ユニクロで挑戦する ダイバーシティー経営

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小木曽麻里さん(東京都港区のファーストリテイリング東京本部で)

6月に大阪で行われた主要20か国・地域首脳会議(G20サミット)では、女性の労働参画や起業をテーマにした会合も開かれました。女性活躍にとどまらず、ダイバーシティー(多様性)が尊重され、誰もが働きやすい社会を実現するために、日本に何が求められているのでしょうか。金融・経済の視点からこの問題に取り組み、6月から、ユニクロを展開する「ファーストリテイリング」の社長室でダイバーシティーを担当する小木曽麻里さんに、世界の潮流や日本の役割について聞きました。

――ジェンダーの視点を企業の評価に取り入れる「ジェンダー投資」に、前職の笹川平和財団で取り組んでいました。

感情論ではなく、エビデンス(証拠)に基づいた議論ができないかと考えていたところに、投資家も同様の議論を始めていました。それが「ジェンダー投資」です。「女性がいる方が企業のパフォーマンスが上がる」という認識が投資家の間で受け入れられるようになりました。

女性の収益力は、日本では手つかずの“ブルーオーシャン”と考え、アジアでのジェンダー格差是正を目的とする「アジア女性インパクトファンド」を2017年に作りました。100億円を原資に、経営層に女性が多く参加している企業などに投資し、運用益を東南アジアでの女性起業家支援に充てるというもので、ドルベースで4%を超える運用実績を上げています。

ジェンダー投資とは 女性の経営への参画や男女の採用人数、賃金格差、育児休業の取得率などを評価項目として、機関投資家(年金基金、保険会社、信託銀行など)がこれらの評価の高い企業に対し、優先的に投資すること。欧米で広がり始め、日本でも動きが出てきています。

――ジェンダー投資のメリットや可能性はどんなところですか。

良い点は、評価項目がはっきりしていることですね。収益を担保するためにジェンダーに関する具体的な指標に着目するという投資家の視点は、経営者の視点とも一致すると思うんです。

データに基づいて企業の業績と結びつけた話をしないと、世の中は動かない。女性管理職を一定数入れる「クオータ」の効果があることは国際的にも共通理解ができていますが、そうした制度的なものを入れ込まないと、格差を是正するのは難しいんです。

死ぬ前にジェンダー問題に取り組みたい

――キャリアのスタートは、女性が少ないとされる日本の銀行でした。

男女雇用機会均等法の施行後、30年ほど前に日本の銀行に総合職として入行しました。でも入ってみると、同期約140人中女性は11人。お茶くみは女性の仕事で、受付も女性ばかり。男性がプロフェッショナルで女性はアシスタント、という構図を感じました。女性が皆、制服を着ている中、違う服で出勤していた自分は、女性からも不思議な存在だっただろうと思います。

――その後、ワシントンの世界銀行に移った時は、違いを感じましたか。

「なんてこの職場って心地いいんだ」と思いました。結果を出すことに重きを置き、そこまでのプロセスは個人に任せる、ダイバーシティーのある組織だったからです。部署で女性が少なくなれば、女性を優先的に採用したり昇進させたりするし、国籍のバランスも考えられていました。家の事情を優先して朝ゆっくり来るのもOK。女性も含め誰もが自由に働ける。そのための解が、世銀にはありました。

――日本と海外で働き方や文化の違いを感じたことが、ジェンダー問題に取り組むきっかけになったのですか。

世界銀行グループを経た後、日本を見てみると、受付といった業務には女性しかいないし、長時間労働も残っている。「女性を増やすと収益が減る」と口に出す方までいて、就職した頃とあまり変わっていなかった。そこで、笹川平和財団に移る際に、「死ぬ前に一度、ジェンダー問題に取り組みたい。日本の状況を変えなくては」とお願いしたんです。

女性がいる方が企業のパフォーマンスは上がる

――ファーストリテイリングでは、投資家の目線ではなく、企業の中に入って取り組みを続けることになりますね。

会社でのダイバーシティー推進やジェンダー平等、従業員らの人権擁護、また、それらに関わる広報を担当します。ジェンダー投資の指標を、企業には実践項目として採用してほしいと思っていたので、企業側でその議論を深めていく立場になれればと思っています。利益を出すことと、ジェンダーを含めた多様性の実現を両立する場合、どこが接点なのかを見ていきたいですね。

日本は独自の解を

――G20サミットでは、「女性」もメインテーマの一つでした。

G20サミットに先行して行われた女性政策に関する国際民間会議「W20」では、提言のドラフト作成にも一部関わりました。G20首脳宣言では、ジェンダー投資について初めて文言が盛り込まれ、驚くと同時に、うれしい限りでしたね。男女の経済格差や女性の起業の促進など、W20の提言がかなり反映されて、関わったメンバーとは「活動してきたことがすごく生かされた」と喜び合いました。

――政治の世界に期待することはありますか。

重要なのは、この首脳宣言の内容がどの程度、実行されていくかに尽きると思います。何かしなくてはと考えている中小企業などに具体策や道筋を示して、予算の裏付けをしてほしい。また、クオータ制と男女の賃金格差は、国内でもっと議論してもらいたいところです。

――世界から学ぶべきところは。

ILO(国際労働機関)などが、男女の賃金平等達成に向けた「同一賃金国際連合(EPIC)」という構想を始めたので、昨年、その設立会合に出席しました。海外の企業関係者が次々と「うちの会社は、男女の賃金格差ゼロを達成しました」と発表していて、驚きと感動で涙が出るくらいでした。それだけのことが世界では起こっているので、日本もこれらの事例からもっと学ばないといけないですよね。

目指すところはダイバーシティー。多様な働き方が受け入れられ、男女ともにより働きやすい社会の実現です。たまたま女性が不利な立場に置かれた場合にてこ入れをする。反対になったら男性をてこ入れする。一方的に女性の活躍や昇進を後押しするものではない。そこを間違えないことが大事なのではないでしょうか。日本も、日本独自の解を見つけないといけません。

(聞き手・読売新聞政治部 梁田真樹子、撮影・安斎晃)

小木曽 麻里(こぎそ・まり)

ファーストリテイリング社長室部長。日本長期信用銀行(現新生銀行)勤務などを経て、ワシントンと東京の世界銀行グループに10年以上勤務。その後、開発分野における戦略コンサルタント「ダルバーグ」の日本代表を経て、公益財団法人笹川平和財団ジェンダーイノベーショングループ長。アジア最大規模である100億円の「アジア女性インパクトファンド」を設立し、女性起業家支援、ジェンダー投資の推進を行う。2019年6月より現職。国際協力銀行海外投融資のアドバイザーなども務める。