別れる前提で夫と暮らす…小島慶子が「エア離婚」を選んだ理由

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TBSの元アナウンサーで、コメンテーター、エッセイストとして活躍する小島慶子さん。テレビディレクターだった夫が仕事を辞め、2014年に夫と2人の息子とともに、オーストラリア・パースに移住しました。日本で働きながら、オーストラリアと行き来する生活を続けている小島さんに、子育てや夫婦関係について聞きました。

よく私と結婚しているね?

――オーストラリアでの移住生活が5年になりました。結婚や子育てを振り返って、どのように考えていますか。

夫婦ですから山あり谷ありです。ただ、夫とは子育てユニットとしては、いい関係だと思います。子どもを育てていると、お金のことや学校のことなど、夫婦で話し合わなければいけないことがたくさんあります。そういう話し合いがきちんとできる人だったというのは、本当に良かったです。

――結婚の決め手はなんだったんでしょう。

結婚前に同居を3年続けていて、その状態に飽きちゃったんです。友達の結婚が続いていた時期でもあって、「結婚式っておもしろそう」と思っていました。人生にイベントがほしいタイミングだったんです。私は「出力が高そう」とか「じゃじゃ馬」などと、母にも姉にも友達にも言われていましたから、私と結婚する人って大変だろうなと思っていました。それなのに、夫は3年間も同居して平気でした。今でも1年に1回くらい、「よく私と結婚しているね?」って聞くんですが、「一緒にいるとおもしろい」って言ってくれます。

閉ざしていたフタがパッカーン

――そんなすてきなご主人と最近、「エア離婚」を決めたそうですね。

長男を出産した後、いわゆる産後クライシスの状態に陥っていたとき、夫が人道的にありえないことをしました。詳細は控えますが、人としてやってはいけないことです。当時は、幼子を抱え、今はこの子を育てなければと必死でしたから、夫の不義に目をつぶり、なかったことにしようと封印しました。6年前に夫が仕事を辞めて、共働きから私一人の片働きになり、子どもたちもティーンエイジャーになって子育ての手が離れてきました。私が夫から精神的にも経済的にも自立したら、堅く閉ざしていたふたが開いたんです。パッカーンって。

そのとき、「あっ」って思いました。あの問題、ずっと封印していたけれど、「お前、だいたい、あんなことしやがって」って怒りが噴出し、夫との関係を改めて考えました。子育てユニットとしては、信頼しているし、相性もいいと思います。でも、子育てが終わって、その先も2人で生きていくのだろうか、そのときどうするかはゼロベースで考えてみたらいいんじゃないか、と。

――そんなことを急に言われたら、夫はびっくりしてしまいます。

急にではないですよ。ふたが開いてから何年もかけて繰り返し伝えています。夫が過去にやったことについては、なかなか気持ちの整理がつきません。長く封印していた分、毎日のようにフラッシュバックして苦しくなり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のようになっています。このままの気持ちで、「老後もよろしくね」とは言えません。だから、「お別れを前提として同居することにしません?」と提案しました。

夫は、聞こえないフリをしたり、はっきりした返事をせずに逃げまくったりしましたが、それでも折に触れ、「子育てが終わった時点で離婚したいと思っていることを理解してほしい」と訴え続けました。昨年、ようやく夫が納得してくれて合意に至りました。でも、法的な手続きはしておらず、家族の形も変わりません。これが「エア離婚」です。「この人とずっと一緒にいなきゃいけない」と思うこと自体が苦しかったので、別れる合意が成立したことで、ずいぶん気持ちが楽になりました。

憧れだった「妻プレイ」

――もう何年も前の話ですから、ご主人を許してあげても良かったのでは。

許せたらどんなに楽だろうかと思います。でも私にとっては、どうしても人として許せないことなんです。普段は温和で真面目な人です。ただ、一度そういうことがあると、「なるほど、彼にはそういう知られざる一面がある」と思ってしまいます。そして、日常の一つひとつの行動の読み解き方が変わってしまいます。あの行動もこの行動も、すべて地下水脈でつながっていると思ってしまうんです。それは、当人も自覚していないことかもしれません。はたから見て分からなくても、夫婦の間にはそういうことってありますよね。

――実際に「エア離婚」をして、いかがですか。

私、名字が変わることに憧れていました。名前が二つあるっておもしろそうだなあと。「主人が……」とか、「うちの夫が……」という「妻プレイ」にも興味がありました。法律婚をしてみたいと強く思っていました。だから、法律婚をすることに全く抵抗はなかったんです。でも、最近になって、戸籍上、法律上、この人の「妻」であることに何の意味があるんだろうって考えるようになりました。

オーストラリアでは、事実婚が法律的にもサポートされているんですが、それを見ても、この「婚姻」っていう法的なつながりって私にとってどんな意味があるんだろうと。例えるなら、私たち家族は歯並びを直す矯正器具を外しても、もう揺るがない関係なんです。たとえ今、私と夫が法律上の夫婦関係を解消したとしても、家族の信頼関係は変わりません。そう考えると、法律上の妻であることが、自分にとってむしろ重荷になっていることに気づいたんです。

結婚する相手に求めるべきこと

――無職のご主人にとっては、このまま「リアル離婚」となれば、経済的に追い詰められます。

だから、時間が必要ですよね。夫には「離婚するかどうか実際に決めるのは、子どもの教育が終わったら」と話しています。「エア離婚とは、離婚を視野に入れて生活することについて、合意が成立していることを確認するもの。数年後、実際に離婚することになったら、今のように私のお金はあてにできなくなるから、自立の手段を考えておいてください」と。彼は、オーストラリアに移住してから子育てに集中していたので、自身が次のステージに進むことについては思案中でした。

夫婦ですから、一方に頼ることがあってもいいと思います。ただ、私だって病気になるかもしれません。不安定な仕事ですし、いつまで大黒柱として機能できるか分かりません。夫には「何か始めてみたら」とずっと言い続けていました。「エア離婚」という言葉がきっかけになったのか、新たに勉強を始めました。外国語で何かを学ぶというのは大変なことですから、夫の決断をリスペクトしています。

――恋愛に悩んだり、仕事を辞めたいとこぼしたり、夫婦関係がうまくいかないとふさぎこんだり……。モヤモヤを抱えている女性が少なくありません。

それは、いわゆる“モヤモヤ耐性”が高いのかもしれませんね。私は、モヤモヤ耐性がとっても低くて、モヤモヤした気持ちを抱えていられず、すぐに「では、こうしよう」と行動に移してしまいます。モヤモヤ耐性の高い人は、モヤモヤしている状態で日常生活を送れる強さがあります。私はそこが弱くて、「嫌い」とか、「許せない」とか思い続けることのほうがつらいんです。人生には思い通りにならないことがたくさんありますが、誰かを恨んだり、憎んだりして事態が好転するわけでもないし、たとえ呪ったところで相手はそうそう不幸にはなってくれません。モヤモヤしていると、時間も体力も無駄。小さなことでも、どうするかを具体的に決めてしまったほうが、たとえ想定通りにいかなくても、それなりに学ぶことがあるはずです。

――婚活中の人や夫婦関係に悩んでいる人にアドバイスをいただけますか。

お金のこと、親戚のこと、セックスのことなど、夫婦になるといろいろな問題があります。面倒でも、やはりパートナーと話し合う必要があります。特に、一番話しづらい性について、互いに率直に話し合える間柄であれば、ほかの事柄でもちゃんと会話ができるのではないかと思います。例えば女性の生理についてもそうですし、避妊のことなどを含めて、お互いを理解するために、きちんと話し合うことが大切です。その延長上には、例えばセックスレスの危機をどうやって乗り越えるかなどのセンシティブな話し合いもあるでしょう。「そんな話聞いたら、気持ちがなえる」なんて言って、話し合いに応じない男性は早いうちに見限ったほうがいいと思います。ラブラブな関係のときにこそ、ちょっとしにくい話題に踏み込んで話してみてください。

(聞き手・メディア局編集部 鈴木幸大、撮影・稲垣純也)

小島 慶子(こじま・けいこ)

エッセイスト、タレント。東京大学大学院情報学環客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員、NPO法人キッズドアアドバイザー。1972年オーストラリア生まれ。95年学習院大学卒業後、TBS入社。アナウンサーとしてテレビ、ラジオに出演。99年、第36回ギャラクシーDJパーソナリティ賞受賞。2010年にTBSを退社後は各メディア出演、講演、執筆など幅広く活動。14年、オーストラリア・パースに教育移住。著書多数。最新刊は『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP)。

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