離婚後の養育費支払い「私は無関係」と言えないワケ

弁護士三輪記子の「女もつらいよ!」

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最高裁の司法研修所が、離婚後に支払われる養育費を決めるために裁判所が利用している算定表の内容を変更し、このほど公表しました。離婚する夫婦それぞれの収入などによって違いはありますが、月額で1万~2万円程度、養育費の基準額が引き上げられるケースが多くなりました。

養育費は、子どもとの日々の生活のために必要なお金です。しかし、離婚する夫婦が家庭裁判所の調停(または審判)で養育費の金額などを決める際、金額の算出に必要な証拠書類などを夫婦の双方に提出させて厳密に決定しなければならないとしたら、金額が決まるまでに長い時間がかかってしまう懸念があります。そこで、裁判官らの研究会が2003年、簡易・迅速に金額を決めるために算定表を作り、各裁判所がこれを活用してきたのですが、かねてから、算定表で示される金額が低すぎるのではないかとの指摘がありました。

母子世帯の過半数が受給なし

「今、養育費をもらっている」「今、養育費を払っている」「養育費なんて、自分には全然関係ないよ!」。このコラムの読者は、どんな立場にいらっしゃるのでしょうか。養育費の問題がどれくらい「身近」な話なのか、データをもとに見ていきましょう。

厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査」(2016年度)によると、母子世帯は約123.2万世帯にも上ります。父子世帯は約18.7万世帯です。ひとり親世帯のうち約86%が母子世帯なので、養育費を払うべき立場にいるのは男性(父)が圧倒的に多いのです。そして、ひとり親世帯になった理由の大半は「離婚」で、母子世帯の79.5%、父子世帯の75.6%になります。つまり、「離婚」により、一人親世帯となる家庭が相当数あるということになります。

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同調査では、母子世帯の年間平均就労収入は200万円、父子世帯は398万円となっています。母子世帯の就労収入は父子世帯の半分程度と、経済状況が厳しいことがうかがわれます。男女の賃金格差が母子家庭の経済状況を逼迫させていることも明らかです。

にもかかわらず、母子世帯の養育費の受給状況は、「現在も養育費を受けている」のは24.3%にとどまり、「養育費を受けたことがない」が56.0%に達しているのです。

支払い確保、日本は“後進国”

「離婚したとしても、子どもは父と母とで育てるもの」という理念から、子供と離れて暮らす親(非監護親)は養育費を支払わなければならないと法律で定められています(世の中にはあまり知られていないかもしれませんが、「母子及び父子並びに寡婦福祉法」という法律もあります)。ところが、裁判所で決められた養育費が低すぎたり、決められた養育費をちゃんと支払わない人が多かったり、ちゃんと支払われない場合に強制的に養育費を回収する手続きが煩雑だったりといった実態があり、長年、問題視されてきました。これらの問題のうち、裁判所で決められる養育費が低すぎるという問題に光が当たったというのが、今回のニュースです。

この問題を考えるうえで、一番大切なのは「子どもの福祉」です。親の経済状況などに左右されることなく、子供もを健全に育てることは、社会の責任であるといえます。今回の養育費算出表の見直しも、社会的要請を受けてのことといえるでしょう。子どもたちの未来を考えると、この機会に養育費の金額を適正化するだけでなく、養育費の支払いを実効性のあるものにすることも重要だと考えます。

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この点に関して、日本はまだまだ“後進国”だと言わざるをえません。世界には、養育費支払いの実効性を高めるための制度を導入している国がたくさんあります。例えば、アメリカでは養育費を給与天引きにする制度があるほか、養育費を一定額以上滞納すれば、運転免許停止などの制裁措置がとられるという州もあります。不払い者には裁判所侮辱罪などで刑事罰が適用されることもあります。ドイツでも、不払い者から養育費を給与天引きする制度や、州政府が養育費を立て替える制度などが導入されています。日本ではこういった制度がないことにより、「養育費を受けたことがない」母子家庭が56.0%にも達しているといえます。

養育費問題は、決して「私とは関係ない」話ではありません。まずは現状を知り、少しでも良い方向に変えていくためにどんなことができるか、一緒に考えていきたいものです。

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三輪記子
三輪 記子(みわ・ふさこ)
弁護士

 三輪 記子(みわ・ふさこ) 弁護士。1976年生まれ、京都市出身。東京大学法学部卒、立命館大学法科大学院修了。2010年、弁護士登録。「白熱ライブ ビビット」(TBS系)、「キャスト」(朝日放送)などにレギュラー出演し、コメンテーターとしても活躍中。2017年に女性弁護士2名の事務所「東京ファミリア法律事務所」を開設。