アメリカの人工妊娠中絶規制に思うこと

弁護士三輪記子の「女もつらいよ!」

過激な言動が世界の注目を集めるトランプ米大統領。その動向が気になる事態が今、アメリカで起きています。

南部のアラバマ州の議会上院が今年5月、性的暴行などによる「望まない妊娠」も例外とせず、ほぼすべての中絶を禁止する米国内で最も厳しい人工妊娠中絶法案を可決しました。その後、トランプ大統領の支持者が多い保守的な南部の州を中心に、人工妊娠中絶を厳しく規制する州法の成立が相次いだのです。

米国では1973年に、人工妊娠中絶を規制する法律を違憲とした最高裁の判決が確定しています(これは「ロー対ウェイド事件」と呼ばれています)。ところが、トランプ大統領は大統領選の際、中絶に反対する立場の最高裁判事を任命するという選挙公約を掲げていました。つまり、トランプ大統領がその公約を実行すれば、かつての最高裁判決が覆されるかもしれないと言われているのです。

自分の人生を自分で決める権利

米国で人工妊娠中絶を規制する法律が違憲とされ、これが支持されてきたのは、人工妊娠中絶が女性にとって「自分の人生を自分で決める権利」として認められていることを意味します。

人工中絶をめぐる世界的潮流をざっと振り返ってみましょう。79年に女性差別撤廃条約が採択され、81年に発効しました。日本は85年に同条約に批准しています。この条約には「締約国は……男女の平等を基礎として……子の数及び出産の間隔を自由にかつ責任をもって決定する同一の権利並びにこれらの権利の行使を可能にする情報、教育及び手段を享有する同一の権利を確保する」と定められています。つまりこれは、「子供の数や出産の間隔を決定する権利」として、人工妊娠中絶が認められていると解釈できます。

94年のカイロ国際人口開発会議では、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康及び権利)」の推進などが宣言されました。「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」とは、分かりやすく言えば、恋愛、セックス、妊娠、出産といった「性と生殖」に関するすべての行為について自分で決定する権利があるというもので、人工妊娠中絶の権利も含まれるとされています。

日本では年間16万件の中絶

ところで、日本では母体保護法により、妊娠22週未満の人工妊娠中絶が許容されています。22週を過ぎて中絶をした場合は、刑法の堕胎罪になります。厚生労働省の調査によると、2016年度の日本での人工妊娠中絶件数は16万8015件。一方、堕胎罪で起訴されたケースは、14年から17年の間はゼロとなっています。

多くの女性が自分の人生を自分で選択することができているとも言えそうですし、「男性に避妊を言い出せず、心ならずも妊娠してしまった女性がこんなに多いのか……」といった受け止め方をする人もいるでしょう。厚労省の調査からは中絶に至った事情までは知ることができませんが、中絶する権利とともに、男女が対等な立場で性交渉ができるようになることも大切だと言えそうです。

若い世代への教育を

お隣の韓国では今年4月、刑法の堕胎罪について、「妊婦の自己決定権を過度に侵害している」として、憲法裁が違憲とする判断を下しました。このように、中絶する権利が女性の自己決定権として認められるのが世界的潮流と言えます。

しかし、トランプ大統領は、このような潮流に挑戦するか、無視するかのような政策を進めようとしているように思えるのです。

ここで、86歳の今も現役という米最高裁の女性判事、「RBG」ことルース・ベイダー・ギンズバーグの公聴会での発言(93年)を引用します。

「子どもを産むかどうかは、女性の生き方・幸福と尊厳にとって確信的な決断です。それは、その女性本人が自らのために決断すべきことなのです。その決断を政府が女性にかわって行うならば、その女性は、自らの選択に責任を負うべき成熟した大人として扱われていないということにほかなりません」

そうなのです。女性だけではなく、全ての人は自らの人生を選択する自由を持っています。しかし、この自由も誰かに与えられたものではなく、法律の改正や裁判によって勝ち取ってきたものです。言い換えれば、この自由はいつでも制限される可能性があるということなのです。

「中絶規制はアメリカの話でしょ?」と思う人がいるかもしれません。はたしてそうでしょうか。米国で起こったことが日本では絶対に起こらないのでしょうか。この問題を機に、「人生を選択する自由」について、今一度考えてみてほしいと思います。

私は、人工妊娠中絶は女性の自己決定権の一つとして認められることは当然だと考えますが、中絶は大きな精神的・肉体的負荷がかかることも事実です。ですから、中絶という結果を招かないよう、とりわけ若い世代に対し、性交渉は対等な関係において行われるべきだということなどをしっかり教育し、避妊についての知識習得を徹底させることも大切だと考えています。

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三輪記子
三輪 記子(みわ・ふさこ)
弁護士

 三輪 記子(みわ・ふさこ) 弁護士。1976年生まれ、京都市出身。東京大学法学部卒、立命館大学法科大学院修了。2010年、弁護士登録。「白熱ライブ ビビット」(TBS系)、「キャスト」(朝日放送)などにレギュラー出演し、コメンテーターとしても活躍中。2017年に女性弁護士2名の事務所「東京ファミリア法律事務所」を開設。