「働きながらこそ、勉強は生きる」 幅広い分野の学び直しで自分を発見

リカレント教育

「もっと専門知識やスキルが必要なのに、学ぶ余裕がない……」「このままでいいのか」。5年後、10年後を見通したキャリアプランを立てようと思っても、毎日、その場その場の仕事に追われてしまって、漠然とした不安を感じることはありませんか。でも、今は、社会人を対象にしたリカレント教育の一環で、働きながら通える大学の講座なども増えています。自分に合った“学び直し”を探してみるのも良いかもしれません。

「私は、会社の外でも役に立つの……?」入社10年目で感じた不安

NTTドコモ(本社:東京都千代田区)に勤める山近祐加子さん(36)は、今年2月までの半年間、働きながら明治大学の社会人向け講座に通いました。

入社は2006年。地域の販売店担当や営業など幅広い業務を経験してきましたが、入社10年目を過ぎたころから、漠然とした不安を感じるようになりました。

山近祐加子さん

「自分が得た知識やスキルは、会社の外では役に立たないのではないか」「このまま漫然と働き続けていいのだろうか」――そういった思いを払しょくしようと、これまでの業務とは全く異なるグループ会社への出向を希望しました。

ところが、出向先で山近さんはがく然とします。配属されたのは経営企画部門。初めて経験することばかりで、同僚に聞かなければ財務諸表は読めず、販売戦略を立てようにも、肝心の消費者ニーズをつかめません。基礎知識に欠けていると痛感したのです。

「もっと浅く広くでもいいから、基礎知識をぎゅっと学び直さなくてはと焦りました」

「夜間や土日に受講できる」「金額が高すぎない」「短期間で習得できる」。この三つを条件に、急いで学び直しの場を探し始めたとき、目に留まったのが、明治大学駿河台キャンパス(東京都千代田区)に貼り出されていた社会人向け講座「女性のためのスマートキャリアプログラム」のポスターでした。

働きながらこそ「勉強」は生きる

15年度に始まったこの講座は、ライフスタイルに合わせて通えるよう、昼間と夜間・土曜の2コースが用意されています。マーケティング戦略や金融・財務リテラシーといった必修科目のほか、企業分析やコミュニケーション術など、幅広い分野の選択科目の中から、半年間で計120時間以上を受講。修了した人には、履修証明書が交付されます。金額は15万8000円、受講料の最大7割にあたる教育訓練給付金も支給されます。

山近さんは、夜間・土曜のコースに通い始めました。受講ペースは、週に3、4日。平日午後7時から始まる講義に間に合うよう、朝早めに出社して残業しないで済むようにしたり、社内や友人との飲み会を減らしたりして時間をやりくりしました。

「それでも、仕事との両立はハードでした。どうしても欠席しなくてはならない日には、講義の録音テープをお借りして補い、課題を提出したこともあります」と、山近さん。

一方で、効果を実感することもありました。山近さんは、マーケティング戦略の方法や論理的思考など、講座で学んだことを翌日の仕事で試すようにしていました。「インプットとアウトプットを短い周期で繰り返せたので、学生時代よりも学習がすぐに定着したんです。勉強って、働きながらやってこそ、生きてくるのかもしれませんね」

仕事の自信につながった

職場で仕事に打ち込む山近さん(=山近さん提供)

今、山近さんは本社の新規事業部門で働いています。そこでも、講座で学んだノウハウが生きていると感じています。他の企業と協業して、忙しく時間がとれない家庭をターゲットに、5分で2品の料理を作れるミールキットを提供するという新規事業では、山近さんが提案した「時間を生み出せる」というメリットをアピールしていくことになりました。

「以前の私であれば、『5分で2品作れます』ということを素直にアピールしていましたが、最近は、それによって生まれる価値は何かというところまで考えられるようになったと思います」と山近さんは話します。

「学んだ知識は確実に仕事に生きているし、幅広い分野の基礎を学んだことが自信につながり、いつの間にか漠然とした不安も消えています」

早大や関西学院大もリカレント教育

働きながら学びたい人向けのリカレント教育は、他大学でも取り組みが広がっています。

早稲田大では2017年、東京・日本橋にリカレント教育の拠点「WASEDA NEO」を開設しました。平日の早朝や夜間を中心に、起業家の養成やリーダーシップ、文書作成のノウハウなど、年間で約150講座を用意。単発講座から履修証明プログラムなど、様々な形態があり、昨年度は3000人ほどが受講しました。

写真はイメージです

大阪・梅田で、社会人向けの講座を開いている関西学院大学では、14年から女性リーダー育成コースも設けています。MBAコースの1年目の内容をコンパクトにまとめたもので、平日夜間や土曜に開講。グループワークなどを通じて、組織マネジメント力と経営知識を身につけます。企業の役員や管理職の女性が、受講者の相談に乗る「メンター相談会」なども行っています。

焦ってやみくもに手を出さない 

「社会人になってから、自分の将来やキャリア形成に漠然とした不安を感じる人は多いです。でも、そんなときこそ、焦りにまかせて、やみくもに資格取得やステップアップを目指すのではなく、今の自分に何が必要かをじっくり考えてみることが大切です」。女性のキャリアカウンセリング事業を展開しているキャリアアドバイザーの藤井佐和子さんは、そう話します。

藤井さんの元に相談に訪れる女性の中には、仕事の合間をぬって資格や専門知識を得たものの、生かせていないケースも少なくないそう。

「せっかくお金や時間をかけて学習したものが生かされないのは、もったいないです。今後、仕事でどんなポジションに就きたいのか、もしくはどんな副業をしたいのか……一度立ち止まって考え、その目標のために、必要なスキルが学べる場所を探してみましょう」と藤井さん。具体的な目標が定まらない場合はどうしたらいいのでしょうか。藤井さんは、「今の仕事の延長で、不足しているスキルは何かと考えながら、幅広い分野の基礎知識を学べるプログラムに参加するのも良いかもしれません」と話します。

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学びの場を選ぶときの留意点として、藤井さんは次の3点を付け加えます。

<1>  学んだスキルの生かし方について、よく情報収集しましょう。
まずは、自分の目指す職種に就いたり、スキルを持っていたりする人を探して、話を聞いてみましょう。ホームページなどで、経験者の声を掲載している大学も多いので、参考にしてもいいです。また、同じ受講生同士で情報交換できるのも、通学講座の良さ。迷っているときほど、インターネット上だけで完結する講座よりも、通学講座を選んだほうがよいです。

<2>  頑張りすぎない! 期間中通い続けられるかどうかを吟味しましょう。
働きながら通うということは、移動時間も含めて、自分の時間をねん出しなくてはなりません。フレックスタイムをうまく利用するなど、工夫を前提とするにしても、あまりきつい計画を立てないことも必要です。

<3>  教育訓練給付金などの制度を知りましょう。
講座によっては、教育訓練給付金が支給されるものもあります。ただし、支給されるのは受講が修了した後など、意外と知らないことも多いので、事前にハローワークで相談してみてください。

最近では、費用を負担したり、独自の教育プログラムを設けたりする企業も増えているそう。藤井さんは「費用や時間など、自分が無理なく学べるものを選んでくださいね」と呼びかけています。

(取材/読売新聞メディア局 安藤光里)