職場でパンプスを強制されたくないという声が出るほど、パンプスの履き心地の悪さを訴える声は絶えません。「『苦痛』ではないパンプス」はないのか。そんな要望に応えようと、販売店や靴メーカーは様々な知恵を絞っています。その最新の成果を紹介します。
実寸データベースでぴったり
伊勢丹新宿店(東京都新宿区)は8月28日に婦人靴売り場を全面改装し、併せて靴の実寸データベースを使ったサイズ合わせのサービスを始めました。

同店は国内外8ブランドのパンプス約1000種類で、足に触れる内側各所の寸法をデータベースにしました。客は3次元計測器で足の形を調べ、データベースが提案する「相性の良さそうな靴」を試着出来ます。
サイズ合わせによく使われる「23.5E」などのサイズ表示ですが、実は目安に過ぎません。実際の寸法は履き心地やデザインに直結するので企業秘密となっていて、メーカーは販売店にも明かしていません。
同じブランドの同じサイズのパンプスでも、デザインが違うと実寸が異なることも少なくなく、無数の靴から「自分にぴったり」の1足を探しだすのは、簡単ではありませんでした。
伊勢丹新宿店は今回、8社と秘密保持契約を結んでデータベース化し、さらに複数の社とも交渉中だそうです。
同店シューカウンセラーの大泉ユリノさんによると、多くの人は自分のサイズを勘違いしていて、適正サイズより大きい靴を履いているそうです。靴が大きすぎると、靴の中で足が前に滑って、爪先の狭い部分に指が押し込まれ、外反母趾になりかねないそうです。
試着もなかなか面倒なので、展示品を2、3足履いただけで決めてしまう人も少なくありません。このあたりが、合わない靴で苦痛を味わされる原因になっているそうです。新サービスなら素早く効率的に、ぴったりの1足が探せるということです。
同店の2万円台のパターンオーダーサービスも、甲ストラップ付きデザインと立体中敷きのオーダーが可能になりました。
就活中の女子学生の間では、「透明バンドで足の甲と靴底を縛って固定すると、楽になる」という豆知識が知られていますが、甲ストラップと中敷きで足を上下からしっかり包みこめば、ぐっと歩きやすくなるそうです。
パンプス初心者向けに設計
履きやすさ最優先で設計された靴も増えています。代表格の一つが、慣れないパンプスに苦しむ就活生向けに開発され、手ごろな価格の仕事靴として広まった「レディワーカー」です。スポーツ用品大手アシックスのグループ会社「アシックス商事」(神戸市)が販売しています。

かかとが抜けないように履き口を強くすぼませ、土踏まずを大胆に盛り上げた立体中敷きで足を支えます。爪先にはゆとりを持たせ、歩きやすさと靴ずれ防止につなげました。
5000円台が中心のお手頃価格で、この価格帯では珍しく、横幅は豊富な3サイズが用意されています。2015年に発売されたときは、黒1色でヒールも3~5.5センチだけでしたが、18年にはオンオフ兼用のカラーパンプスや、7センチヒールも加わりました。
ヒールにこだわり
3次元計測器で調べた足の形に合わせて作るパターンオーダーサービスの先駆けで、「お手頃価格で、履きやすいハイヒール」と支持を広げているのが、全国の百貨店などに10店舗を展開する「キビラ」(東京都中央区)です。

普通は別々に作るヒールと靴底を一体成形して、特に頑丈に作る独自製法が特徴です。かかとに体重を乗せてもヒールと靴底がよじれにくく、安定して歩けるといいます。低反発材の立体中敷きで、足への負担も軽くしました。
色や素材などの選択肢も豊富で、ファッション性も重視しています。それでいて価格は9900円(税別)からと、「試しに1足作ってみよう」と思える価格に抑えました。ユニクロ出身の創業者がノウハウを生かして国内の製造工場と直接取引し、製造コストを大幅に下げたといいます。
同店の売れ筋は7センチヒールですが、仕事用に5センチ、おしゃれ用に9センチを使い分ける客も多いそうです。「他のブランドより楽に履ける分、高いヒールに挑戦したい」という買い方も、少なくないそうです。
ポスト・パンプス?
パンプスに代わる仕事靴として注目を集めているのが、本革紳士靴と同じデザインの「トラッドシューズ」です。ヒールが低めでもきっちり感があって、年齢を問わず、違和感なくパンツスーツに合わせられます。
伊勢丹新宿店は売り場改装で、こういった靴を集めた「ドレスシューズ」のコーナーも設置し、国内外10ブランドを集めました。柔軟性のある本革製で、靴底が張り替えられる物も少なくありません。履くほどになじんで、長く使えます。

ウォーキングシューズの要素を取り入れた、より歩きやすいタイプも増えています。靴大手「アキレス」(東京都新宿区)が8月に「パンプスに代わる働く女性の新定番」として発売した「ASC4160」(税込み1万5120円)は、本革製の本格靴に、衝撃吸収力の高い靴底やかかと材を加えました。
ライトグレーやボルドーなど柔らかい色合いもそろえ、オフィスカジュアルやオンオフ兼用でも活用できそうです。
男性記者がパンプスを試着してみると・・・
ところでこの記事を書いた記者は男性ですが、取材に先立ち、某メーカーにお願いして5センチヒールのパンプスを試してみました。
うん、世の男が「靴」だと思っているものとは全く別の物でした。不安定な爪先立ちで、かかとに体重を乗せると靴がねじれ、よろめいてしまう。パンプス専用の歩き方を身に付ける必要があります。
「7センチなんて無理。実用性なら3センチ以下」と思いましたが、関係者によると、「5センチでも足りない」という女性が多く、まして3センチ以下は人気薄、購入者の年齢も高めだとのことです。
私も周囲の女性に聞いてみましたが、皆、「ヒールを低くすると、何かに負けたような気がする」と口をそろえます。「何か」とは何なのか。いろいろな意味で、軽々しく論じるべき問題ではないことは、理解できました。(読売新聞経済部 庄野和道)