応募者の写真をSNSで問い合わせ…履歴書の情報開示はどこまで?

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写真はイメージです

求職活動に欠かせない履歴書。でも、その管理を巡ってはトラブルもあるようです。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、「人事担当者が応募者の履歴書写真をフェイスブック(FB)で同業の知り合いに送り、問い合わせていた」という投稿がありました。問題はどこにあるのでしょうか。専門家に聞いてみました。

トピ主の「くまっきー」さんはある日、人事担当の上司が職場の共有パソコンでログインしたFBをたまたま見てしまったそうです。その上司は、求人に対して応募してきた人の履歴書の写真を同業の知り合いに送り、「この人知っていますか? どうですか?」と聞いていたのです。

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「これまで少人数の社員同士で『この人どうだろうね?』と(履歴書を)見せることはありましたが、SNSで見せるなんて驚いてしまいました」と「くまっきー」さん。発言小町に「履歴書に書いてあることはプライバシーですよね。見せていいのは、どの範囲までなのでしょうか」と尋ねました。

履歴書写真のSNS共有は明らかにNG

この疑問に答えるべく、プライバシー問題に詳しい弁護士の森亮二さんに聞きました。

「履歴書は、企業があくまで求人活動のために提出してもらうのであって、その利用目的の範囲内で社内活用すべきものです。履歴書の写真を、選考企業の担当者がSNS上で共有するのは、明らかにアウトです」。森さんはそう話します。

履歴書の顔写真は、たとえば「氏名」や「生年月日」などと組み合わせていなくても、単一で個人情報に当たります。FBなどSNSには一部の人だけに公開を限定する機能がありますが、「軽く考えてはいけません。限定していても法的には本人の同意が必要な第三者提供となりますので、適切な管理とは言えません」と森さんは指摘します。

弁護士の森亮二さん(東京・港区の弁護士法人英知法律事務所で)

顔写真はそれだけで個人情報

個人情報保護法は、保護が必要な情報を「個人情報」「個人データ」「保有個人データ」の三つの概念に分けています。生存する特定の個人を識別できる情報が「個人情報」、検索できるように体系化されたデータベースなどに含まれる個人情報を「個人データ」、個人データのうち、保有者に開示したり消去したりする権限があって、6か月を超えて保有しているものが「保有個人データ」です。

「個人データ」と「保有個人データ」は、原則として同意が必要な「第三者への提供」の規制対象になりますが、顔写真1枚だけだとデータベースに含まれるものではないため、ただの「個人情報」で規制対象にはなりません。「複数の人から応募があって、応募者の個人情報をデータベース化していたのかどうかで、個人データと称することができるかどうかの判断が分かれます。その意味で、この投稿のケースが個人情報保護法違反の事案といえるかどうかは微妙ですが、たった一人の応募者だとしても、個人情報である顔写真とともに求職中である事実を公表することは、プライバシー侵害の不法行為に当たる可能性が高く、いずれにしても違法です」と森さんは強調します。

過去の職場での評判を聞くには

「くまっきー」さんの投稿には、こんな意見もありました。

「履歴書そのものを第三者に見せるのはダメですけど、『○○さんって人が、うちの会社受けに来たんだけど、前評判どうなの?』と聞くのは普通にありますよ。『リファレンスチェック』というものです」(「おおば」さん)

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これについて、森さんは「『リファレンスチェック』は通常、中途採用などのケースで、採用企業が、応募者の元の職場の上司や同僚に対し、実績や人柄、勤務態度などを問い合わせるものを指していて、応募者本人の有効な同意が必要です」と話します。

外資系企業などでは、推薦人やその問い合わせ先を記入するように応募者に求めるケースもあります。「企業側の求めに応じて記入はしていても、本心では元の職場にまで問い合わせをしてほしくないと思っていることもあり、その場合は、有効な同意とは言えません」と森さん。

今年に入って、就職情報サイト「リクナビ」を運営する「リクルートキャリア」(東京)が就活生の「内定辞退率」の予測データを企業に販売していた問題が起きました。森さんは「選考過程で、採用側の企業の論理と、求職側の個人の論理は鋭く対立しています。インターネット上の行動履歴などがスコア化され、本人が気づかないうちに選考に使われてしまう時代になったとき、個人の権利はどう守られていくべきなのか。身近な履歴書の扱いとともに、時代に合わせて議論していく必要があると思います」と指摘します。

企業の論理か 個人の論理か

「gura」さんからはこんな体験談も。ある企業の海外拠点の採用担当者から「最終選考に残った人が以前、お宅で働いていたと履歴書にあるが、どんなだったか?」と問い合わせの電話がかかってきたそうです。問い合わせに該当する人物は、「gura」さんの会社の元社員で経理を担当していましたが、上司と一緒に不正をして解雇されていたため、「gura」さんはそのように答えました。採用担当者は、インターネットで「gura」さんの会社の電話番号を調べて問い合わせたといいます。「(求職者が)応募した会社が、前の会社に連絡をとることはあり得ます。自分が人事なら、そうしたいです」と「gura」さんは言い切ります。

働く仲間を求める立場からはそんな本音もあることでしょう。とはいえ、情報社会が進むほど、履歴書の管理や取り扱い方について、企業に慎重な態度が求められていることだけは間違いないようです。

(読売新聞メディア局編集部 永原香代子)

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