ペットショップやふれあいカフェなどで数年前から、ハリネズミがブームになっています。2020年は、子年。1月23日には講談社から、ハリネズミ界の大スター・ヨツユビハリネズミの父娘「あずき&もなか」のポストカードブックが発売されるほどの人気ぶりです。二匹の飼い主で、ポストカードの撮影者でもある写真家・角田修一さん(44)に、ハリネズミとの暮らしや魅力を聞きました。
インスタのフォロワーは41万人超。世界に愛される父娘
――父の「あずきちゃん」と娘の「もなかちゃん」。二匹の日常を写したインスタグラム(インスタ)のフォロワーは41万人を超えるとのこと。大人気ですね。
2016年にあずきを飼い始めた時に、一緒にいた思い出を残したいとインスタを始めました。カメラマンとして、これまで動物を撮ったことはなかったのですが、毎日撮るうちに「このタイミングで撮ったら、もっとかわいいんじゃないか」とプロの目線になってしまって(笑)。
気づけば動画が海外でバズったり、テレビにも出させていただいたりして、フォロワーが一気に増えました。
――残念ながら、昨年1月20日にあずきちゃんは亡くなったそうですね。ポストカードブックの発売が一周忌に近いのも奇遇です。親子が一緒に写っている最後の作品になるのでしょうか。
そうですね。あずきが亡くなった後、昨年3月末に都内で「あずきの最後の写真展」を開きました。僕の中ではそれでけじめがついているので、たぶんこれがあずきをたくさん見られる最後の機会になるんじゃないかな。これからは、もなかが一人で頑張っていきます!
――二匹の表情がイキイキしてとてもかわいいですね。背景や小物などのセットも、二匹の愛くるしさを引き立てていて……たまりません。
作品のテーマは「小人の世界」です。ハリちゃん(ハリネズミ)たちが人間の世界に忍び込んで、キッチンでごはんを作ったり、いたずらしたり……そんな絵本のような世界観をイメージしました。SNSに載せていない写真もいっぱいありますよ。

この作品は、うちの子だけでなく、インスタで人気のハリネズミが一堂に会しているのもポイントです。ハリネズミの写真集の中でも、究極的にいい表情がぎゅっと詰まった作品ができました。一番輝いているハリちゃんたちを見ることができると思います。
一回丸まると、ずっとそのまま…頑固な一面も
――みんなカメラ目線で、お利口です。
実は、ハリネズミって撮影が難しい。夜行性なので、ストロボのような強い光を当てるとショックで死んでしまうこともあるそうです。僕はすごく怖いので、一切使いません。
しかも、あずきは大丈夫だったんですけど、もなかは怒りん坊というか、ギュッと丸まってしまいがちなので、ますます難しくて。ハリネズミの多くは、もなかと同じように人間に懐かず、暗闇の方に逃げる習性があります。一回警戒して丸まってしまうと、一日中そのままの時もあるんですよ(笑)。
――えー! 意外と頑固なんですね。
あずきの場合は、ギュッとなっても、だんだんホワァッと手足を開いていたので、それが普通だと思っていました。もなかも娘だし、似るかなあと思ったら、真逆の性格で。一回怒ると、「フシュッ! フシュッ!」って鳴きながら、ずっと丸まっているんですよ。
だから、撮影はのんびりやっています。もなかの表情や体調を見て、「今日は難しいなあ」と感じたら、撮影はすぐにやめます。こっちも頑固になってしまうと、ハリちゃんにストレスがたまっちゃうから。
あずきは20~30枚撮れば、5、6枚はいい写真がありましたが、もなかは100枚、200枚撮っても、いい顔がない時もあります。
――性格もさまざまで、愛らしいです。表情が変わるというのも驚きました。
僕も飼う前は、表情が一種類しかないと思っていました。でも、全然違いますよ。怒って目がギュッとなる日は、もうどう撮ってもかわいくない! 逆に、好きなおやつを見せた時には、目がパッと輝きます。

――あずきちゃんを飼い始めたきっかけは?
小さい頃から、いろいろな動物を飼っていたこともあり、最初は犬が欲しいと思っていました。息子と娘が中学生になり、ペットのお世話を手伝ってくれる年齢になったので、嫁に相談してみたんです。ところが、息子が小さい頃、動物アレルギーがあったので、めちゃくちゃ怒られて……。
その時、嫁がとっさに「ハリネズミでも飼ったら!?」と言ったんです。僕、実はネズミが苦手で、最初は「あり得ない」と怒りました。
ところが、なんとなくネットで検索してみたら、すごくかわいい写真ばかり。もうそのままペットショップに見に行き、飼い方を勉強して1週間後にはお迎えしちゃいました。
――まさに運命の出会いをしたんですね。実際に飼ってみていかがでしたか。
最初は、背中の針がすごく怖かった。革手袋をつけて触っていましたが、しばらくすると、小屋を掃除する時に恐る恐る素手で触るようになりました。
そうやって触れ合う時間を少しずつ増やしていくうちに、背中をなでていると腕の中でペタッと体を伸ばしてくつろいでくれるようになり、それがたまらなくて……。いつの間にか、僕の癒やしになっていましたね。
ハリ飼いに必要なのは「Mの精神」
――私もすでに飼いたくなってきました(笑)。
散歩はいらないし、病気じゃない限り、飼い主が仕事に出かけている日中は寝ていてくれる。ご飯も基本的に1日1回でいいので、働く女性にもおすすめですよ。僕も夜9時、10時に帰宅してハリちゃんにご飯をあげると、起きてきて食べたり、回し車で走ったりしています。

――本当ですか? 実は、以前ハリネズミと暮らしたいと思ってペットショップに行ったことがあるのですが、「飼うのが難しいです」と言われて挫折してしまって……。
体臭はないのですが、やはりふん尿は臭うので、毎朝、掃除は必要です。だから、面倒臭がり屋の人は難しいかなあ。
あと、温度管理には気を使いますね。25度くらいが適温と言われますが、ハリちゃんによって違います。うちの子に限っては、28度くらいが一番リラックスするみたいです。その温度を通年維持するために、エアコンは夏も冬もつけっぱなし。ハリちゃんの小屋も、上下を温度調節器具で挟み、冷えないよう気をつけています。
さらに、見てくれる病院や預かってくれるペットホテルも少ないので、事前に探すことが必要です。
――ご飯の話でいうと、ミルワーム(ゴミムシダマシの幼虫)をあげないといけないんですよね?
フードの中には、ミルワームの粉末が入っているものもあるので、あげなくても平気です。ただ、一度あげると飛びつきがすごいので、だんだんあげられるようになりますよ(笑)。
やっぱり、一番は「M(マゾヒズム)の精神」というか、献身的になれる人が、ハリネズミを飼うのに向いていると思います。常に「ハリネズミ様」と仕えるような気持ちでないと。
まずは、「ハリネズミは懐かないもの」とちゃんと理解すること。10回のうち8、9回はそっぽを向かれるけれど、1、2回は小屋から顔を出した時に目が優しかったりする。背中を触って怒られてばかりなんだけれど、機嫌がいいと、クルッとあおむけになってくつろいでくれたりもする。
そういう小さな喜びを、信じられないくらいかみしめられる人は、すごく向いていると思います。
SNSで「ハリ飼いさん(ハリネズミを飼っている人)」たちの文章を見ていると、みんなそうです。「今日は、体を開いてくれた」「腕の中で寝てくれた」と、小さな「くれた」に幸せを感じる人がすごく多い。
――大変さをうかがっていたはずが、いつの間にか全部魅力になっちゃいましたね(笑)。
そこが、ハリ飼いのM精神ですね(笑)。体の半分が針だらけで「悪魔」みたいなのに、おなかを見せるとモフモフした「天使」が出てくるというギャップも魅力。毎日ツンツンされながらも、やっと気を許してくれたという「自分だけに気を許してくれている」感覚がうれしいんです。
――ああ、ますますお迎えしたくなってきました。
ただ、最近ちょっと責任を感じていることがあって……。さきほども言いましたが、僕は、もなかの様子を見て、無理のない範囲で撮影しています。例えば、あずきは帽子をかぶせても平気でしたが、もなかは嫌がるので、めったにかぶせません。
でも、僕たちのようなインスタグラマーがアップした写真を見て、ハリちゃんが嫌がっているのに撮っちゃう人や、身動き取れない衣装を着せるケースが出ているようなんです。

――「写真映え」が流行していることもあって、難しい問題ですね。
あとは、「懐いてくれると思って飼ったけど、イメージと違った」と捨ててしまう事例もあると聞きます。“かわいい”や“映える”という理由だけで飼うのはやめてほしいなあ。ほかのペットも一緒だけど、飼うとなったら、事前に徹底的に調べてほしいし、いっぱい愛情を注いでもらいたいです。
ハリネズミのお世話は、8割くらい大変だけど、残りが尋常じゃないくらい癒やしをくれる存在。お世話で、毎日が楽しくなりますよ!
(取材/読売新聞メディア局 安藤光里)
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