外国人が増えた今、気をつけたい「髪にまつわる常識」

サンドラがみる女の生き方

写真はイメージです

前回のコラム「黒髪は『キチンとした髪』? ニッポン人の固定観念に物申す」の中で、日本の社会は様々な場面で「黒髪」にこだわる傾向があるということを書きました。そして、髪の色と同時に日本では、「髪がストレート」であることにも重点が置かれがちです。今回は、そんな日本特有の感覚に触れ、海外の事情とも比べながら、「身だしなみ」の観点から女性の髪形について考えてみたいと思います。

クセ毛は「なおす」べきもの?

何年か前に縮毛矯正をした時、毎日の髪のお手入れがとても楽になりました。髪がストレートだとなんだか写真うつりが良くなった気がして、大満足でした。ちなみに今もまた縮毛矯正をしたいなと思うことがありますが、美容師さんに相談したところ、「今はカラーリングなどで髪が傷み過ぎていて、縮毛矯正をしても、ちゃんとまっすぐにならないかもしれない」という恐ろしいお言葉をいただいてしまいました。縮毛矯正を含むヘアスタイルのことよりも、まずは髪の健康を第一に考えなくてはいけないようです。

そんなこんなで私も縮毛矯正をしたことがあるのですが、やっぱり気になっていることがあります。日本ではまっすぐでない髪は「クセ毛」と言われたりしますが、これには明らかにネガティブな意味合いがあるように感じるのです。現に日本では「クセ毛で困っているの」「髪が猫っ毛で困っている」という言葉をよく耳にします。言葉狩りだと言われればそれまでですが、そんな理由から私は「クセ毛」という言葉自体があまり好きではありません。日本の社会で「クセ毛」という言葉が使われるとき、「なおすべきもの」という文脈で語られることが多いのです。「黒髪信仰」と似たようなもので、日本の学校や会社などには「まっすぐな髪がスタンダード」で「まっすぐな髪=きちんとしている」という固定観念があるのでした。

ヨーロッパの場合は、「髪をまっすぐにしなければいけない」という考え方はあまりありません。日本でいう「クセ毛」の女性はヨーロッパのほうが日本よりも多いはずなのに、縮毛矯正がそれほど一般的ではないのは、やはり「生まれ持った髪のままでいい」という考え方が支持されているからだとも思います。実際に、ヨーロッパ系の航空会社の客室乗務員やグランドスタッフは、日本人の感覚からすると「ワイルド」に見える髪の人もいるのです。

しつこいようですが、世界にはそれこそ「クセ毛」の人はゴマンといますので、「直毛でなければ、キチンとした髪形とは言えない」という考えは厳しいものがあるなと、最近思うようになりました。

直毛で広がらない髪は清潔感がある?

日本では、接客業などでストレートの髪が適切だと考えられていることも多いようです。会社によってはわりと気軽に社員の髪質について言及したりしているようです。ただ今後、日本の労働市場には「新たな外国人材」が増えていきます。そうした中で、日本人の中に無意識にある「ストレートの髪がスタンダード」という考えのもと、「機械に髪が挟まれたら危険」といった業務上必要な理由がある場合を除いて、軽い気持ちで社員の髪質に言及したり、「こういう髪形にしてほしい」と告げたりすることには慎重になったほうが良いかもしれません。

「郷に入れば郷に従え」という考えもあるかもしれませんが、「清潔感のある髪は、直毛で広がらない髪」という考えを、髪質が様々な外国人に当てはめるのは無理があるのではないでしょうか。

現に、日本の会社で働くヨーロッパ出身の知人女性は、元からウェーブのかかったロングヘア(あえてクセ毛とは書きません)ですが、髪を結ばずに出勤していたら、日本人の上司から「清潔感がない」「縛ってほしい」と注意されたとのことです。ただ、同じ職場の日本人女性は、ストレートのロングヘアを垂らしたままにしており、髪は縛っていませんでした。
知人女性からすると、「なぜ、生まれつき髪質がストレートの日本人女性は縛らずに髪を垂らすのがオッケーで、生まれつきウェーブがかかっている自分の髪は垂らしてはいけないのか」と考えてしまいます。一歩間違えると人種問題に発展しかねないので注意が必要です。世界にはいろんな髪質の人がいる上に、日本のように「仕事のためには自分の髪形をも変えなければいけない」という発想を持っている人ばかりではないからです。

アメリカでは……

アメリカでは、「美しい髪」や「公の場やビジネスの場にふさわしい髪」の基準として、白人の髪質や髪形をスタンダードにしてきました。しかし、黒人の縮れた髪質では「ポニーテール」や「アップ」にまとめても、後れ毛が多く出て広がってしまいます。髪の毛が広がらないようにと、黒人がかねてからよくしていた「コーンロウ」「ブレイズ」「ドレッドロックス」「ツイスト」といった髪形にすれば、これもまた「きちんとした場にふさわしくない」と受け入れられませんでした。黒人の髪質を理解しようとしない白人の意見が幅を利かせていたのです。

結果的に多くの黒人女性が、生まれ持った髪をヘアエクステンションやストレートパーマによって「白人のスタイル」に近づけることを余儀なくされてきました。このような歴史を抱えたアメリカでは、2017年にミシェル・オバマ前大統領夫人が、ストレートパーマなどを施していない「生まれ持った髪」のまま公の場に出たとき、歓喜の声が上がったほどです。

髪色や髪質が違う人のことを考慮せず、旧来のマナーを振りかざすのは、自分たちとは異なるバックグラウンドを持った人を排除することにもつながりかねません。「ふさわしい髪形」とはいったい何なのでしょうか。今後、介護や外食業などの分野で外国人がますます増える日本において、今一度、考え直してみませんか?

サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

 ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住20年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ」(ヒラマツオ共著/メディアファクトリー)、「爆笑! クールジャパン」(片桐了共著/アスコム)、「満員電車は観光地!?」「男の価値は年収より「お尻」!?ドイツ人のびっくり恋愛事情」(ともに流水りんこ共著/KKベストセラーズ)など。
 「ハーフを考えよう!」http://half-sandra.com/