166億円の経済効果、タイの菜食週間「ギンジェー」を体験してみた

News&Column

屋台の人気メニュー、ココナツミルクのプリン「カノムタコー」

タイでは年1度、「ギンジェー」と呼ばれる菜食週間が催されます。主に中華系タイ人の間で行われてきた習慣で、毎年旧暦の9月1日から9日間にわたり、肉や魚、乳製品のほか、ニラやニンニクといった香りの強い野菜も食べるのを控え、心身を清めるというものです。デトックス(解毒)を期待し、記者も様々な菜食料理を試してみました。

菜食屋台で生春巻きやそうめんサラダ

今年のギンジェーは、9月28日~10月7日に行われました。バンコクでギンジェーの中心地といえば、地元では「ヤオワラート」と通りの名前で呼ばれる中華街です。期間中、約1.5キロの通りに沿って菜食料理の屋台がずらりと並び、大勢の観光客らでごった返していました。

焼きそば「パットミースワ」(20バーツ=約70円)、串に刺さったキノコのつみれもどき「ルークチンヘッホーム」(10バーツ=約35円)、生春巻き「クイッティアオルイスワンジェー」(40バーツ=約140円)など、種類の多さに圧倒されます。

肉そぼろやゆで卵に見える具材が並ぶヤムカノムチーンの屋台

どこから見ても肉そぼろやゆで卵にしか見えない具材が気になり、そうめんサラダの「ヤムカノムチーン」(50バーツ=約175円)を頼んでみました。屋台主のオームさん(28)が「全部ゼラチンで作ったのよ」と教えてくれました。ゼラチンは植物性ではないと思いましたが、ライムの酸味がさっぱりとおいしい一品でした。

デザートで人気を集めていたのが、ココナツミルクのプリン「カノムタコー」(4個で50バーツ=約175円)です。こちらは濃厚な甘さと、中に入ったトウモロコシの粒の歯ごたえが楽しめました。屋台主のポンサックさん(29)は、「この時期に中華街を訪れる観光客は年々増えている」と、商売繁盛を喜んでいました。

中国からプーケットに伝わる

中華街では、「ジェー」と書かれた黄色の横断幕や旗がたくさん掲げられていました。また、上下ともに白い服を着た人たちもちらほら。「齋」には、「清浄な」「神に仕えるため、けがれを避けて謹慎すること」といった意味があり、熱心な人は期間中、白装束に身を包んで精進するそうです。なお、「ギン」はタイ語で「食べる」を意味します。

ギンジェーの由来には諸説ありますが、19世紀、中国福建省から多くの中国人がタイ南部プーケットに移住した際、一緒にもたらされた習慣といわれています。中国本土では廃れたようですが、プーケットでは100年以上も受け継がれてきました。道教の神さまとされる「九皇大帝」の誕生日が旧暦の9月1日にあたるそうです。プーケットで頬に刃物を刺して練り歩く奇祭とともに観光客の関心を集め、タイ全土に広がったとみられます。

おしゃれなギンジェー、日本人に人気の店も

「Tai guan cafe」の豆乳入りのタイティー(左)とコーヒー

屋台だけでなく、ギンジェーに対応したメニューを出すおしゃれな飲食店にも足を運びました。中華街からチャオプラヤー川に向かう路地にある「Tai guan café(泰源カフェ)」では、豆乳を使ったタイティー(70バーツ=約245円)とコーヒー(77バーツ=約270円)を提供していました。どちらも甘さ控えめで、日本人の好みに合いそうでした。

このカフェは、約200年前に福建省出身のオーナーによって建てられたという民家をリノベーションし、5月にオープンしたばかりです。店内は中央が吹き抜けになっており、中国風の明かりがいくつもつりさげられ、「SNS映え」間違いなしの空間でした。

バンコク中心部の商業施設「サイアム・パラゴン」に入るタイ発のアパレルブランドが手がけるレストラン「another hound café(アナザーハウンドカフェ)」には、洋食メニューがありました。一番人気というキヌアサラダ(Quinoa Salad、260バーツ=約920円)は厚揚げやアボカド、マンゴー、ザクロの実などが入っており、味はもちろんのこと、彩りも豊か。

「SALADee」のナスの生姜焼きとひじきご飯(手前)と、豆腐そぼろご飯(奥中央)、パパイアサラダ(奥左)

バンコク中心部ビジネス街にある「SALADee(サラッディー)」では2012年のオープン以来、和食中心のギンジェーを実践しているそうです。ギンジェー向けの特別メニュー「ナスの生姜しょうが焼きとひじきご飯」(180バーツ=約635円)は、しょうゆの味わいにホッと安心できる定食でした。定番メニューでもある「豆腐そぼろご飯」(100バーツ=約350円)や、パパイアサラダの「ソムタムサラッディー」(80バーツ=約280円)は、何度でも食べたくなるおいしさ。日本人会社員も多く訪れることから、店主の青澤直子さんは、「ギンジェーというタイの文化を紹介するとともに、肉を使わずとも健康的でおいしい料理があることを広めたい」と話していました。

健康志向で拡大傾向

ギンジェーは飲食店にとどまらず、商業施設やコンビニなどでも大々的に展開されています。バンコク中心部のスーパーマーケットでは、菜食料理の特設コーナーが設けられ、スナック菓子や調味料などに「齋」あるいはタイ語で「ジェー」と書かれた黄色のシールが貼られていました。

タイ語で「ジェー」と書かれたシールが貼られたレタス

菜食に決まっているレタスやトマトといった生野菜にまでシールが貼られていて、不思議です。マーケティングの担当者によると、「顧客の関心をより引きつけることができ、売り上げが伸びるから」と説明していました。生産者からの要望でもあるそうです。

地元大手商業銀行「カシコン銀行」の調査機関が9月24日に発表した調査によると、2019年のギンジェーのバンコクにおける経済効果は47億6000万バーツ(約166億6000万円)と見込まれ、前年を2.4%上回る勢いでした。バンコクで「菜食に参加する」と回答した人の割合も、「若い世代を中心に、より健康的なライフスタイルを目指すトレンドを反映」し、66.7%と、前年の57.1%より増加。所得水準が上がり、食生活の欧米化などにより生活習慣病や肥満が問題になっていることもあり、ギンジェー市場は今後も拡大しそうです。

記者も数日間菜食を取り入れたことで、体調が整うのを実感しました。ギンジェーの時期にタイを訪れることがあれば、デトックスを兼ねて、菜食料理にトライしてみるのもいいかもしれません。
(読売新聞バンコク支局特派員 大重真弓、写真も)