源氏が愛した安綱の刀剣を鑑賞し、いにしえに思いをはせる奈良の旅

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国宝や重要文化財の刀剣を集めた「最古の日本刀の世界 安綱やすつな古伯耆こほうき展」が、奈良市の春日大社国宝殿で開催されています。門外不出の国宝「どうぎり」などを目当てに連日、多くの人が訪れている奈良の地に、刀剣ファンの記者も足を運んでみました。

「門外不出」の最高傑作・童子切

安綱は、平安時代に伯耆国(現在の鳥取県中西部地域)で活躍した、京都の三条宗近と並ぶ最古級の刀匠。伯耆国で作られた刀剣は「古伯耆物こほうきものと称されています。今回の展覧会には、安綱の作品はもちろん、一門の国宝、重要文化財のほとんどを集結させました。

鋒から鑑賞する人も多く見られます

この展覧会で最も話題になっているのは、「天下五剣」の一つ「童子切」。源頼光が酒呑童子しゅてんどうじという鬼を斬った刀として言い伝えられている太刀は、安綱の最高傑作と言われ、1000年を経てもなお完全な姿を保っています。

童子切は足利将軍家が秘蔵し、その後、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の手に渡り、越前松平家に贈られ、のちに津山藩(岡山県)の松平家に伝わったという由来があります。現在は東京国立博物館の所蔵。今回の展覧会は、「門外不出」とされる刀が春日大社に来ただけでなく、360度全方向から鑑賞できるという刀剣ファンには極上の環境が整えられています。記者が訪れた時も、童子切のきっさきに目線を合わせたりするなど、じっくり鑑賞するファンが多く見られました。

童子切のほかにも、安綱の刀剣が源氏ゆかりであることが見て取れるのは、この展覧会ならでは。京都・北野天満宮所蔵の「鬼切丸」(別名・髭切ひげきり)は、源頼光が家臣の渡辺綱に貸し出し、鬼の腕を切り落としたといういわれがあります。また、大阪・壺井つぼい八幡宮所蔵の「天光丸」は、一説によると、「鬼切丸」と同じ玉鋼たまはがねで作られた“雌雄の太刀”と呼ばれ、源頼信、源義家に伝わったとされています。

ほかにも、人気オンラインゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」の刀剣男士のモチーフとなった刀剣「太刀 銘 有成ありなり(石切丸)」「薄緑丸」が展示されているため、“審神者さにわ”と呼ばれるゲームファンもたくさん来場しています。

審神者など刀剣ファンは、全国各地で展示される名刀を鑑賞するため、“遠征”することで知られています。今回の展覧会では、日本刀の刃文や映りも見やすいように展示されているため、今まで見たことがある刀でも、さらにその刀の特徴や美しさがはっきりとわかるはずです。

春日大社国宝殿学芸員で権禰宜ごんねぎの荒井清志さんは「今まで古伯耆の刀剣がこれほどいっぺんに展示されることはなかったと思います。まるで“900年ぶりの同窓会”という感じ」と評します。

平安時代の刀匠から脈々と続く職人の技

安綱とその一門の刀剣を堪能した後に立ち寄ってほしいオススメの場所があります。春日大社から徒歩10分もかからない若草山の麓にたたずむ「三條小鍛冶宗近本店」です。包丁やはさみなどを製造・販売する老舗で、その広い店内には刃物がずらり。加えて、観光地ならではの土産や、オンラインゲーム「刀剣乱舞」の刀剣男士をイメージした商品も取りそろえられています。

三條小鍛冶宗近本店の店構えは歴史を感じさせます

審神者には名の通った店で、記者が訪れた時にもファンと見られる若い女性客の姿が目立っていました。なぜ彼女たちがこの店に引き付けられるのか。それは、平安時代の刀匠で国宝の太刀「三日月宗近」を打った三条宗近の子孫によって創業されたから。ゲームには、この太刀がモチーフとなった人気キャラクター「三日月宗近」が登場しています。そのこともあり、ネット上では、この店は“三日月宗近の実家”“審神者の聖地”などとも称されています。

「わかっている範囲で、私で29代目」と代表取締役の小鍛冶英一さん。創業は室町時代まで遡るそう。ただ、オンラインゲーム「刀剣乱舞」が5年前にスタートしてから、店を訪れる客層が明らかに変わったといいます。「若い女性が増えましたね。そして、ただキャラクターが好きというだけでなく、刀剣や鍛刀について勉強しているようで、知識が豊富で驚きました」と教えてくれました。

代表取締役の小鍛冶英一さんは「審神者のみなさんはとても勉強熱心です」と語ります。包丁の柄には店名の焼印があるものも

彼女たちがこの店で主に買い求めるのは包丁だそうです。日本刀の素材に近い鋼で作られた包丁は値段も高く、さびるのでまめな手入れが必要といいますが、「ゲームファンは値段をあまり気にせず、見た目で買うことが多い。買った包丁を使わずに飾っておく人もいるんですよ」と小鍛冶さん。

店員と客との親密な会話もこの店ならではです。長いすに座り、お茶とお菓子をいただきながら、刃物やゲームなどの話を楽しんでいて、まるで知り合いの家に遊びに来たのかなと感じるほど。見知らぬ審神者同士でも話の輪が広がり、あっという間に楽しい時間が過ぎていきます。

奈良で平安時代の刀剣に接し、それぞれの持つストーリーをかみしめながら、いにしえに思いを馳せるのも、日頃の疲れを癒やすのにもってこいではないでしょうか。

「最古の日本刀の世界 安綱・古伯耆展」は3月1日まで。

 (取材/読売新聞メディア局編集部 杉山智代乃)