遊説、握手、常に神対応 政治家に求められる能力とは 

参院選・辛酸なめ子が行く(上)

イラスト・辛酸なめ子

21日に投開票が行われた参院選。社会保障や改憲、消費増税などを争点に舌戦が繰り広げられました。選挙戦はどう行われ、どんな人々が携わっているのでしょうか。読売新聞長野支局の企画として、独特の視点で世間を描くコラムニスト、漫画家の辛酸なめ子さん(44)に長野選挙区(改選定数1)の選挙現場を歩いてもらいました。

選挙カーの遊説に密着

7月上旬、長野県東信地方で、ある候補者の選挙カーでの遊説に密着しました。これまで選挙カーといえば「騒々しい」というイメージしかありませんでした。

候補者やウグイス嬢を乗せた選挙カーは、集落の狭い路地に入り込んでいきます。田畑が広がるのどかな中山間地も進みます。

あまりに細かく回るので、東信地方の全ての道路を巡ったような気分です。一人でも多くの有権者に自分をアピールするという並々ならぬ気合を感じました。

遊説中、候補者はマイクを持ってしゃべりっぱなしです。白い花畑の脇を通った時に「あれがソバの花だよ」と教えてもらったぐらいで、私語も一瞬の隙もなく、こちらも背筋が伸びました。

有権者を見つけると「2階からありがとうございます!」など、すかさず「住民いじり」。子ども連れの母親には「お子さん、こんにちは」、中山間地では「農作業お疲れさまです」などトークを使い分けます。犬と散歩中の女性には小声で話し、細かな配慮も見られました。

選挙カーからは候補者の名前も連呼。候補者にとっては、自分の名前が好きじゃないと、なかなか厳しい行為かもしれませんが……。

候補者と近い距離感

話し続ける候補者には、車内にあったのどあめ、のどケア用のスプレーが必需品のようです。時折あめをなめ、少しでも沈黙すると 阿吽あうん の呼吸でウグイス嬢がしゃべり始めます。

車内では、ウグイス嬢の席の前に貼られた紙も気になりました。「国民目線」など文字がびっしり。絶対に間違えてはならないので、候補者名には読み仮名が振ってあります。

候補者の街頭演説に耳を傾ける辛酸さん(手前)

選挙カーから降り、要所で街頭演説も行います。選挙カーからはあいさつや名前ぐらいしか耳にしない一方、街頭演説では政策をじっくり聞くことができました。

街頭演説の会場では候補者をニックネームで呼んだり、絶妙なタイミングで演説に合いの手を入れたり、候補者をよく知っている有権者が多いように思いました。都会の選挙より候補者との距離が近い印象です。

また、候補者はニコニコしながら有権者の元に駆け寄って握手。候補者自らが駆け寄ってくれるとは、CDを何枚も買う必要があるアイドルの握手会とは大違いです。政治家オタ(ファン)は幸せかもしれません。

こんな選挙活動が朝から晩まで続くなんて、私だったら30分が限界です。体力、コミュニケーション力、精神力、忍耐力――。政治家になるには、様々な能力が求められると痛感しました。

辛酸 なめ子(しんさん・なめこ)
コラムニスト・漫画家

 1974年生まれ。独特の視点で世相を分析するスタイルが人気。著書に「大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ」など。