ここが変だよ、ニッポンの生理バッジ!「ただいま生理中」を公にする違和感について

サンドラがみる女の生き方

百貨店の大丸梅田店(大阪市北区)が女性従業員に着用を呼びかけた、「生理バッジ」の取り組みが物議をかもしました。11月22日に女性向け商品売り場「michi kake(ミチカケ)」がオープンするのに合わせ、10月中旬から始めました。女性が「ただいま生理中」と意思表示するこの取り組みについて考えてみたいと思います。

女性のプライバシーである生理をみんなで把握する「気持ち悪さ」

生理中の女性従業員が「生理バッジ」を付けるということを聞いたとき、「これ、何の罰ゲーム?」と衝撃でひっくり返りそうになりました。女性のプライバシーである生理について、「みんなで把握しておきましょう」という感覚にある種の「気持ち悪さ」を覚えました。

一部の発展途上国の農村では年頃の女の子が初潮を迎えると、その事実はすぐに、村中に知れ渡ります。「妊娠できるようになった」ということで、女の子の意思と関係なく、村人から花嫁候補とみなされ、勝手に縁談を進める人が出てきたりします。「妊娠できるようになったから、1人で道を歩かせるのは危険」だと、今まで通っていた学校に通えなくなることもあります。「生理バッジ」の話を耳にしたとき、真っ先にこんなことが頭の中に浮かびました。

大丸梅田店の取り組みは、上記のようなことと単純に比べられるものではないかもしれません。というのも、報道などによると、店側はバッジ着用は女性のお客さんと、体調などについて話す際のコミュニケーションに役立てることを目的としており、生理をポジティブにとらえてほしいという意気込みのようなものが確かに伝わってくるからです。

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そうはいっても、いったんプライバシーが公にされれば、それがどういう形で「独り歩き」するのか分かりません。前述の発展途上国の村のように「勝手に縁談をまとめる人」はさすがに21世紀の日本では出てこないでしょう。しかし、「ただいま生理中」と公表することで、女性のプライバシーを巡って「早とちり」や「曲解」をされる危険が潜んでいます。

「いつ来ても、あの店員さんは生理バッジをつけていないわ。痩せ形だし、もしかしたら無理なダイエットで生理が来ていないのかしら?」

「あら、あの店員さんは子どもがいて授乳をしているはずなのに、なんで生理が来ているのかしら? まさか母乳ではなく、粉ミルクをあげているのかしら?」

「あの店員さん、あの年齢で生理があるのね、ビックリ」

こんなふうにいらぬ世話を焼く客もいるかもしれません。興味本位でじろじろ見る人がいないとも限りません。センシティブなプライバシーにもかかわらず、残念ながら他人が勝手にジャッジするネタを提供していることになります。

欧米諸国は日本よりも生理についてオープンな雰囲気はありますが、「ただいま生理中」と示すことはありません。生理について「オープンさ」を追求するなら、岡田育さんがツイッターで紹介していたサニタリーショーツのブランド「thinx」のコンセプトショップ「The Rest Room」のように、写真や丁寧な説明で生理への理解を深めることが理想的だと思います。

アメリカの「The Rest Room」では自らの生理の体験を付箋に書いてボードに貼ることができますし、他の人の生理にまつわる意見を読むこともできます。店舗には「Every-body is welcome(どんな身体の誰でもどうぞ)」と書かれており、女性に限らず全員が気軽に入ることができ、オープンな雰囲気です。

先日サニタリーショーツ買った「thinx」のコンセプトショップ「The Rest Room」の写真を置いときますね。奥の試着室前には付箋貼るボードがあって、みんなが生理について思うこと書き綴ってる。けど、誰がいつ生理中かなんて情報はさらされませんよ

(岡田さんのツイッターから)

「生理はタブー」から「生理バッジ」へ…なぜ、こんなにも極端なのか

冒頭に書いた通り、「生理バッジ」のことを聞いた時、最初は衝撃を受けましたが、考えてみると「バッジをつけるというのは、いかにも日本的」とも思いました。

ニッポンでは、「生理のことは口にするものではない」とされ、タブー視されていました。それが、最近になって少しずつ、「生理をオープンにしましょう」という流れになると、今度はバッジを着けて、「ただいま生理中」をだれの目にも明らかにするという極端な取り組みに。どうして、「タブー」と「バッジ」の「あいだ」がないのでしょうか。

仮に、会話のやりとりの中で「自分が生理中である」ことを伝えたい場合、バッジで示さなくても、自分の口でそう伝えればいいのです。妊娠中を示すマタニティーマークのバッジはドイツにありません。ヨーロッパの感覚からすると「妊娠中でつらい」ならば、「すみません、妊娠中なので席を譲ってもらえませんか?」と声をかけるのが自然です。(もちろん明らかに妊婦だと思われる大きなおなかの女性がいれば、自ら席を譲ってくれる人が多い)。

ドイツの電車やバスでは、「昔の事故の後遺症で立っているのがつらいので、席を譲ってもらえないかしら?」とお願いすることも、それに対して「それは大変ですね、どうぞ」というやりとりも日常的な光景です。筆者も以前、ドイツで散歩中に信号待ちをしていたところ、杖をついたおばあさんに「一緒に横断歩道を渡ってもらえないかしら?」と声をかけられ、付き添っただけでとても感謝されました。

ニッポンでは「自分から言うのは恥ずかしい」「自ら求めるのはおこがましい」という気持ちがあって、思いやりの行為を相手の親切心や良心に委ねる傾向があります。でも、生理を本当の意味で「オープン」にするなら、「会話をすること」は避けて通れない道だと思います。

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生理への理解を深めるために

生理への理解を深めるには、大々的なプロジェクトや思い切った取り組みなどに頼らずとも「日常の生活」でできることもあります。先日、筆者がドイツのある会社の日本オフィスを訪れたところ、オフィスが小さいこともあって、トイレが男女共用でした。

当然ながら、男女ともに社員はもちろん、お客さんもこのトイレを使います。トイレの棚には、トイレットペーパーとともに、パンティーライナーや様々な種類の生理用品がきれいに並べられていました。親しくしている女性従業員に聞いたところ、「女性の従業員や女性のお客さん」が使えるために置いているとのことです。ポーチなどに入れたり紙袋に包んで隠すわけでもなく、トイレットペーパーと同じ感覚で「そのまま」の生理用品が置かれています。そのオフィスの雰囲気もあるのでしょうが、そのさわやかな雰囲気に良い意味で圧倒されました。

日本の感覚だとちょっと違和感があるかもしれませんが、「男性がいる場所で生理用品を当たり前のように置いておく」というのは「生理を広く理解してもらうため」に大事なことです。「生理用品をご自由にお使いください」というのは女性に対して親切ですし、当たり前のように置いておくことで、男性の目にも触れるわけですから、生理を「当たり前のこと」としてとらえてもらうことができます。

生理についてオープンな雰囲気があるとはいえ、欧米の男性も、生理について正しい知識を持っているわけではありませんでした。かつて、アメリカ初の女性宇宙飛行士のサリー・ライドさんが宇宙へ旅立つ準備のプロセスの中で、NASAの男性エンジニアから「確認なんだけど、1週間宇宙に行くために、タンポンの数は100個で充分かな?」と聞かれたというエピソードは、今でも笑い話として語り草になっています(※1)。

ニッポンでも被災地の避難所で、「女性1人につき1個のナプキン」を配った男性が非難を浴びました(※2)。

大丸梅田店は「生理バッジ」の取り組みをやめました。批判が多かったと思われます。

女性に「ただいま生理中」と意思表示させるよりも、世の中の半分を占める男性に対して、生理を「当たり前のこと」と理解してもらうほうが、今後のニッポンにとって大事なのではないでしょうか。

※1 生理用品の必要な数は個人差があります。サリーは「それは正しい数ではない」と答えています。
※2 生理期間中を「1個のナプキン」で過ごすことはできません。頻繁に取り換える必要があるため、個人差がありますが、複数のナプキンが必要です。

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サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住20年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ」(ヒラマツオ共著/メディアファクトリー)、「爆笑! クールジャパン」(片桐了共著/アスコム)、「満員電車は観光地!?」「男の価値は年収より「お尻」!?ドイツ人のびっくり恋愛事情」(ともに流水りんこ共著/KKベストセラーズ)など。
「ハーフを考えよう!」http://half-sandra.com/