「これ以上、何をしろというんだ」 僕の心の中に渦巻く不満

これって産後クライシス? (4)

僕たちには、夫婦仲が悪化する「法則」があります。
①僕の仕事が忙しくなり、余裕がなくなる
②志穂は僕への気遣いからSOSの発信を控え、僕は「志穂は順調」と思い込む
③志穂がストレスに耐え切れず発したSOSに、②の思い込みから的確に対処できない
――というもので、割と最近まで繰り返してきました。

盛岡勤務を終えて2014年秋に政治部に戻った後も、このパターンでした。2015年初めに長女の里奈が生まれ、育児の負担はそれまでの倍以上になって志穂にのしかかっていました。

しかし、忙しさにかまける僕は、志穂の状態をまたもや見逃してしまいます。

ある日、仕事中に志穂から届いたSOSのメッセージに、僕としては励ます意味で、軽いタッチで「なんとかなるよ」的な返信をしました。具体的な内容は覚えていません。それほどに、深刻にはとらえていなかったのです。

僕のその返信が、志穂の逆鱗げきりんに触れました。人ごとのように感じたのでしょう。孤独や苦しさに共感してくれないことへの憤りでした。

帰宅後、何を言い合ったか、定かではありません。ただ、志穂は「どう思ってるか知らないけど、私たちの関係が当たり前のように続くと思ったら大間違いだからね」と言い残し、康太と里奈を連れて九州の実家に帰ってしまいました。

その後、僕が有効な手を打てたわけではありません。それでも離婚という事態を回避できたのは、実家で育児のストレスが和らいだのと、その間に志穂が一念発起し、帰京後に新しく仕事を始めたことが大きな要因でした。

つまりは、志穂の「強さ」に救われたのです。

志穂が働き始めたことは、いろいろな意味で転機になりました。志穂の外での活動が増えるにつれ、家事や育児の話題ばかりだった夫婦の会話に幅が出てきたのは、明るい変化でした。

ただ、これで万事解決、とはいかなかった。

夜遅くに原稿の締め切りがある新聞記者の職業柄、子どもの世話が最も大変な保育園のお迎えから寝かしつけまでに帰宅できることはめったになく、土日に急な仕事が入ることも珍しくありません。

志穂は、結婚前にしていた仕事のスキルを生かし、すぐにいろいろなプロジェクトに携わるようになりました。フルタイムで忙しい日々を送る志穂にとって、僕がいない日の「ワンオペ育児」への不満が、以前にも増して大きくなってきたのです。

志穂の僕に対する攻撃的な口調も、いつしか元に戻ってきてしまいました。

そして悪いことに、当時は僕の方でもかなりのストレスを抱えていたのです。

僕の毎日は、こんな感じでした。

仕事を終えて家族が寝静まった家に帰り、皿洗いと部屋の片付けと掃除をして、乾いた洗濯物をたたみ、翌朝の洗濯機の予約をセットしてから就寝。3~4時間だけ寝て、朝は洗濯物を干してゴミ出しを済ませ、康太と里奈を保育園に送ってから出勤。仕事を終えたらまた夜遅くに帰宅して……(以下、繰り返し)。休日はなんとか確保できていましたが、その日に志穂の予定が入れば、今度は自分が「ワンオペ」です。

その頃の職場は、内政全般や外交・安全保障、危機管理から政権の不祥事まですべてに対応しなければならない首相官邸クラブ。仕事は多忙を極め、慢性的な寝不足で体はいつもくたくた、心も徐々にすり減っていきました。すり減ってとがった心は、やがて志穂や、イクメンたることを迫る社会風潮への「敵意」に変わっていったのです。

特に志穂から「男の人は仕事を優先できていいけど……」などと非難される時は猛烈に反感を覚えました。

これだけきつい中で頑張ってるのに「仕事で楽してる」みたいな言い方はなくない? だいたい、ネットとかで「育児より仕事の方が楽」的なことを語ってる男を時々見かけるけど、そこまで迎合する必要ある? それって、「仕事=大変、家事・育児=楽」という女性を苦しめてきた図式を逆さまにして、男を苦しめてない? 産後クライシス対策で「夫の家事が少ない」とか「妻に一人の時間をあげろ」とかいろいろ言うけど、家事をしたって、一人の時間をあげたって、全然効果ないじゃないか! 「男性も家事や育児の大変さを理解することが必要です」なんて言われても、こんなに体を酷使してぼろぼろにして、これ以上、一体何をどう理解しろっていうんだ!

当時の僕の中では、いつもそんな不平が渦巻いていました。

といって、口に出して発散していたわけでもなく、ひたすら毒を腹にため込んでは不機嫌の沼に沈んでいたのです。(つづく)

◇◇◇

読売新聞の政治部記者が、産後クライシスに陥った夫婦関係を見つめ、夫の立場から解決策を探る自らの体験を綴ります。

※記事に登場する家族の名前は全て仮名です。

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小坂一悟(こさか・いさと)

読売新聞東京本社政治部記者

2000年に入社し、千葉支局を経て06年から現職(うち12~14年は盛岡支局)。政治部では主に自民党や首相官邸などを担当。41歳。結婚14年目の同い年の妻と、長男(8)、長女(4)の4人家族。