夫に「死ねばいいのに」…なぜ平気で使う言葉になったのか?

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イライラしたとき、相手に対して「死ね」と思ってしまうことはありませんか。思うだけならまだしも、最近は、軽々しく口に出してしまう人もいます。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、横断歩道でぶつかりそうになっただけで、見知らぬ女性から「死ね」と言われたり、小学6年の娘から宿題ノートに「ママ死ね」と書かれたりした経験が寄せられています。「死ね」を平気で使ってしまう理由を言葉の専門家に聞きました。

逆切れして「アホ!死ね!」

トピ主の「snfkn」さんは50代。スーパーに行こうと信号待ちをした交差点から歩き始めたところ、後ろから来た若い女性から追い抜かれ、すぐ前を横切られたために、女性の足にけつまずき、危うく転びそうになりました。「危ないなぁ」と声に出すと、その女性から逆切れされ、「お前が危ないんじゃ!」「アホ!死ね!」などと言われたそうです。

「人に死ねだなんて。それも知らない人に。あり得ないです。そんな言葉、私は今までもこれからも、人に言う事など絶対ありません」と「snfkn」さん。

これとは別に、「小学6年生の娘に死ねと言われました。」というタイトルの投稿もありました。トピ主の「ルナ」さんは、夏休み前、娘が宿題用に使っていたノートに「ママ死ね」と書いて、そのまま担任の先生に提出してしまったそう。本人に問いただしたところ、「イライラして、つい書いた」とのこと。「いつも、『死ね』とか『うざい』とか、人を傷付ける様な言葉は、絶対言ってはダメ! と伝えているので、文章でストレスのはけ口にしていたのかもしれません」と「ルナ」さんはつづります。

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「死ね」と思ってしまうのをやめたい

イライラするとすぐに「死ね」と思ってしまうのは、若者ばかりともいえません。33歳で3人の子どものいるトピ主「ゆりし」さんは、子どものころから自分にそんな傾向があることに気づいていて、普段から口に出さないように気をつけていました。ところが、ある時、夫に対して「死ねばいいのに」と言ってしまったそうです。

「後悔しています。そもそもすぐ『死ね』と思うのをやめたいです。どうすればいいでしょうか」と発言小町で意見を求めました。この投稿には40本余りの反響がありました。共感を示す意見と、具体的な対策方法の両方です。

昔、父親に同じようなことを言ってしまったという「匿名」さんは「(父からは)笑いながら一番傷ついたのはアレだなと言われることがありますよ、本当につらかったんだと思います」と書き込みました。身近な家族だからこそ、相手を傷つけたくて、言ってしまうこともあるようです。

「言葉に出さないならいいのではないでしょうか?」と書いたのは、「明日」さん。実姉に対して思ってしまうこともあるそうで、時間をかけて一人反省会をし、「関わらないようにしよう!」と思い直すそう。

具体的な対策として、「死ね」以外の言葉に置き換え、他の言葉をつなげることを提案する人も目立ちました。

「同じ気持ちを表すなら『消えろ』でもよくないですか? これだと絶命ではなく、あなたの目の前からいなくなれば実現するので、表現としてはやや穏当になります」(「えりい」さん)

「『死ね…じゃなくて、タンスの角に足の小指ぶつけろ』『…じゃなくて、ブロック三日続けて踏んづけろ』『食事の時、寝ぼけて口の内側の肉をかんでしまえばいいのに』とか。『地味だけど、命にはかかわらないけど、強烈にダメージを食らうこと』のバリエーションを探していたら、楽しくなるかも」(「匿名」さん)という書き込みもありました。

正義の味方の「決めゼリフ」

なぜ、「死ね」を平気で使ってしまうようになったのでしょうか。「語彙力がないまま社会人になってしまった人へ」の著書がある大東文化大学准教授(文献学)の山口謠司さんに聞いてみました。

「死ね」が日常的に使われるようになった背景を説明する山口准教授(大東文化大で)

山口さんは、親や教師から「決して口にしてはいけません」「そんなことを言ったら罰があたる」などとたしなめられた「死ね」という言葉が、日常的に使われるようになった背景には、社会の変容があると考えています。「最近は『人生100年』と言われるように、『死』を身近に感じられなくなりました。戦争、病気、事故などで家族のだれかが亡くなるという体験が少なくなっています」と山口さん。

1970年代以降、怪獣映画や仮面ライダーなどの特撮ヒーローものが人気になると、劇中で「死ね~!」というセリフが頻繁に出てくるようになりました。地球を滅ぼす悪の組織や人間を襲う不気味な怪人をやっつける正義の味方の決めゼリフです。

その後、マンガやゲーム、SNSなどで「死ね」はどんどん身近な言葉になります。人気マンガ「北斗の拳」で「お前はもう死んでいる」というセリフもありました。2016年には、「保育園落ちた日本死ね!!!」というタイトルのブログが話題となり、共感したママたちがSNSで拡散しました。戦闘ゲームの中では、次々に出現する敵を「死ね!死ね!」とやっつけます。

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「死ね」「死んで」「死ねばいいのに」

若者の間では、SNSによるコミュニケーションが活発になるのに伴い、短縮語がもてはやされるようになってきました。「やばい」は否定・肯定を問わずスゴイ様子全般を指し、幅広い場面で使われています。「タピる」(タピオカドリンクを飲む)、「テンアゲ」(テンションが上がる)など抽象的な表現や略語も目立ちます。「り(了解)」「マ(マジ?)」など一文字で表現するケースもあります。

こうした言葉のトレンドの中で、「簡潔に嫌悪感を示したいときに、『死ね』が都合のいい言葉として選ばれているのかもしれません」と山口さんは指摘します。

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さらに、「死ね」という命令語ではなく、「死んで」(依頼)、「死ねばいいのに」(願望)などの言い回しも浸透しています。「まるで自分の意思からは遠く、自分への批判や中傷をあらかじめ回避しようとしているかのようです。不快感やイライラを『死ね』の一言で片づけてしまうのは、思わぬ誤解を招き、想像以上に誰かを傷つけてしまうかもしれません。言葉は繰り返し使われることで、人から人へと口癖のように伝染していくので、気を付けたいですね」と山口さんは強調します。

たしかに、テレビでバラエティー番組を見ていると「死ね、ぼけ!」などの言葉をよく耳にします。つい、笑ってしまうこともあります。普段から、違和感や疑問を持つことが大切だと改めて思いました。(メディア局編集部 鈴木幸大)

【紹介したトピ】
知らない女の子に「死ね!」と言われました
小学6年生の娘に死ねと言われました
すぐ「死ね」と思うのをやめたい

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山口 謠司(やまぐち・ようじ)

1963年、長崎県佐世保市生まれ。大東文化大学大学院、フランス国立高等研究院大学院を経て、大東文化大学准教授。専門は書誌学、音韻学、文献学。「今年のにほんごコンテスト」(石川県加賀市主催)選考委員長。『日本語を作った男――上田万年とその時代』(集英社インターナショナル、和辻哲郎文化賞受賞)、『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』(ワニブックス)、『心とあたまを刺激する音読』(海竜社)など著書多数。