「手取り15万円」とSNSで繰り広げられる「貧乏マウンティング」

サンドラがみる女の生き方

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冬のボーナスや年末ジャンボ宝くじなど、何かとお金にまつわる話題が取り上げられる季節がやってきました。お金と言えば、何はさておき大事なのは「給与」です。SNSでは、ちょっと前にツイッターで「手取り15万円」がトレンド入りしました。自分の預金通帳の残高はもちろんですが、他の人の懐具合も気になるところです。そこで、ニッポン人の懐事情について考えてみたいと思います。

「手取り15万円」では生活できない?

SNSで「手取り15万円」というキーワードが急浮上したとき、とっさに「手取り15万円だと、都内では人間らしい生活ができない」と思い、そういった内容をツイッターでつぶやいてしまいました。

厚生労働省の調査では、大学を卒業した人の初任給の平均額は20万6700円、高卒だと16万5100円(2018年)です。厚生年金保険、健康保険、雇用保険、所得税などを引かれると、月給20万円で手取りは16万円程度。ということは、「手取り15万円」は若者にとって現実的な金額です。

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ただ、「手取り15万円」とひとくくりで言っても、状況は必ずしも同じではありません。初任給が20万円を下回り、実際に「手取り15万円」であったとしても、社員寮や借り上げ住宅が用意されていれば、支出の大きなウェートを占める家賃負担は軽減されます。

一方、「奨学金の返済を抱えている」「車を購入してローンを組んだ」「実家に仕送りをしている」といった各個人の事情も大きく影響します。そう考えると、同じ「手取り15万円」でも、その価値は全く違うと言えるでしょう。

募る不満「手取り15万円」なのに…

そうはいっても、ニッポンの会社に勤める「手取り15万円」の正社員を見ていると、「さすがに理不尽だな」と思うことが多くあります。それは、給与の金額というよりも、「そのまわりにあるもの」が問題と感じるのです。

2年前に都内の飲食チェーンに就職した20代女性の例です。サービス業のため土日の出勤も多く、帰宅は深夜になります。といっても、平日に代休がきちんと取れるわけでもなく、せっかくの休みの日にも、問い合わせの電話が何度も鳴ったり、上司から呼び出されたりすることも。この働き方で「手取り15万円」だそうです。

「手取り15万円」でも、午後5時に退勤でき、土日休みといった働き方であれば、プライベートを充実させることができるはずです。ところが、給与水準が低いにもかかわらず、仕事に追われるような働き方を強いられては、仕事が私生活に悪い影響を及ぼしかねません。

こんな中小企業の話を聞いたこともあります。この会社は、社員の副業を一切認めていません。慢性的な人手不足で、社員1人が抱える仕事量は膨大になっています。急な発注や変更にも、社員個人の努力で対応を迫られているそうです。にもかかわらず、若手社員の給与は「手取り15万円」の水準にとどまっています。

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これでは、会社が遠回しにこんなふうに言っているようなものです。「あなたの時間や、あなたのエネルギーはすべて会社のために使ってください。ただし、会社はあなたの生活のことはどうでもいいと考えています」

社風の問題もあります。「手取り15万円」なのに会社の飲み会が自腹、「手取り15万円」なのに移動にかかる交通費は持ち出し、「手取り15万円」なのに有給休暇が取りづらい……。給与の不満はもとより、「そのまわりにあるもの」も不満のタネになっているのでしょう。

税金が高いドイツ、教育費がかさむニッポン

ニッポンでは企業の「初任給」が公表されています。ビジネス誌などでは、ランキング形式で紹介されることも珍しくありません。筆者の出身国であるドイツは、職種や業種によって給与が大きく異なり、一概に「いくら」と言いにくいところがあります。ニッポンのような「新卒」という概念もありません。

ドイツとニッポンで同じ額の給料をもらっていたとしましょう。ドイツは税金が高いので、いわゆる「手取り」はニッポンと比べると少ないかもしれません。しかし、小学校から大学までの学校教育はほぼ無料で受けられます。日本では、子どもの教育には何かとお金がかかりますから、給与の額面だけで単純に比較するのは難しいでしょう。

ただ、ドイツの場合、正社員はもちろん、派遣社員やアルバイトも有給休暇の日数が多く、「誰でも休暇が取りやすい」雰囲気があります。たとえ給与が低くても、精神的には楽かもしれません。仕事面の「責任」に関しても、ドイツでは役職が付いた人や経営陣が責任を負う部分が大きい。ニッポンの一部のブラック企業のように、「正社員なのに手取り15万円、ロクに休めないけれど仕事の責任は大きい」というようなことはまずあり得ません。

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不毛な「貧乏マウンティング」

これはSNSでのやりとりでたびたび見られる傾向ですが、誰かが「手取り15万円でつらい」とつぶやくと、どこからか「あなたよりも私のほうがもっと大変」「私なんて服をもう3年も買っていません」「ガスを止められました」というような「貧乏マウンティング」(貧乏自慢)が繰り広げられます。

そして、「私なんて、あなたよりもっと低い給料なのに平気です。文句を言うあなたがヘン」と突き放すようなつぶやきも見受けられます。「安い食材を買ってきて、自炊でこんな工夫をしている」といった建設的な議論ならいいのですが、誰も得をしない、不毛な言い争いになってしまうことも少なくありません。

そもそも、前述したように、「手取り15万円」を巡る状況はそれぞれ異なります。実家に身を寄せている人が「私は15万円もあれば、十分やっていけるわ」と言ったところで、都心のワンルームで一人暮らしの人にしてみれば、「何だか違う」となるわけです。

SNSをにぎわせる「手取り15万円」問題。金額だけでなく、会社の福利厚生や個人の事情や生活状況などのファクターを見ることが大事だと反省しました。といっても、社員から、やりがいやエネルギーのすべてを搾取するような働き方を強いているのに、相変わらず「手取り15万円」しか払わない会社なら、「さっさと見切りをつけてオサラバ」という判断をする必要があるかもしれません。

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サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住20年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ」(ヒラマツオ共著/メディアファクトリー)、「爆笑! クールジャパン」(片桐了共著/アスコム)、「満員電車は観光地!?」「男の価値は年収より「お尻」!?ドイツ人のびっくり恋愛事情」(ともに流水りんこ共著/KKベストセラーズ)など。
「ハーフを考えよう!」http://half-sandra.com/