髪がなくてもおしゃれをしたい ヘッドスカーフに託す女心

News&Column

髪を失っても、隠さず前向きに生きてほしい――。子育てに専念する主婦だった時、多発型の円形脱毛症を患った角田真住さんは、同じ状況にある女性たちへの願いをこめて、頭をおしゃれに装うヘッドスカーフ販売の起業を決意しました。来年からの本格販売に向けて、その思いを聞きました。

私、女性だったんだ

――多発型円形脱毛症と知った時は、どんな思いだったのですか。

 専業主婦として2人の子育てに追われていた35歳の時に発症しました。自分の見た目がどんどん変わっていくのがショックというか、不思議な感じがして。「自分の容姿を隠さなきゃいけない」と、だんだん外に出て行けなくなり、何か月も落ち込みました。

 多発型円形脱毛症 髪の毛が突然、円形に抜ける箇所が複数表れる病気。免疫の異常で毛根が攻撃されて起こると考えられている。頭部全体に広がる「全頭型」や1か所だけの「単発型」なども含め、円形脱毛症は日本人の0.1-0.2%が発症するとされる。

――ヘッドスカーフを身に着けるようになったのは。

 当初はウィッグを使っていたのですが、肌荒れしやすい性質なので、家族や気の置けない友人と出かける時は、気軽に出かけられるようにと手持ちのスカーフを巻くようになったんです。ある日、紫の地に青い模様のスカーフを頭に巻いていたら、友人に「それ、かわいいね」と言われて、すごく気持ちが明るくなりました。

――それが起業に結びついたのですね。

 それまでウィッグを着けて「ばれないかな」「何て言われるかな」と思っていたのが、「おしゃれだね」「すてきだね」と言われるようになって、気持ちが180度変わったんです。女性ってこんなふうに、見た目を整えることや、身に着ける物で気持ちが変わるんだなって。子育てもあってファッションから遠ざかっていたのですが、改めて、「私、女性だったんだ。ファッションって楽しい」と思い、スカーフに合わせてアクセサリーやメイクを考えるようになりました。この気持ちを、同じ症状の人にも伝えるために、スカーフを商品化したらよいのではないかと思い、地元の起業塾に参加しました。

「反つぶし」って何ですか?

――事業化は順調だったのですか。

起業塾では、計画が表彰されました。でも実は、「これでいいのかな」と思ってもいました。私は主婦からのスタート。他の参加者がビジネスの経験や知識を踏まえて採算や相場観を考えるのに対して、私は「自分が身に着けたい物を作る」と、「思い先行型」でした。計画を作るために縫製会社に相談に行った時も、「『反つぶし』じゃないとやらないんだよね」と言われて面食らいました。1反(約50メートル)単位の布を使い切る量でないと生産しないという意味なのですが、そのときの私は知識がなく「反つぶしって何ですか?」と言ってしまい、話が全然かみ合わなかったのです。考えている事業は独りよがりなんじゃないかと不安でした。

ヘッドスカーフは、半球状に整えた布地を頭にかぶせて覆い、同じ布地で作った付属のバンドで結います。素材はポリエステルかコットンですが、肌の弱い人向けに、群馬産の絹を使った裏地も別売りするつもりです。

 

――その不安はどのように乗り越えたのですか。

いろんな人の声を聞こうと、ツイッターなどのSNSで自分の取り組みを紹介しながら、連絡を取ってきた患者さんたちの交流会兼試着会を企画しました。その中で、「このヘッドスカーフがあるからこそ前向きになれます」という声をたくさんいただいて、自信を持てるようになりました。髪の薄くなった女性や、乳がんを患った家族にプレゼントしたいという男性など、思いも寄らない人たちに興味を持ってもらえたことも発見でした。

「一人じゃない」と気づく場を

――当事者の方たちとの出会いから、どんな発展がありましたか。

ASPJのプロジェクトで撮影したウェディングドレスを来た髪のない女性たち(イシヅカマコト撮影)

SNSを通じて、私と同じ病気を抱えながら、頭を出した状態で写真を公開していた女性たちと知り合いました。その姿がすごくきれいで。彼女たちと接しているうちに、「『脱毛症は病気でかわいそうで隠していなければならない』という感覚は違うんじゃないか」と、強く思うようになりました。つるっとした女性の頭は見慣れていないと驚くけど、知った上で一人一人と接すれば、それはその人を作る要素の一つでしかなくなる。見慣れてもらおうと意気投合して、2017年8月にAlopecia Style Project Japan(ASPJ、Alopeciaは英語で脱毛症という意味)という団体を設立しました。

――活動内容は。

ニューヨークのオフブロードウェーでパフォーマンスを披露したり、各地で写真展を開いたりしています。また、東京都内で毎月、交流会を開いています。LINEに登録しているメンバーは700人くらいいて、毎回30人ほどが参加します。

――参加する方たちは、どんな話をするのでしょうか。

皆さん話すのが「同じ症状の人に会ったことがなかった」ということ。孤独で、どうしてよいかわからないわけです。例えば、「結婚や就職ができないのではないか」といった不安を抱えた人も、交流会で結婚も就職もした人と出会える。ウィッグを着けると頭が蒸れやすいので、どう猛暑を乗り切るかという話もします。今まで誰にも言えず思い悩んでいたことを笑いながら話すことで、「一人じゃないんだ」と気づいてもらえる。そんな場になってきています。

ヘッドスカーフは隠すためのものではない

――ヘッドスカーフ販売の事業と、ASPJの活動で、相乗効果はありますか。

起業する時から、「髪がなくなっただけで気持ちが暗くなったり重くなったりするのはおかしいのではないか」という疑問を持っていました。それで始めることにしたのが、ヘッドスカーフ販売です。自分の中で症状を受け入れることができると、ファッションを楽しむような気持ちになれる。その気持ちにさせるソフト面がASPJの活動であり、サポートするためのハード面がヘッドスカーフだと思っています。

――今後の展開は。

来年初めには、ヘッドスカーフ6種類をインターネットで販売する予定です。頭を隠すためのものではなく、ファッションとして日常的に楽しんで身に着けてもらえる物として打ち出していきたいです。希望の多い、地方での交流会の開催も行いたいですね。

(聞き手・読売新聞政治部 梁田真樹子 写真・吉川綾美)

角田 真住(つのだ・ますみ)
Armonia代表

1977年生まれ、群馬県出身。2013年春に多発型円形脱毛症を発症。起業塾を経て、ヘッドスカーフの制作・販売を手がける合同会社「Armonia」(イタリア語で「調和」という意味)を16年9月、群馬県桐生市で設立。翌17年8月、脱毛症などに悩む女性と子どものサポートを行う団体「Alopecia Style Project Japan」を設立し、共同代表に就任。家族と暮らす群馬県伊勢崎市を拠点に、講演活動なども精力的に行っている。