写真集が話題のハシビロコウ「ふたば」に学ぶ愛される理由

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ハシビロコウの「ふたば」

「動かない鳥」として知られるハシビロコウ。体高120センチ前後、巨大なくちばしとつぶらな瞳が特徴です。人気アニメ「けものフレンズ」や伊坂幸太郎さんの小説「クジラアタマの王様」に登場するなど何かと話題です。今年10月には、1羽のハシビロコウの写真集まで出版されました。キャッチフレーズは「ラブリープリンセス」。愛嬌あいきょうを振りまくはずのない怪鳥がもてはやされる理由を探りに、掛川花鳥園(静岡県掛川市)を訪ねてみました。

まるでアイドルのような人気

JR東京駅から東海道新幹線「こだま」で1時間45分。車窓に茶畑と富士山を眺め、掛川駅に到着しました。駅から10分ほど歩くと、掛川花鳥園の建物が目の前に飛び込んできます。訪れたのは平日の昼にもかかわらず、駐車場には大型のバスが連なり、入り口には来園者が列を作っていました。

名古屋市からバスツアーに参加したという女性8人は、地元のヨガサークルの仲間。柴田ともえさん(68)は「ふたばちゃんとスイーツ食べ放題を楽しみに、このツアーを申し込みました」と入園券を握りながら声を弾ませていました。隣の女性(70)も「孫娘にふたばちゃんの人形を頼まれているの」と話します。

「ふたば」は、2016年3月にアフリカから掛川花鳥園に来たハシビロコウです。今年、DNA鑑定でメスであることが判明。頭頂部の羽が二つに分かれていることから名付けられました。テレビ番組で取り上げられたり、YouTubeの動画が話題になったりして注目を集め、「ふたば」を目当てに来園する人も増えたそうです。その人気にあやかって、都内の出版社がファーストフォトブック「ふたば」を販売。「撮り下ろしベストショット」「お宝写真」などとうたい、まるでアイドル並みの持ち上げようです。

きれいな花々が来園者をお出迎え

じっと見つめる姿にドキドキ

案内してくれたのは、「ふたばにぞっこん」という飼育スタッフの副島慎介さん。園内の温室に進むと、まず色とりどりの花々が出迎えてくれます。ここでは、ほとんどの鳥が園内で放し飼い。ペンギンを抱っこして写真撮影する人やオニオオハシに餌やりをする姿も。フクロウやミミズクがじっとこちらをうかがい、クジャクが目の前を悠然と横切り、ヘラサギやエボシドリが足元でくつろいでいます。

園内の一番奥にふたばが暮らす「ハシビロコウの森」があります。ほかの鳥とは隔てられたスペースに、寝室や砂場、水浴び用のプール、人工芝、巣床などがあり、アイドルにふさわしい充実の特別室です。ついに、アイドル「ふたば」と対面です。そっぽを向いたまま微動だにしない「ふたば」がいました。声をかけるのをためらってしまうほど動きません。多くのふたばファンが息をのんで、その様子をじっと見守っています。幼い頃に遊んだ「だるまさんがころんだ」をほうふつとさせます。鬼が振り向くタイミングを今か今かと待ち構えている状態です。

ふたばの人気ぶりが分かります

そのとき、「あっ……」と声を上げ、目がハートマークになっているのは静岡市に住む看護師の山中瑞希さん(28)。ふたばがこちらに顔を向けたのです。そして、瞬きもせず、一点を見つめています。山中さんは、YouTubeで動画を見て、ふたばに心を奪われました。休みを利用して、足しげく通い、この日は5回目の逢瀬おうせです。「ふたばちゃんが、私をじっと見つめる姿にドキドキします。めったに動かないのに、たまにふっと表情を変えたり、コミカルな動きをしたりすることがあって、自分だけに見せてくれる特別感がたまりません」。恋人のことを話しているみたいです。ふたばの人気の秘密が少し分かった気がしました。

体重をごまかす乙女な一面も

そうこうしていると、ふたばの周りに続々と人が集まってきました。30人を超える人が、カメラやスマホを向けています。ふたばの「ごはんタイム」です。副島さんが、コイとニジマスの2匹を持って現れると、その様子を察知したふたばがすぐに反応。ゆっくりと体の向きを変えました。副島さんが、ふたばにあいさつのお辞儀をすると、ふたばも頭を垂れます。すると、観客から「ほぉー」「はぁー」「あらー」と感嘆の声が漏れます。

「わーい、ごはんだ」。軽快に動き出すふたば
「今、行きますよ」。羽を広げて歩みを加速させたいようですがゆっくりです
「もうちょっとお待ちください」。はやる思いとは裏腹にそれほど前に進んでいません
「はい、到着」

ごはんの前に、まず、体重測定を行うのが日課です。「はい、ふたばちゃん、体重計まで来てください」。副島さんが呼びかけても、ふたばは微動だにしません。すかさず「女の子ですから、恥ずかしがっちゃって」とフォロー。すると、くちばしをカタカタ鳴らしながら、ふたばがゆっくりと歩きはじめます。観客はその一挙手一投足に固唾をのんで見つめています。体重計に片足だけ載せたふたば。「あれ、ずいぶん体重が減っちゃったねって、ごまかさないで」とたしなめる副島さんの言葉に、仕方なさそうに両足を載せました。「今日の体重は5キロ。見た目よりも軽いですね」

「体重計に片足しかのってないよ。ごまかそうとしてるでしょ」
「ん? 体重何キロになったかな」

さて、待ちに待った「ごはんタイム」です。副島さんが、ふたばのくちばしの前に好物のコイを持っていくと、その瞬間、おすまし顔のふたばに異変が。「ぐぁばっ」。巨大なくちばしを開き、野性味あふれる姿に。見ていた子どもたちは、「今、怖い顔になっちゃった」とびっくり。いくら、アイドルとはいえ、ふたばも絶滅危惧種に指定されているハシビロコウです。生存競争には抗えません。器用に口にくわえて、コイをまるのみすると、満足そうに池に向かいます。水で口ばしをすすいでさっぱり。さすが、身だしなみには余念がありません。体重を気にしたのか、好き嫌いが激しいわがままなのか、ニジマスのほうは口にするのを控えていました。

「わーい、大好物のコイだわ」
「いただきっ」
「まだ食べないわよ」
「歯がないから、かめないのよ。はむはむ」

甘え上手からのそっけない態度

ところで、ふたばは、どうやって「愛されキャラ」になったのでしょう。一つの理由は、絶妙な「ツンデレ」具合です。ふたばは長身のイケメンが好みのようで、男性スタッフと女性スタッフへの対応が違います。好意を示すクラッタリングをするのは、決まって男性スタッフ。掃除をしようとした女性スタッフに威嚇するようなこともあったそう。

副島さんにおじぎをするふたば。「ごちそうさまでした」

そうなると、特別扱いを受けている男性スタッフはふたばにメロメロです。「お辞儀やクラッタリングを繰り返し、こっちの動きを気にしているかと思えば、突然、何の興味も示さなくなって動かなくなることもあります。甘え上手な部分とそっけない態度の絶妙なバランスがとりこにさせるのでしょう」と副島さん。ある時、ふたばが地面を歩くダンゴムシをじーっと見つめている姿に心を奪われたそうです。「健気な様子が本当にかわいいんですよ」。なるほど、今風に言う「ギャップ萌え」ってやつですね。

「もう、おなかいっぱい」。そっぽをむいたら羽がハートはさすがアイドル

日本には現在、ハシビロコウが8施設で14羽います。上野動物園(東京都台東区)で4羽、千葉市動物公園(千葉市)、のいち動物公園(高知県香南市)、神戸どうぶつ王国(神戸市)でそれぞれ2羽が飼育されています。このほか、那須どうぶつ王国(栃木県那須町)、松江フォーゲルパーク(松江市)にも。伊豆シャボテン動物公園(静岡県伊東市)の「ビル」は50年近く飼育されており、世界最高齢とされるご長寿です。

各施設で人気者のハシビロコウ。全国各地へ訪ねて、それぞれの愛される理由を探ってみるのもいいかもしれません。ただ、のんびり眺めていると、知らずに時間ばかり過ぎてしまいます。どうぞ、余裕を持ってお出かけください。

ふたばのチャームポイントの頭頂部が「みつば」になることも

(取材・メディア局編集部 鈴木幸大)

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ふたば

アフリカ・タンザニア出身。メス。2016年3月15日、静岡県の掛川花鳥園に入園。推定4歳以上。温室育ちのお嬢様。性格は好奇心旺盛で、好き嫌いがはっきりしている。一度嫌いになると、関係修復に時間がかかる「こじらせ女子」な一面も。10月に初のファーストフォトブック「ふたば」(廣済堂出版、南幅俊輔撮影)を出版