流産の危険あっても点滴を打って出社 非正規で働く妊婦の現実

妊娠と仕事

働く妊婦は、なぜ体調よりも仕事を優先してしまうのか。今回の「妊娠と仕事」シリーズでは、派遣社員やパート、フリーランスなどで働く女性が、妊娠した際に直面する課題について考える。

妊娠8月で結局、契約切り…30歳派遣社員

「あなたの仕事をする社員が採用できたので」

今年6月末、そう理由を告げられ、千葉県内の女性(30)の派遣契約は終了した。妊娠8か月。労働基準法で定める産前休業を取得できるまで、あと2週間あまりだった。

「もう少しなのに。ここまで頑張ったのに」。体調不良をおして、仕事を続けてきた女性は、帰宅後、夫を前に号泣した。

予定日6週前に「無職」、育休・産休なし 保育園も難しく

出産予定日6週間前まで雇用されていないと、産前・産後休業も育児休業も利用できない。出産時から「無職」扱いとなり、産後、乳児を抱えて就職活動をしなければならなくなる。求職中では、保育園の入園も格段に難しくなる。「職場復帰できない」。目の前が真っ暗になった。

嫌な予感はしていた。2月、母子手帳をもらいに行くため、初めて平日に会社を休んだ。

すると翌日、役員から「来月で契約を終了したい」と告げられた。「妊娠したから辞めてもらうんじゃない。妊婦は仕事を休むから、困るんだ。休んだ方がいいよ、赤ちゃんのためにも」

派遣会社の担当者は、「妊娠を理由にした契約終了は禁じられている」と反論してくれたが、会社側は「妊娠が理由ではない」と主張した。

「一日も休むわけにはいかない」

女性はやりとりを聞き「もう、一日も休むわけにはいかない」と思い詰めた。何とか契約は続けてもらえたが、以後、どんなに体調が悪くても満員電車に乗って東京都内の会社まで休まず通った。法律などでは、時差通勤を申し出ることが可能なことも知っていたが、「クビになりそうな状況で、言い出せるわけない」と諦めた。

結局、状況を見かねた派遣元が、急きょ産休まで2週間雇用する形を取り、女性は退職を免れた。しかし、産休に入った数日後、子どもは早産で生まれてしまい、保育器の中へ。「仕事のことでずっと張りつめていたせいだと思う。働きながら2人目なんて考えられない」と女性は話す。

3週間入院、点滴打ち出社…36歳パート

「有給休暇を使い切って欠勤が続いた」「病気ではないのに、長期の休みは認められない」などの理由で、体調を崩した妊婦が、事実上の解雇に追い込まれるケースは少なくない。「切迫流産で入院中に電話がかかってきて、復帰時期が分からないからと契約終了にされた」という女性もいる。

横浜市のパート女性(36)も5年前、無理して会社に通い続けた妊婦の一人だ。

第2子妊娠と同時に食事がほとんどとれなくなった。体重は2か月で7キロ減り「命にかかわる」と医師に制止され入院。有給休暇はあっという間になくなった。「次に休んだら、代わりを(雇う)と言われてしまうだろう」。辞めないといけなくなると思った。

3週間後、退院すると歩くのも精いっぱいというほど体力は落ちていた。流産の危険も指摘されたが、朝、点滴を打って出社した。「絶対に休めない」と、必死だったという。

女性には、第1子の出産の際、当時働いていた別の会社から妊娠8か月で退職を迫られ、産休も育休も取れなかった苦い経験がある。産後は、懸命に就職活動をしたが、保育園もなかなか決まらず、長く仕事復帰できなかった。「無職で出産したら、どれだけ大変か」と振り返る。

「会社の言い分がおかしいと分かっていても、自分と赤ちゃんを守ることで精いっぱい。声を上げる余裕はなかった。肉体的、精神的に追いつめられた妊婦に、自ら『辞めます』と言わせるのは簡単だ」

企業は重く受け止めを

NPO法人「マタニティハラスメント対策ネットワーク」理事の佐々木奈緒子さんは、「妊娠に伴う体調不良で休んだり、仕事の能率が落ちたりしたことを理由に解雇されるケースは法律違反だが、後を絶たない。『無理をしないと仕事を失うかもしれない』と感じる妊婦がいること自体を企業は重く受け止めてもらいたい。家族や周囲に助けを求め、声を上げてもらうことも大切だ」と話している。

妊娠・出産…実質約半数が退職か

国立社会保障・人口問題研究所が、2010~14年に出産した女性について調べたところ、妊娠前から働いていた女性のうち、「妊娠が分かってから出産後1年までの間に退職した」人は、46.9%にのぼる。

一方、厚生労働省の雇用均等基本調査では、同じ時期に出産した在職中の女性のうち育児休業を取得したのは8割以上で、このうち約9割が職場復帰している。

この差については、雇用均等基本調査で「在職中」と扱われるのは、少なくとも出産予定日の6週間前まで雇われていた女性に限られることが影響しているとみられる。それ以前に退職していた場合は、出産時に「無職」扱いとなる。調査の対象外となるため、登場した女性たちのような状況はなかなか表面化しにくい。

(読売新聞社会保障部 大広悠子)