電車内のベビーカー問題、子育て応援スペースの設置は「公平」か?

スパイス小町

東京都内を走る都営大江戸線で今夏、車いすやベビーカー利用者が使いやすい「子育て応援スペース」が設置された車両の運行が始まりました。ちょうど同じ頃、SNSでは、通勤時間にベビーカーで電車に乗ったら、別の乗客に舌打ちをされ、「降りろ」「こんな時間に乗るな」と罵声を浴びせられたというワーキングマザーの話が拡散していました。

ベビーカー乗車は「迷惑行為」?

「子育て応援スペース」のニュースを目にしたとき、私は仕事でフィンランドの首都ヘルシンキにいました。フィンランドは、人口規模がちょうど北海道ぐらいの小さな国。ヘルシンキの街中では、どこに行っても赤ちゃんを連れたお父さん、お母さんに出会います。積雪に対応した大きなタイヤが特徴的な存在感のあるベビーカーで、子どもと荷物を載せてズンズン突き進んでいきます。

ヘルシンキの電車には、自転車、車いす、ベビーカーの利用者の入り口が表示されている(筆者提供)

日本では、断続的に「ベビーカー問題」が浮上します。「ラッシュ時間の通勤電車に乗るな」「子どもが泣いたらうるさい」などと言い放ち、ベビーカー乗車を「迷惑行為」であるかのように断罪する声が上がるのです。

一方、私が見た限り、ヘルシンキでは「ベビーカーをたため」などという人は誰もいません。ベビーカーに冷たい視線を向けるような人もいませんでした。これは、すべての公共交通機関で、ベビーカー、車いす、自転車を載せる場所を指定しているためです。市電、バス、地下鉄のいずれでも、ベビーカーごと乗りこむ入り口が決まっています。そして、ベビーカー1台につき、大人1人が運賃無料。というのも、料金を支払うためにベビーカーを動かしたりすることが「子どもにとって危険」という考え方だからです。日本では、「ベビーカーで電車に乗るなんて危険だろう。子どもの安全を考えよ」という意見があります。でも、子どもの安全を考えるなら、こっちが正解ですよね?

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赤ちゃんに「味方」だと伝えたい

飛行機で赤ちゃん連れのお母さんの隣になったことがあります。周囲の乗客はいかにも出張というスーツの男性ばかり。彼女は私を見るとすかさず、「すみません」と頭を下げました。なぜ? 赤ちゃんが泣いてしまったとしても、それは仕方のないことだし、悪いことなんて何一つしていません。でも、先に謝られてしまったのです。これも彼女が肩身の狭い思いをしながら飛行機に搭乗しているからなのでしょう。

それ以来、私は、飛行機や新幹線で、近くに赤ちゃん連れの姿を確認したら、真っ先にニコッとするようにしています。あらかじめ、味方だということを伝えたいというか、謝られても困るというか……、やり場のないモヤモヤした気持ちにならないためです。小さな子どもがいれば、外出をしたり、電車に乗ったりするだけでも一苦労なのに、周囲に迷惑をかけていないかと精神的にもつらい思いをしているのです。これでは、少子化になるのも無理はないと思います。

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もちろん、周囲の理解は大事ですが、「ここはあなたの場所。堂々と乗っていいんですよ」という公的なお墨付きを与えることも大きなサポートです。公共空間は、誰にとっても居場所があるということですよね? 共有者がそれぞれ気遣いをすることは不可欠ですが、やみくもに「すみません」を繰り返し言わなくても使えるようにしたい。すべての電車に子育てや車いすの応援スペースが求められるはずです。

「平等」で終わっては「不公平」

まず、ベビーカーに必要なスペース(居場所)を設けることが大切です。さらに、居場所を用意するだけでなく、それが利用しやすいのかどうかを考えることも大事です。「公平」と「平等」は、似た言葉のように使われていますが、意味が異なります。移動に必要な交通機関のない地域で、「みんなに自転車を配ろう」というのは「平等」です。でも、足が不自由な人に自転車を配ったとしても移動はままなりません。必要なのは車いすです。これが「公平」です。人それぞれの状況を考えたら、「同じものを平等に配りました」で終わってはいけないのです。

都営大江戸線の車両内に設けられた「子育て応援スペース」(東京都提供)

みんなに居場所があって、そして、だれも「置いていかれない」社会とは、どんなものでしょうか? ベビーカーからのぞく赤ちゃんの笑顔を見たら、ふと日本のベビーカー問題を思い起こし、いろいろと考えてしまった北欧の旅でした。

【参考資料】「男女半々だから良い」は安易な政策 日本が目指すべきは男女平等か、男女公平か(wezzy/畠山勝太)

白河桃子
白河 桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学客員教授

昭和女子大学客員教授 、 東京大学大学院情報学環客員研究員。 内閣官房「働き方改革実現会議」民間議員、内閣府男女局「男女共同参画会議専門調査会」専門委員、経済産業省 「新たなコンビニのあり方検討会」委員などを務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事、リーマンブラザーズなどでの勤務を経てジャーナリストに。 働き方改革、ダイバーシティ、女性活躍、ジェンダー、 ワークライフ・バランス 、自律的キャリア形成などを テーマとする。著書に『御社の働き方改革、ここが間違ってます! 残業削減で伸びるすごい会社』(PHP新書)、『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(是枝俊吾氏と共著、毎日新聞出版)、『 ハラスメントの境界線 セクハラ・パワハラに戸惑う男たち 』(中公新書ラクレ)などがある。講演、テレビ出演など多数。

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