フリーランスの妊婦に産休制度はない? 早期の復職で産後うつに

妊娠と仕事

育休制度の対象外 上の子が保育園退園も

会社に雇われない形で働く美容師やプログラマー、弁護士などフリーランスの女性は、原則として働く妊婦を守る制度の対象外となっている。妊娠中の体調不良や産前・産後の休業にも明確なルールはなく、無理を重ねがちだという。

「生後3か月なのに、もう保育園に預けているんですか。かわいそうに。重い感染症にかかるのは、覚悟してくださいよ」

群馬県内で語学教室を営む女性(30)は昨年11月、小児科医に言われて悲しくなった。「できることなら、もう少し子どもの面倒をみたかったし、自分の体調だって元に戻るまで休みたかったけど……」

産前・産後休業や育児休業など妊婦を守る制度は、雇われて働いていることが前提で、語学教室を営む女性は対象外だ。

自宅兼職場の語学教室で、2人の子どもと過ごす群馬県の女性

産後も早々に働き出さなければ、上の子どもが保育園を退園となることすらある。女性は「妊娠中も含め、自分の裁量で好きなだけ休めばいいと思われるかもしれないけれど、生徒もいるし、休めばその分だけ収入が途絶えてしまう。長くは休めない」と話す。

妊娠中に無理を重ねたり、産前・産後に十分に休めなかったりすると、後になって母体に悪影響を及ぼすケースは多い。このため労働基準法などは、出産後8週間を産後休業として、原則女性の就労を禁じている。

希望すれば休業できる産前6週間と合わせ、一定の収入がある人には給料の3分の2が健康保険組合から出産手当金として給付される所得補償もある。

妊娠中の体調不良に伴う休業も医師の診断書があれば、同じく給料の3分の2が健保から給付される。ただ、原則、雇われて働く妊婦のための制度だ。

保育園に預けず早期に復職、体が悲鳴

女性は1人目の子どもを妊娠4か月で流産した後、2週間で仕事を再開。雇われていれば認められる産後休業(流産も含む)は自分にはなかった。

次の子どもは出産直前まで働き、出産後は保育園にも預けず復職した。まもなく吐き気や頭痛に悩まされるように。受診すると、産後うつと診断された。「体調も整わないうちから仕事復帰していっぱい、いっぱい。もう少し休んでと、体が悲鳴を上げたのだと思う」と振り返る。

仕事を休めば収入が途絶え、上の子の保育料や社会保険料などの出費で貯金は減るばかり。同じ働く妊婦なのに、妊娠中に体調不良で長期入院しても、産前産後を休んでも手当はない。「妊娠のハードルが高すぎる」。そう感じずにはいられない。

無謀な働き方多く、流産翌日も入院中も仕事

「仕事復帰は何日になりますか」。広報コンサルタントとして起業していた東京都内の女性(42)には5年前、伝えてあった第2子の出産予定日の翌日、区役所から電話があった。何日も休むようなら長男(当時3歳)の保育園の退園を検討するという内容だった。

妊娠中、体調不良で何度も入院。最終的には母子の命が危ないと、予定日より2週間以上早く緊急出産した。産後も体調は安定せずに入院は長引き、ようやく自宅に戻ったばかりだった。「まるで一日も休まず働けと言われているみたい」。追い立てられるように翌月、仕事復帰した。

妊娠中、担当医から「フリーで働いている人が一番危ない。絶対に無理しないで」と注意されたことを思い出した。「流産しても翌日から仕事せざるをえなかった」「入院中もベッドの上でパソコンを開いていた」――。フリーで働く仲間の妊娠期は、無謀ともいえる働き方ばかり。起業した女性の妊娠・出産は世間が想定していないように感じた。

「確かに、在宅ワークができる日もあってフリーランスは子育てなどとは両立しやすいかもしれない。でも、妊娠・出産は別。私たちは、妊婦を守る制度の外側に置かれている気がする」と女性は言う。

働きやすさを求めて独立を考える後輩女性から、相談を受けることが増えたが、「子どもがほしいなら会社員のうちに産んだ方がいいよ。妊娠中に体調が悪くなっても、流産や早産になっても、休めないから」と諭している。

妊娠中、4か月仕事を休んだ。医師は診断書を書いてくれたが所得補償はなく、無給だった。「国は起業を支援しているのに、起業した女性が妊娠・出産できる環境は整っていない。少子化対策にも逆行するのではないか」

産後1か月以内に復帰 半数近く

フリーランスの女性らで作る団体と女性経営者有志らが2017年に行った調査によると、出産後も働き続けた20~50歳のフリーランスら353人のうち、労働基準法が定める産後休業(産後約2か月)よりも短い産後1か月以下の休業しか取らずに仕事を再開した人は44.8%。出産後に体調不良が続いたという人は4人に1人にのぼった。

調査を実施したプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の平田麻莉・代表理事は、「覚悟してフリーランスの働き方を選んでいるといっても、出産に伴う命や身体の危険までは背負いきれない」と指摘する。

同協会などは、「母体を守る観点から見ても問題がある」として、産前・産後休業にあたる期間の社会保険料免除や所得補償、妊婦が安心して体を休めることができるような制度を求めている。

今年4月からは、産前・産後休業にあたる期間の国民年金保険料の免除が実現したが、雇われて働く人との差はまだ大きい。平田さんは「この問題は、政府が打ち出す女性活躍や働き方の多様化の推進を阻害する要因の一つ」と話す。

(読売新聞社会保障部 大広悠子)

あわせて読みたい
・流産の危険あっても点滴を打って出社 非正規で働く妊婦の現実