経て、独立。日本語、英語、スペイン語を操り、ミス・ユニバース世界大会やミスUSA大会などでメイクを担当。ハリウッド女優やモデルからも高い評価を得る。2015年には日本で浄土宗の僧籍を取得。19年から日本でも活動の幅を広げ、メイク指導も行う傍ら、僧侶としてLGBTQをめぐる問題に取り組む。今年春に自叙伝を出版予定。公式ウェブサイトはこちら。Instagram: @kodomakeup

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