カラーストーンの魔術師 マリーエレーヌ・ドゥ・タイヤック

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撮影・水島優

カラーストーンを多彩に使うフランスのジュエリーデザイナー、マリーエレーヌ・ドゥ・タイヤックさんの作品をまとめた本「GOLD AND GEMS THE JEWELS OF MARIE‐HÉÈNE DE TAILLAC(ゴールドとジェムストーン マリーエレーヌ・ドゥ・タイヤックのジュエリー)」が発売されました。パリで、ジュエリーや石への思いを聞きました。

宝石箱のような本

何年もかかって完成した本は、224ページ。そこに、200点ものカラー写真がおさめられています。カラーストーンやこれまでにデザインしたジュエリーの写真。そして幼いころの家族との写真など。本そのものがまるで宝石箱のようで、ページを繰るのが楽しくなる本です。

マリーエレーヌさんのジュエリーは、カラーストーンを多用しています。あまり聞いたことのないカラーストーンまでスポットライトをあて、一気に注目を集めました。石の美しさだけでなく、個性も十分に引き出す独創的なデザインだったからです。

石を手のひらにのせてみる。光があたったらどう見えるか。透明度なども大切ですが、まず自分がどう感じるか。直感を大切にしています」。石と向き合っていると幸せで、じっと眺めていると、時間を忘れてしまうほどだそうです。

石を手にのせてみるタイヤックさん(左、水島優撮影)、パリの装飾美術館に収蔵されている大きな色石を使ったカボションリング(右、ブランド提供)

これまでに数多くのジュエリーをデザインしてきました。大きな色石を使ったカボションリングは、パリの装飾美術館に収蔵されています。レインボーカラーの石を絶妙なバランスで配したネックレスは、とても独創的です。またカラーストーンをオウムやリスの形にカットしたイヤリングなど、自然や動物を題材としたデザインも発表しています。

リスをデザインしたピアス(ブランド提供)

マリーエレーヌさんは、幼いころ、リビアやレバノンで育ちました。ジュエリーはそのころから好きだったそうです。

「古代の遺跡を巡ったり、親がくれた絵はがきに描かれたイランのシャーの王冠の写真に見入ったり。パリに戻ってからもよく宝飾品店のウィンドーを眺めるのが、とっても楽しみでした」

アメリカで宝石学を学ぶつもりでしたが英語ができなかったため、18歳で英語を学びにロンドンへ渡りました。しかし実際には、有名なコスチュームジュエリーやオートクチュール、帽子のデザイナーのもとで働き、デザインから販売までを学び、次第に創作への思いが強まっていったといいます。

「本格的な宝石の勉強をしたことがなく、ジュエリーデザイナーになったという点が人とは違うかもしれませんね」

1995年、アジアを旅し、インドのジャイプールに滞在したことがその後の運命を決定づけることになりました。見たこともないカラーストーンの豊富さ。高度な技術を持つ金細工の職人たち。その奥の深さに、ジャイプールが活動の拠点となりました。

ステータスシンボルや男性のためではない

そして96年、自身のブランドをスタートさせました。

当時のフランスでジュエリーは保守的でドレッシーすぎるデザインばかりで、自分が身につけてみたいと思うものが見つからなかったというのも、ブランドを始めた理由のひとつでした。

私は、女性が自分でジュエリーを買うようになった第1世代私たち女性がつけたいものをつけるのであって、ステータスシンボルや男性のためではありません

かつて14カラットのダイヤの指輪をして、ボディーガードが付き、夫のコントロールのもとに生きている女性の姿をみて、「ジュエリーは自分が幸せになるためのもの」と強く思ったのだそうです。

レインボーカラーの色石を絶妙に配したチェーンネックレス(1997年)ブランド提供

また、石は透明度が高いほうがいいという人もいますが、「何万年もの時をへて自然が作り出した石の個性をできるだけ生かしたい」というマリーエレーヌさんは、包有物なども含めた美しさを見極めるそうです。使う金は22金。目立ちすぎず、古代の遺跡から発掘されるような鈍い輝きを放ちます。ダイヤモンドは明るいところで見ていると強すぎて目が疲れてしまうので、あまり好みません。

ジュエリーは一生身につけることができ、子供たちや友達にもあげられる。自分の人生を超えていく存在」というマリーエレーヌさん。そのジュエリーからは、様々な文化の中で暮らしてきたという生き方に裏打ちされた、美意識や価値観が見て取れます。

(読売新聞編集委員 宮智泉)

マリーエレーヌさんの本はRIZZOLIニューヨーク刊(日本語訳のブックレット付き)。9200円(税抜き)。東京・青山のMHTと伊勢丹新宿店、阪急うめだ本店で販売しています。